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五回表「騎士として、人として」②

 それから、どれくらい経っただろうか――。

 記憶があいまいで、今も頭がふわふわしているものの、息はできるし手も動く。どうやら命は助かったらしい。

 程なくミリッツァは平原の一角にシュペルブを留まらせる。


「あ、あの……」

「何も言うな。ボクはバカなやつは嫌いだが、大バカなやつは嫌いじゃない」

「えっ」

「そうだな。キサマの行動はたしかに勇気のある行動だった。だがいつ何時、勇敢と無謀は紙一重だと思え」


 金髪をなびかせ歩いてくるジゼルの表情はいつになく厳しく見えた。


「リゼット、リゼットはどうしたんだ? それにあの子供も……」

「両方無事だ。今は気を失っているが、命に別状はない」

「でも、どうして俺たちを助けに?」

「地震の知らせが入ってな。エエンヤデはそれと連動して津波の被害も多い。もしやと思って駆けつけたのだ。くすぶっていたミリッツァに喝を入れつつ……な」


 ジゼルはミリッツァの方を向きながら、ふわりと微笑む。


「ボクだって初めは無理だと思ったさ。でも――」

「つまりはミリッツァ。お前も大バカものだったってことだ。無論、我もな」

「ふふっ、そうだな」

「そしてあいつも……っと、目を覚ましたようだぞ」


 草むらに寝かされていたリゼットが、ゆっくりと上体を起こす。

 そして目をしばたかせ、辺りを見回した。


「リゼット!」

「ショウ、さん? 私、どうして……」

「ミリッツァとジゼル様が助けてくれたんだ」

「助けて……あっ! あの子、あの子は無事なんですか?」

「ああ。今そこに……って、あれ?」


 だが、たった今までそこで寝ていた子供の姿が見当たらない。

 いったいどこに……と不思議に思っていると、その子供は数十メートル離れた先にいるオリヴィアとその部下たちに駆け寄り、額を地に擦りつけていた。


「も、申し訳ありませんでした! オリヴィア様」

貴方きほう、装備はどうした?」

「えっ……」

「鉄砲と胸当てはどこにやった、と聞いている。余は、たとえ死んでも武器と防具は手放すなと教えたはずだが?」

「そ、それは……」

「装備はなくす、あまつさえ敵に情けをかけられる……とんだ失策だな。まぁ良い。貴方には騎士たる資質がなかった、ただそれだけのことだ」


 オリヴィアは無表情で淡々と語った後、ゆらりと体を揺らし、腰に備えられた鞘から剣を引き抜く。

 驚いたことにその刀身は甲冑と同じく黒々としており、太陽光と相まって不気味な閃光を放っていた。


「あ、ああ……ぃ、いやぁ……」


 黒の剣は一切の迷いもなく、そのか細い首筋に突きつけられる。

 恐怖と戦慄で子供はその場で動くこともできず、やがて股下から水滴が流れ出した。

 そのまま、風が左から右に流れるように、ごく自然に、剣が振り抜かれる――。


 ギィィンッッ!!!!


 はずだったのだが。


 突如、白銀の剣が割って入り、鈍い火花を散らす。

 そのけたたましさに、周りで野草をつついていた鳥たちが一斉に飛び立った。


「何の真似だ?」

「させません……」

「この制裁は余の国の問題……リゼット殿には関係のないことだ。退け!!」

「いや、です……!」

「そうか、では忠告だ。みっつ数える前に離れろ。さもなくば、休戦中にもかかわらず敵国に剣を抜いたざいに処す。後悔するのは貴女きじょの方ではないのか?」

「……」


 それでもリゼットは歯を食いしばり、必死にオリヴィアの剣を防ぎ続けていた。


「だんまりか。なら仕方あるまい」


 剣と剣が交差し、ゴリゴリ、ガリガリと言う摩擦音がより一層激しくなる。


「ひとつ……」

「……」

「ふたつ……」

「……」

「みっ――」

「やあぁぁッッッ!!!!!」


 ガギンッッッッ!


 狙っていたのか、オリヴィアがみっつ目を数える瞬間、リゼットは両手を大きくなぎ払った。


「なに!? 余の剣を弾いただと?」

「はぁっ、はぁっ! はぁっ! さ、させません……絶対にッ」

「こんな小さな体で余の剣を受け止め、さらには力技で押し切るなんて、にわかに信じられん……」


 これにはオリヴィアも面を食らったようで、思わず一歩後ずさる。

 対するリゼットは中腰となり、立っているのもやっとと言うくらいにボロボロになっていた。


「私を……ただの薬師やくしだと見くびらないでください。私だって騎士の端くれ……剣を振るい、打ち砕くことだってできます!」


 にもかかわらず、覇気と眼光は相手よりも数倍勝っていた。


「地震が起きた際のあなたの迅速な行動、そして指示は騎士として最高のものでした。しかし、今のあなたは……人として最低です」

「ふむ。なるほど……。ではリゼット殿、今の貴女の行動は人としては最高かもしれん。だが、騎士としては最低だ」

「……」

「貴女は人ではなく騎士なのだろう? では、自ずと自分の行動が間違っていたことが分かるはずだ」

「いえ。私は人であり騎士であるのです。あなたの行動が間違っているとは言いません。でも、私の行動も間違っているとは思えません」

「ほう。これは面白い。疾風のジゼル殿は実に良き配下をお持ちのようだ。これはますます、八日後の紛争が楽しみになってきたな」


 オリヴィアは満足げに笑い、身をひるがえして去ろうとする。


「待ってください! まだ話は……ぅぐッ!」

「その傷ついた体ではもう戦えまい。それと安心しろ。今回、貴女が余に剣を向けた行為は特別に不問としておく」

「ま、待て――」


 リゼットは剣を地に突き立て、オリヴィアの背中を追いかけようとする。

 が、二、三歩ほど進んだところで、糸の切れた人形のように前のめりに倒れ込んだ。


「A班は負傷者の確認、手当てに向かえ。B班は住居および施設の復旧作業に。C班は武器防具の修繕だ。急げ!!」


 その様子を一瞥してから、オリヴィアは叱声にも似た号令を発し、同時にエエンヤデの騎士団は速やかに立ち去って行った。

 俺もようやく事態の収拾に気付き動き出す。

 エエンヤデの事情は分かったが、結局野球外交の話はできていない。


(どうやら、あのオリヴィアと言う騎士団長は一筋縄ではいかない性格のようだな)


 それに彼女の言い放った『クロード』とはいったい……。どうやら顔見知りであったようだが、リゼットに至っては肉親を匂わせるような呼び方だった。

 とにかく、まずはガンバレヤに戻り情報を整理するのが先決だろう。

 俺は疲れ切った足腰に再び活を入れ、強く地面を蹴った――。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


どうです? 続きが気になってしょうがないでしょう?

今回はガチでかこいいシーンが連続してます。おしっこ漏らしてます。

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