第3話
ある日ルーカスがフリーダの薬局に行くと、彼女が浮かない顔をしている。
「何か心配事があるの?」
ルーカスが尋ねると、フリーダがいった。
「実は… アナタの前に薬草の採取を頼んでいた人がいたのですが、その人が怒っているようです。私に文句をいいます」
「キミは、ボクよりその人がいいの?」
「いやです! だって、その人はヘタですから…」
「じゃあボクが話をして、相手にわかってもらおうか?」
「イイんですか? そうしてくれると、とてもうれしいです」
片言の彼女は、そういってほほ笑んだ。
ルーカスは、その男クルトが来るという日に薬局にいることにした。
クルトは満面の笑顔で、ドアを開けて入って来た。
「フリーダ! 薬草が足りないと思ってさ、持って来たよ! どうして近頃は、オレに注文しないんだい?」
「クルト。前にもいいましたけど、もうアナタには頼みません。ルーカスさんに頼みます」
「ルーカス?」
そういわれて、彼はルーカスに気づいた。
「オマエか、フリーダを狙っているヤツは?」
クルトがいうと、フリーダがいった。
「ちょっと、失礼です! この人はそんな人じゃありません!」
「フリーダ! キミはダマされているんだよ。知らないだろ? こいつはね、コニーのパーティを追い出された能無し冒険者なんだよ」
まだその話をされるのかと思い、ルーカスは心が痛んだ。
「能無しではありません。いい人です。私は私の目を信じます。アナタこそウソつきです」
「オレのどこが?」
「薬草を高く売りつけるでしょう!」
「な、何いってるんだ! 相場だろ!」
「この人の値段の方が安いです」
「それはキミに取り入ろうとしているからだよ」
ルーカスが反論した。
「そんなことはない! そもそも彼女が君からはもう買わないといってるんだぞ!」
「なんだよ! オマエ、エルフの前でいい顔したいのか?」
「ボクは誠実な仕事をしているだけだ」
「ウソつけよ! 彼女キレイだもんな。ヤリたいんだろ? エルフとヤリたいんだろ?」
ルーカスは真っ赤になった。
それを見たフリーダも耳まで真っ赤になった。
ルーカスは激しく抗議した。
「君はどこまで失礼なんだ!」
「エルフはみんな軽いと思ってるんだろ? オレもそう思ってたんだけど、コイツ全然ヤラしてくれないぜ!」
コイツとは、もちろんフリーダのことだ。
たしかにエルフには奔放な性格が多いが、彼女は真面目だった。
フリーダはクルトを軽蔑した目で見ていたが、その目をルーカスに向けた。
その目は疑っているように見えた。
ルーカスは思った。
反論しなければ!
「彼女を侮辱するな!」
「キレイでヤレそうなエルフが目の前に現れて、性欲おさえられる男なんていないだろ! ガマンした方だぞ、オレ!」
ルーカスは思った.
これ以上この男にしゃべらせてはいけない!
「この店に、二度と来るな!」
ルーカスはそういって,
クルトを店の外に追い出した。
2人きりになって、ルーカスはいった。
「ボクはアナタのことを尊敬しています! あんなこと思ったこともないですから!」
心配そうな目を向けながら、彼女はいった。
「そうですよね。そう信じます」
これ以上いうのも、おかしな状況になる。
「クルトがまた来たら、いってください」
ルーカスはそういった。
「わかりました。そうします」
フリーダが答える。
「では! 今日も薬草採取に行ってきます!」
「そうですね。お願いします」
ルーカスは、彼女を信じるしかなかった。