第2話
竜の解体を終え、その処理を済ませ、ギルドで契約完了申告を行なった。
これがパーティでの最後の仕事となった。
その後、ルーカスは所属パーティの手続きを行ない、ソロ冒険者としての登録を行なった。
「じゃあこれでオマエとは仲間でも何でもない」
コニーがいった。
エデルは、ルーカスの顔すら見なかった。
カーラがいった。
「ルーカス、何もできない私を許してね」
「このパーティで、いろいろと勉強させてもらった。感謝しているよ」
コニーが軽蔑した目でいった。
「この経験が役に立つと良いなァ!」
『経験は必ず役に立つ』
ルーカスが、彼らにいつもいっていた助言だ。
コニーは最後にこの言葉でルーカスにイヤミをいったのだ…
次の日から、彼は下請け冒険者として、いろいろなパーティに声を掛けた。
一流のパーティで5年間仕事をした身だ。
コニーのSランクはムリでも、AランクやBランクのパーティなら雇ってくれるだろう。
彼はそんなふうに思っていた。
だがCランクどころか、最低のDランクのパーティですら彼を雇わなかった。
コニーが彼を雇うなと指示したからだった。
どんな仕事でもするからと頼み込んだDランクのパーティのメンバーがこっそりと教えてくれた。
コニーはこの町から目障りな彼を追い出したかったのだ。
しかし、ルーカスは土地勘のあるこの町を離れたくなかった。
そこで彼は1人でもできる薬草採取の仕事を請け負うことにした。
かつてSクラス・パーティのメンバーだった男が、初心冒険者の仕事をすることは屈辱ともいえた。
それでも彼はできることを丁寧にした。
場所や仕事の内容は違えど、やることは今までと同じだ。
彼は自分にそういい聞かせた。
それがコニーには気に入らない。
次に、彼は薬局に圧力をかけだした。
今まで雇ってくれていた薬局が、ルーカスだと仕事を断るようになった。
「すまないが…」
そういわれると、ルーカスは黙って引き下がった。
しかたのないことだ。
そう思うことにした。
彼は冒険者でありながら、戦うことが好きではなかった。
他人と争うよりは、自分を鍛えたい。
それが彼の生き方だった。
独身であったことも理由の一つだろう。
どうにもならなければ、町を出るさ。
それまでは、トコトンやってみよう…
彼はこの町が好きだったのだ。
一軒減り、二軒減り、依頼主はだんだん減っていった。
それでも彼に仕事を与え続ける薬局があった。
今では、ほぼその一軒だけといってよかった。
エルフのフリーダ・ハーンが営む薬局だった。
ルーカスは不思議に思い、ある日そのことを店主のフリーダに聞いてみた。
「アナタはなぜ私を雇い続けるのですか?」
すると彼女は答えた。
「アナタの仕事はとても小さくて良い。だから頼みます」
エルフの彼女は、人間の言葉が得意ではないため、『小さい』と『細かい』の区別がつかないようだった。
しかしそんなことはどうでもよかった。
率直な彼女に、彼は好感を持った。
フリーダはエルフの国から来ていた。
ルーカスの住む町ゼーレンに、エルフは何人かいた。
彼らのほとんどは治癒師になる。
魔力の強いエルフは、治癒師として重宝された。
薬局は治癒師ほど儲からない。
不思議に思ってフリーダに聞いてみると、彼女の答えは「私は魔力が小さいので、治癒師は向かない」とのことだった。
さらに彼女の薬局は良心的で、価格はこの町の最安値ばかり付けていた。
だからコニーが圧力をかけても、彼女の店の客が絶えることはなかった。
冒険者稼業は派手に見えて、実は厳しい。
誰もが可能な限り経費を節約したがった。
下層ランク・パーティのメンバーたちは、ここで薬を買わざるを得なかったのだ。
そんなわけで、ルーカスは何とか崖っぷちギリギリで生活を成り立たせることができるようになった。
ルーカスは、フリーダと直接契約を交わし、彼女の薬局の専属薬草採取者になることにした。