魔王城での聖女生活
興味をもっていただきありがとうございます。
「聖女ですが、嘘つき魔王と異世界救います〜異世界で聖女なのにこき使われ帰ろうとしたけど実は世界を守ってた魔王をほっとけず聖女チートで助けます〜」
の短編ですが、これ単品でお楽しみいただけます。
鳥のさえずりで目を覚ました。
朝日がカーテンの隙間からわずかにのぞいている。
横向きで寝ていた体を正面に向けようとするが横腹にのる重みによって阻まれた。
心当たりのあるもはや慣れすら感じてきてしまったその重みーーーわたしのお腹を抱き込むように巻きついたしなやかな筋肉のついた腕を叩いた。
「重い!」
「おはよう、まどか。寝起きから今日も元気だな」
首を捻りわたしの背中にぴたりと張り付いていた腕の主を見れば、長いまつ毛に縁取られたアメジストのような瞳を気だるげに開けていた。
何度見ても思わずにはいられない魔性の美貌だ。
「また、いつの間にかわたしのベッドに潜り込んで…!」
「いいだろうが、俺とお前の仲だ。問題ない」
「問題しかないでしょ! とにかくさっさと腕どかしてよ、動けないでしょっ」
「まったくしょうがないな…」
「しょうがなくない!」
嫌々という態度で外された腕に解放され慌ててベッドから這い出しそばにかけてあったガウンをネグリジェの上から着込んだ。
アメジストから紅へと色が徐々に変わっていく瞳の男は人のベッドに横たわったままこちらを機嫌良さげに眺めている。
「この魔王が!」
腹が立って枕をつかんで投げ、忍び笑いを背後にし洗面所に顔を洗いに向かった。
異世界に魔王を倒す聖女として召喚されたわたし、『まどか』こと『一ノ瀬 円』は現在魔王城で暮らしている。
聖女なのになぜ魔王を倒すこともせず魔王城で暮らし、なぜ魔王と同衾…もといまあそれなりに仲良くしているかというとこれには深いわけがある。
聖女なのに魔法で逆らえないようにされ人間側に問答無用で聖女をさせられ戦わされたので、頭にきたわたしは魔王を倒さず元の世界に帰ろうとしたのだ。
しかしその後色々とあり、この世界を魔王が守っていることを知ったわたしに「聖女の力を使って手伝え。俺を助けろ」とここ魔王城まで拉致…いや連れてこられた。
それからわたしはこの魔王城で暮らして「世界を守る魔王のお仕事」を手伝っている。今では合意の下で。
「まったく反省しないんだからあいつ」
「あの方は反省しない生き物なので諦めてください」
魔王の配下、四天王の一人、ツヴァイ。
魔王ともども彼ら四天王ともすっかり打ち解けた。
部屋を出てばったり会ったツヴァイに不満を訴えるもあえなく矯正不可の通知をされてしまう。
しかし朝から貞操の危機を感じる行いを甘んじて受け続けるわけにはいかない。
「いやわかるよ、わたしにくっついていれば魔王の瘴気を浄化できるから世界を守ることに繋がる。でもね、断りもなくベッド入ってくるのはセクハラでしょ? 認めないから! わたしの部屋あいつ出禁にしようかな」
「陛下、我が世の春を謳歌しておられるな…」
「幸せそうでなによりだ」としみじみ呟くが聞き取れず小声で何か言っているくらいにしか思っていない少女を見やり魔王の腹心の部下は「ところで」と切り出してきた。
「今日は聖木の苗木を植えに向かう予定でしたね。いつもの顔ぶれを呼んでいます」
「ありがとう。朝食もらったら出かけるね」
政務室に向かうツヴァイと別れ、すれ違う使用人に朝の挨拶をしつつ食堂に向かった。
広々とした食堂に入ると中央にある長テーブルにはすでに先客が座って待っていた。
「よう、聖女殿。また今日もオレと楽しく空中散歩しよう」
グリフォンを横に侍らせ陽気に獣王ガエルが腕を上げて軽い挨拶をしてきた。
「…苗はすでに外に用意してある。あとはお前が準備すればいつでも行ける」
無愛想ながらいつも気の利く死王ゲーデが眼帯に隠れていない左目を向けていたがそれがわたしの背後にずれた。
食堂に入ってきた黒服の男にじっとりとした目を向けてやった。
やってきた魔王は肩をすくめると食堂の席に着いたので朝食が運ばれて魔王とわたしは食事をはじめた。
朝食はバケットにウィンナー、オムレツにサラダにフルーツ。
今日もおいしい。
「今日はどの辺りに行くんだ?」
「旧ギュスターヴの辺りだ、王よ。王も息抜きに行かんか? 城に詰めてばかりでは退屈であろう」
「ツヴァイにどやされそうだな」
「王様、やめといた方がいい。…あとで仕事増やされると思う」
嫌そうな顔をして魔王は「お前たちだけで行ってこい。こいつを頼んだ」と部下二人に頼んでいた。
食後、早速出かけるわたしたちを見送りに城のエントランスホールまで魔王は来てわたしに言った。
「危ないことはするなよ。なにかあれば俺を呼べ」
なんとも過保護な言いようで、しかもここ魔王城に住み出した当初より段々過保護ぶりがパワーアップしてきている気がする。
嬉しいけれど気恥ずかしい。
「心配しなくても二人も強い護衛がいるんだから安全だよ」
「あるいはガエルが調子に乗り余計な騒ぎを起こすかもしれない。そうなったらゲーデだけでは止めきれないかも知れない。やはり三人つけるべきだったか?」
「あの人は完全昼夜逆転体質な人なんだから来ても寝ちゃうよ。日が暮れる前には帰ってくるから心配しないで待っててね」
「…早めに切り上げろよ、仕事熱心な聖女様」
「そっちこそお仕事がんばってね、魔王様」
頭を優しくひとなでされ、そういえばここで暮らし始めた日のことを思い出した。
…この男ともずいぶんと距離が近くなった。
素直にそれを口に出すのは恥ずかしくてできないけど。
不思議なものだ。
ここにきてそんなに長い時間は過ぎていないのにずいぶん昔からここにいたみたいに日常を過ごしている。
ここにくるまでいろいろあったなと彼らとのあの旅、そして魔王とはじめて会った最終決戦を思い出していた。
完全昼夜逆転体質な方はヴァンパイアです。
最後までお読みいただきありがとうございました!




