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トロフィーヒロイン・モンスターガール  作者: タカリ
第一章 トロフィーヒロイン・モンスターガール
7/50

7 とんでもない物を落としていきました

「ダンジョンカメラを配布する! 各班一人ずつ取りに来てくれ!」


 岩山先生が大きな箱を手に生徒たちに呼びかけた。


「あ、私取ってくるね! 二人は待ってて」


 腰の軽い木村さんが率先して動き三人分のカメラを持ってきた。

 『ダンジョンカメラ』。大層な名前だが実際は普通のカメラにバンドをつけただけの代物だ。探索者の胸元に装着し、ダンジョン内で起こったことを撮影する為に使われる。車についているドライブレコーダーみたいなものだ。


 ダンジョンの内と外では電波が届かないのでどうしても警察や行政の監視が甘くなってしまう。

 だが、ダンジョンで犯罪を犯した人間は必ず見つけ出して罰しなければいけない。もしも放置すればダンジョン内が簡単に無法空間になってしまうからだ。

 そこで考え出されたのがこのダンジョンカメラ。ダンジョン入口で探索者に貸し出し、ダンジョンから帰還したら提出の義務を設ける。

 撮影された映像に犯罪が映っていたら当然逮捕されるし、故意にカメラを止めたり遮ったりするような動きをしたら警告を食らう。もちろん壊すのもアウトだ。

 このダンジョンカメラのおかげでダンジョン内での揉め事が少なくなったとテレビでも言っていた。


 当然、これからダンジョンに入る俺たちもダンジョンカメラをつける義務がある。探索者としてずっと活動していくなら慣れるしかない。


「遠藤くん、カメラが隠れちゃってるよ」

「あ、しまった。ええと、こうか?」

「うん、それで大丈夫!」

「ありがとう」


 注意点はジョブカードを使って装備を呼び出すときにうっかりカメラを巻き込まないことだ。バンドを絞ったり伸ばしたりして位置を調整したら完成だ。


「準備ができたらダンジョンに向かうぞ! 班員同士で離れないように注意して中庭に移動だ!」


 ジョブカードを使って自分の着替えを済ませた岩山先生が見える。

 装備は軽装で武器を持っていない――たぶん【格闘家】系のジョブだろう。あの太い腕で思い切り殴られたらモンスターでも無事に済まないだろう。


 ■


 【洞窟のダンジョン】。

 普通の洞窟は暗くて狭くてジメジメしていてとてもじゃないが気軽に探索なんてできるもんじゃない。

 俺が通っていた中学は二年生の一学期に修学旅行があった。まだダンジョンができる前だったので沖縄に行ったのだが、その時に入った防空壕は本当に一切光が入らない場所で、手元の明かりがなくなれば二度と外に出られないんじゃないかと思ったものだ。


 それに対し【洞窟のダンジョン(★)】は違った。まずランクが星一つという時点で初心者向けであることが確定する。

 壁は洞窟っぽくゴツゴツした岩肌だが、湿っていたり寒かったりするわけではないし、もちろん空気もあるので普通に呼吸が行える。

 床は歩いていても気にならない程度の凹凸しかないので戦闘中に足を取られるというミスも起きない。乾いているので滑ったりもしない。

 そして洞窟全体がほのかに光っているので明かりがなくても見える。多少薄暗いが時間が経てば慣れるくらいの暗さだ。


 つまり洞窟とは名ばかりの、『洞窟っぽい雰囲気』の初心者向けダンジョン。それが星一つのダンジョンだ。


 ■


 【洞窟のダンジョン】に入ってすぐの大部屋。その壁沿い救護スペースや無線機が設置されていた。教官同士は無線で連絡のやり取りができるらしい。


「遠藤・木村・堂島班はここかな。僕がこの班を担当する若槻だよ。今日はよろしくね」


 大部屋の中で待っていると若い男の教官がやってきた。

 今回は初回ということで全部の班に一人ずつ教官が付き添いをするらしい。角刈り頭だがさわやかな笑顔のイケメンだった。


「若槻先生、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 木村さんが満面の笑みで挨拶し、遠藤くんもきちんと挨拶をした。俺は内心で(イケメンとか嫌だなぁ)と思いながら一応挨拶した。


「それでは移動を開始しようか。モンスターはもう少し奥に進まないと出てこないんだ。ああ、このダンジョンには罠もないから安心していいよ」

「罠は星二つのダンジョンから出てくるんですよね?」

「木村さんはよく勉強しているね。そう、だから星二以上のダンジョンでは必ずパーティに罠の探知と解除ができるメンバーに必要になるんだよ」

「若槻先生は星二つのダンジョンに入ったことがあるんですか?」

「この学校の教官は全員星二以上のダンジョン経験者だよ。もちろん僕もね」


 若槻教官の指示に従いながら分かれ道を移動する間、楽しそうに木村さんと若槻教官がおしゃべりを続けていた。

 もうダンジョンの中に入っているんだけど、そんなに気を抜いていていいのか?


 ■


 しばらく歩いていると目の前の通路からモンスターが一匹やってきた。


 茶色の小汚い肌にギョロギョロとした大きな目、牙のようにギザギザとした歯。

 身につけているのはボロ布一枚で武器すら持っていない、小さな人型のモンスター。


「先生、ゴブリンです!」

「みんな、警戒して!」


 そう、ファンタジーの定番雑魚モンスター、ゴブリンである。ちなみにチュートリアルダンジョンの敵もゴブリンなので日本で一番知名度の高いモンスターとも言えるだろう。

 とっくに接近に気がついていた俺と遠藤くんはゴブリンを前に警戒態勢に入っていた。遅れて木村さんが腰に佩いた鞘からスラリと刀を引き抜く。


(今の動作も引っ掛かりなくするっと抜けてたな。やっぱりジョブカードの補正は凄い)


 真剣を抜刀するにはきちんとした専門技術が必要なんだ。普通の人だと引き抜く途中で鞘に引っ掛かる。こういうちょっとした動作にもジョブカードの恩恵があるのは本当に凄いと思う。


「先生、私が倒してみてもいいですか?」

「そうだね、まずは木村さんからやってみようか。相手は無手だけど反撃に注意してね」

「はい!」


 教官の許可が出たので木村さんが前に出る。小走りで距離を縮めると、自分の間合いに入ると同時に刀を振るった。


「えいっ!」

「グギャアアアアア!!」

「やあ!!」


 腕をバタバタと振り回すゴブリンを避けながら木村さんが何度も刀を振るう。

 体中切り傷だらけで血だらけになったゴブリンは、そのまま一発も反撃を当てることができないまま倒れた。

 力尽きたゴブリンの体がゆっくりと解けて光の粒に還っていく。死んだモンスターは血肉ごと魔力になって消えてしまう。


「よくやったね木村さん。いい動きだったよ」

「ありがとうございます! チュートリアルダンジョンでいっぱい戦ったから大丈夫でした!」

「……あ、カードだ」


 消えていくゴブリンを見つめていたら、カードがドロップしたことに気がついた。

 まさか最初の一匹目でレアドロップのカードが出るとは……。


「これは幸先がいいね! おめでとう!」

「ありがとうございます。ええと、これはスキルカードか……な……?」


 笑顔でカードを拾い上げた木村さんが、カードを見つめて固まった。


「どうしたんだい? 何かおかしなところでもあった?」

「あ、あの……これ……どうぞ」


 木村さんは嫌そうな顔で、汚いもので触ってしまったみたいな様子でカードを差し出した。


 ・スキルカード:【精力強化】


 どうやらゴブリンはとんでもない物を落としていってしまったようだ。

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