49 迷惑Dチューバーのその後と報酬分配について
世間一般では探索者は安全な仕事だと認識されている。
HPバリアのおかげでモンスターに襲われても怪我をしないし、HP全損してもモンスターや罠に怯えずにダンジョンの入り口まで戻れるようになっている。まるでゲームのように、あるいはレジャー気分で気軽にダンジョンに潜る人間はとても多い。
実際、きちんとルールを守ればダンジョン探索は非常に安全な仕事だが、そんなダンジョン探索も一歩間違えれば途端に危険な顔を見せる。
HP全損してもかまわず襲ってくるペナルティモンスターの存在や、違反行為をキーにして保護モードが解除されることなど、身近なところに落とし穴は口を開いている。
――そして今回のコロシアムは【HP全損で強制退場】という仕様だったが、もしもこれが【HP全損してもその場に残り続ける】仕様だったなら、ボスとの戦闘の余波で夥しい数の犠牲者が出てしまっただろう。
ほんの少しだけバランスが崩れるだけでダンジョンは簡単に探索者に牙をむいてくる。
だから探索者はダンジョン内で何か異変を発見した場合はすぐにダンジョンセンターか警察に通報する義務があり、ほとんどの探索者は何かおかしいと感じたらすぐに通報する場合がほとんどだった。
だが、すべての探索者がこの通りに行動しているわけではない。
自分の利益を確保するためにわざと黙っている者もいるし、自分が体験したことを異常事態だと認識せずにスルーしてしまっている者もいる。
ダンジョンカメラがあるとは言ってもダンジョンカメラの主な用途はダンジョン内部で行われた犯罪行為の捜査であり、些細な異変は録画された画像では確認できないことも多い。
報告しなかった人間を全員取り締まるのも大変なので基本的にはお目溢しされているのだが、何か問題が発生した時に、事前に気がついていたのに意図的に報告せず隠していたと判断された場合は話が別だ。
そして今回のちょんぼるの行動がこれに当てはまっていた。
これまで【機械のダンジョン】で未発見だったボス、それもダンジョンの床や壁と同化している超巨大レイドボス。周辺の探索者まで巻き込むような盛大なやらかしに加え、探索開始前にツイッターや動画でしっかりとボスを発見したと書いていたのに通報していなかったのだから言い訳のしようもない。
そういうわけでちょんぼるはボスを発見したのに報告せず、他の探索者を巻き込むような非常に危険な行為をし、さらに俺に対して行った犯罪行為の容疑などもあって警察に身柄を勾留されていた。
そして、ちょんぼるが始めたボス戦に強制的に巻き込まれた上で被害を被った人たち――例えばHP全損でデスペナを食らってしまい組んでいたチームが探索予定をキャンセルすることになった人、突然ボスに襲われたことにトラウマを負った人など――も、ちょんぼるの安全探索義務違反の容疑に合わせて、損害賠償や慰謝料の請求を行った。
世間では【レイドボスの発見】に合わせて【発見者が逮捕された】ことを面白おかしく騒ぎ立てていて、あっという間にちょんぼるの名前は世界中に知れ渡ることになった。
ちょんぼるを擁護する意見も少しはあったが、それよりもちょんぼるを叩く声の方が遥かに多かった。
動画の再生回数を稼ぐ為にダンジョン内部で犯罪行為を行っていたことや、レイドボスの報告をしなかったせいで大勢の探索者に被害を出したことが知れ渡り、ちょんぼるはやがて【最悪の迷惑Dチューバー】と称されることになる。
そしてこれ以降、迷惑Dチューバーが登場して世間を騒がせる度に『ちょんぼる以上かそれ以下か』という風に迷惑Dチューバーを語る際の基準にされるのだった。
■
ちょんぼる事件から数日。
【機械のダンジョン】が調査の為に立ち入り禁止されている間、俺は学校で先生や警察の人たちに事情聴取を受けていた。ダンジョンカメラの映像を見ながらちょんぼるとのやり取りや、レイドボスとの戦闘について細かく聞かれて答えていく。
それと【MVP】のアナウンスについてだが映像には映っていなかった。どうやらアナウンスは音ではなく魔法的な現象らしく、直接脳内にアナウンスが届くらしい。テレパシーみたいで便利だな。
さすがに学校や警察にまでMVPを取ったことを隠すと後で問題になりそうだったのでそこは素直に打ち明けておいた。もちろん【MVP報酬】を手に入れたからといって見せびらかしたり、売り払って売却金を参加者で山分けするつもりは一切ない。学校や警察も俺がMVPを取ったことは秘密にしてくれると言っていたのでたぶん大丈夫だろう。
こういう時、未成年だと大人が守ってくれるので強い。住んでいる場所も学生寮なので防犯もバッチリで安心だ。
【MVP報酬】以外の報酬だが、【レイドボス攻略報酬】が参加者の貢献度に応じて配布されていた。
最初に何もできないまま退場した人たちは【魔石(★★)】やレア度の低い素材が数個。途中で活躍したり最後まで何とか生き残っていた人たちにはレア度の高い素材や【装備カード】、【スキルカード】など。そして参加者の中でも貢献度の高かった者には多くの魔石や素材、レアカードが分配されていた。
今回のレイドボスの報酬をまとめるとこんな感じだろう。
【報酬の区分】
・レイドボス攻略報酬(全参加者に配布・貢献度に応じて報酬が増える)
・雑魚ドロップの魔石など(各自回収)
・MVP報酬(MVP獲得者)
・ボスドロップ(MVP獲得者)
【各参加者が手に入れた報酬】
・一番最初に退場した人たち:【レイドボス攻略報酬(魔石・素材数個)】
・それなりに活躍した人たち:【レイドボス攻略報酬(魔石・素材・カード)】&【雑魚ドロップ】
・貢献度が高い人たち:【レイドボス攻略報酬(魔石・レア素材・レアカード)】&【雑魚ドロップ】
・MVP:【レイドボス攻略報酬(魔石・レア素材・レアカード)】&【雑魚ドロップ】&【MVP報酬】&【ボスドロップ】
こうして比べてみるとMVPの得られる報酬が他と比べて頭一つ抜けている。
逆に何もできないまま退場してしまった不運な人たちは三日間のデスペナを食らったのに報酬が魔石や素材数個のみという非常に残念な結果になっている。
ちなみにあの取り巻き集団を指揮していたちょんぼるは貢献度が高いと判定をされたらしく【レイドボス攻略報酬】でわりと良いものを貰ったらしい。まあそれもすぐに売ってしまったらしいし、売却益の扱いで揉めているそうなので今頃大変な目にあっていることだろう。
俺は学校や警察が代わりに対応してくれているのでそういう面倒事が少なくて済んでいる。やはり未成年という立場は強いと再確認した。
そんなわけで世間の騒ぎから隔離されている俺は改めて自分の物となった報酬を並べていた。
魔石は五十個ほどと少なめだったが、レア素材やレアカード、MVP報酬、そしてボスのモンスターカードと、非常に得るものが多い戦いになった。
このことだけはちょんぼるに感謝してもいいと思っている。
ちょんぼる氏、世界で一番有名な迷惑Dチューバーになるの巻。
手に入れた報酬の詳細は次回。
雑魚のドロップする魔石や素材はルート権がないので誰でも拾えます。
でもまともに戦わないまま雑魚のドロップを拾い過ぎると貢献度が減っていき、報酬が減ったり敵のヘイトが集中したりして結果的に損をする仕様になっています。
もちろん自分が倒した分の雑魚のドロップを拾うのはOK。




