38 機械のダンジョン(★★)
探索は予想以上に難航した。
確かに罠はなかった。出てくるモンスターも情報通りだった。
だが。
「だああ! またかよ!! いい加減にしろ!!」
監視カメラのような形状でレーザー攻撃してくるモンスター。これが『一体』ならば、攻撃の照準を合わせないように素早く接近することで躱せた。
だが、『二体』、『三体』と同じモンスターが増え、弾幕を形成するようになると話は違う。避けようとしてしても射線を微妙にずらした攻撃が襲い掛かり、どうしても被弾してしまう。
紅雪や赤ずきんたちと監視カメラのモンスターは同格の★★ランク。一発一発のダメージもバカにはできない。彼女たちが身につけている服(防具)は穴が開き、怪我をして血が流れているのが痛ましい。
「回復手段か遠距離攻撃、できれば攻撃が必要だな」
「魔法スキルの使い手が仲間にいれば良かったんですけど……」
「ご主人さま、防具ももっといいのがほしいなぁ?」
「……あれもこれも足りないのに、時間だけかかって成果も少ないし、思った以上にきついな……」
「そうですね……」
ダンジョンの奥に進むと敵が集団で出てくるので入口近くを行ったり来たりしている。
だが、入口の周りには当然他の探索者も多い。俺と同じように奥まで進めない探索者パーティが大勢いてモンスターの取り合いを行っている。「俺たちが先に発見した」「先に攻撃を当てたのはこっちだ」などと言い争う声もたまに聞こえるし、正直言って想像以上に不味い。
「一応魔石と素材はいくつか確保できたけど、カードも全然ドロップしないしなぁ……どうしたもんか」
前情報ではモンスターカードが出ない代わりに魔石や素材が出やすいという話だったが、スキルカードや装備カードもなかなか落ちない。魔石を強化に使っても微々たるものだろうし、どうしたものか……。
「一応伝えておくけど、★★ランクは★ランクより全体的にドロップが少なくなる傾向にあるね。★ランクだと八割くらいの確率で何かしらドロップするけど、★★ランクだと四割くらいだったかな?」
「……そんなに違うんですか」
「だからここの魔石のドロップ率はなかなか高い方だと思うよ」
「……ありがとうございます」
二時間かけて倒したモンスターの数は十二体。ドロップしたのは魔石が三個と素材が五個だった。
「少しやり方を変えるか」
今までは紅雪たちの素早さに任せて回避に力を入れていたが、盾役を用意して守ってもらうのはどうだろう。
「というわけでゴブリンくん、ゴー!」
「ギャウウウウ!」
二体の監視カメラモンスターに向かってゴブリンくんが一生懸命走りだし、その後ろを追うように紅雪と赤ずきんが速度を抑えながら走る。
「グギャアアアアアアア!!??」
「あ、ゴブリンくんがやられた。あ、倒した」
射程距離の半分くらいまでは何とか耐えたが、ゴブリンくんはそこでダウン。
倒れたゴブリンくんの影から飛び出た紅雪と赤ずきんが最後の距離をなんとか詰めきり、二体の敵モンスターを倒せた。
「大筋としては悪くないけどゴブリンくんの耐久力が足りないな……」
「あの、マスター? そろそろゴブリンくんが……」
「うん、その問題もあるな。どうするかな」
何かというと肉盾にしているゴブリンくんだが、ランク的には★☆程度。種族もゴブリンだし、★★ランクの攻撃に耐えきれるほど耐久が優れているわけではない。
そして何よりも、何回も都合よく肉盾にして使い潰してきたせいでいい加減忠誠度がヤバい。たまに食事とか食べさせてあげてるんだけど、それでも死ぬまで戦わされている恨みは残るのだろう。なんか最近は目つきが荒んできていたし。
「耐久特化の壁役……でもタンクって基本的に足が遅いからな。★ランクじゃ近寄る前に削り殺されるイメージしかない」
「私たちが盾を使えれば良かったんですけど……」
「モンスターカード用の装備は滅多に出ないからなあ。それに★★ランクじゃないとどっちにしろ持たないし、重い盾だと速度が死ぬ」
ハイゴブリンが装備できる装備カードとなるとゴブリン系モンスターのドロップに限定される。それも★★ランクの盾だ。俺が手に入れるのは至難の業だろう。
「一番確実なのが戦力確保……他のメンバーを入れることか」
今の紅雪たちに頼る戦法を根底から覆し、タンク、魔法使い、ヒーラーなどの人間のメンバーとパーティを組む。
これが一番早くて確実な強化方法だと思う。
「でもご主人さま、そこまでしてこのダンジョンに潜りたいの?」
「いや、それなら他のダンジョンに行くわ」
「やっぱり?」
もうこのメンバーで探索するのに慣れてしまったので今更追加で新メンバーとか冗談じゃない。
「じゃあこのまま探索を続けるんですか? 一応魔石のドロップ率はいいので少しづつ強化は進むと思いますが、時間はかかりますよ?」
「……わかった。今日の帰還時間まで探索して、一旦別のダンジョンに行こう」
「え? わかりましたけど、マスターはそれでいいんですか?」
「ああ。このダンジョンは想像以上に相性が悪かった。出直した方がいい」
「そうですか……わかりました。マスターの決定に従います」
「やったあ、やっとここのヘンテコなモンスターから解放されるの?」
二人が笑顔を浮かべて喜ぶ。
やはりこのダンジョンは二人に苦労をかけていたようだ。
俺は素直に失敗を認め、一時撤退を決めたのだった。
■
「というわけで、今日からしばらく【洞窟のダンジョン(★)】でボスを狩ろう! カードもたくさん集めるぞ! 途中で罠感知系のスキルを持っているゴブリンをゲットできたらそれでもよし! ダメならダメでゴブリンくん2号、3号と大量に揃えて物量で力押しだ!」
【洞窟のダンジョン(★)】のボス部屋。
まだまだ攻略者が少なくガラガラの部屋に入り、ボスが湧くのを待つ。
ちなみにダンジョンボスの部屋は大きなホールになっていて入口は完全開放状態。いつでも出入り自由だ。ボスはホールの外までは追いかけてこない仕様になっている。
ただしボス戦の途中でホールから出ると【逃げた人間が与えたダメージ】分だけボスが回復するので、ホールを出入りしながらゾンビアタックするような真似はできないし、途中で乱入者が現れていきなりボスのダメージが回復したりするようなこともない。
あと、ホールの外から攻撃しようとしても何故か攻撃が届かない不思議空間になっている。
「とりあえず一週間、毎日ボスを狩り続けてカードを集めるぞ! いけ、ゴブリンくん1号! 死なない程度に頑張ってこい!」
「ギャウウウウウ!?」
結局こうなるの!?と言いたげな悲壮な顔つきのゴブリンくんがボスゴブリンの取り巻きたちと戦い始めた。君がロストしたら大損なので死ぬ前に戻すからそれまでがんばってくれ。
「結局機械のダンジョンは諦めていないんですね……まあ、マスターの決定なら従いますけど」
「あのヘンテコモンスターきらいー。ご主人さま、もっと楽しいところにしようよー?」
紅雪と赤ずきんもそれぞれの敵を相手に戦い始めた。
今回のボスはボス本体が強くて取り巻きが少ないタイプ。あのボスがドロップしてくれたらいい肉壁になってくれそうだ。
二人には後でちゃんとご褒美あげるからがんばってくれ!




