37 ダンジョンセンター
午後の実習の時間になったので早速送迎バスに乗って【機械のダンジョン】に向かう。ちなみに前日に予約しないとバスは出ないという申請式だ。
今回は俺と付き添いの若槻教官だけしか利用者がいなかったので8人乗りのボックスカーに乗せられた。今後送迎の人数が増えてきたら大型バスを使用するらしい。
二十分ほどかかって【機械のダンジョン】に到着し、帰りの待ち合わせ時間を確認して運転手さんは帰っていった。
ダンジョンの魔法陣の上には大きなコンクリートの建造物があって、さらに敷地の周辺にフェンスを巡らせて『門』で一人一人出入りを確認していた。ダンジョンに忍び込もうとする人間が後を絶たないようでかなり厳重な警備が行われている。
ゲートでチェックしている警備員に若槻教官が説明し、俺も学生証を見せて一緒に中に入った。
「気をつけてな」
「あ、ありがとうございます」
いきなり声をかけられてびっくりしたら笑われた。
ゲートの内側、ダンジョンの上に建てられた建物が【ダンジョンセンター】だ。
ダンジョン周辺の土地や建物を政府が買い上げてダンジョン探索用の拠点を造ったのが始まりだ。最初は自衛隊員たちが寝泊まりだけの小さな建物だったらしいが、その後に必要な設備を増設して巨大化していった。
「なんか市役所みたいなところだな……」
実際に【ダンジョンセンター】の中に入るのは今日が初めて。
ネットでは冗談交じりで「冒険者ギルド」なんて風に呼ばれていたけど、実際に見てみると綺麗な新築の役所みたいな印象だ。少なくともファンタジー小説のような酒場みたいな場所にゴロツキがたむろしているとか、そういうことはない。
「ここはガキの来る場所じゃねえぞ!」と絡んでくるようなチンピラもいなかった。まあ、本当にただの子供だったらゲートの警備員に止められるしな。
それにみんな周りのことなんか気にしていない。受付に並んでこれからダンジョンに入る人たちも、疲れた顔でダンジョンから出てきた人たちも、周りのことなんかこれっぽっちも気にしていなかった。
俺と若槻教官も受付に並び、スマホの画面を操作して【ダンジョン探索計画書】のアプリを起動した。
ダンジョンに入る際に必ず提出しないといけないのが【ダンジョン探索計画書】だ。
これは専用の用紙があって名前、生年月日、性別、住所、電話番号、緊急時の連絡先、同行するメンバーや、探索予定、帰還予定時間などを記入してダンジョンに入る際に提出必要がある。聞いた話だと登山計画書に似ているらしい。
学校でダンジョンに入る時にもこれを書かされるのだが、実はこれ手書きじゃなくて専用のアプリからの申請もできる。
アプリからログインすれば登録してある個人情報を自動で入力してくれる上に、パーティ登録していればメンバーの追加も自動で行われるので手間がかからない。探索予定は細かく書かなくても大丈夫なので(もちろんしっかりと書いてもいい)だいたいコピペで済ませ、あとは帰還予定時間だけチェックして提出すればOKというお手軽さだ。
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【ダンジョン探索計画書】
【探索者番号】 (探索者学校生に対する特例措置の適用)
【名前】 堂島勝
【生年月日】 20××年7月21日(満15歳)
【住所】 ××県××市×× X-XX-XX
第十六探索者学校 学生寮・C XXX号室
【電話番号】 0123-45-6789
【緊急時の連絡先】 XXX-XXXX-XXXX(父親の電話番号)
【同行者】 若槻雄一
【探索予定】 モンスターの討伐
【帰還予定時間】 6月 X日 17:00
【所属】 国立第十六探索者学校
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これを送信し、受理された画面を受付に見せる。
そして本人確認と装備をチェックされて、問題がなければダンジョンに通されるという仕組みだ。
この受付の反対側にあるのは買取カウンター。ダンジョンからのドロップ品を売却できる。
探索者学校の場合はドロップ品は全てDPと交換になるので俺は利用できないが、一般探索者は普通にお金で売買する。
ダンジョン探索者はダンジョンから一定以上のドロップ品を買取カウンターに売却している場合、税金が優遇される仕組みがある。他にも探索者開業支援制度などもあって儲かる人はかなり儲かる状態だ。土日だけダンジョンにやってくる週末探索者などの副業も政府主導で推進している。
こうした制度に関する授業も学校で習うのだが、卒業が近くなると開業届の書き方や支援制度の申請方法などを実際に授業で教えてもらえるらしい。一人で勝手に調べて手続きをしろと言われると大変なので授業で教えてもらえるのは大歓迎だ。
ちなみに買取額だが、現在のレートだと★の魔石が五百円前後、★★の魔石は五千円前後となっている。
つまり俺のジョブカードの強化に使った魔石百個で五万円、ゴブリンくんの強化に使った魔石も五万円、合わせて十万円分の魔石を使ったことになる。
魔石以外のドロップ品の素材やカードなどは需要によって値段が上下する。人気で品薄のカードなら★でも数万から数十万円で売れるし、カスカードなら一万円くらいだ。弱いスキルしかないゴブリンのカードなどが一万円もしない。
カード売買はオークションや個人売買でも行われているらしいけど、値動きが激しくて素人だと大変らしい。株のデイトレーダーみたいなものだろう。
売る時期を選べば高値で売れるのだろうけど、ほとんどの人は面倒臭がって買取カウンターに持って行くという話だ。場所によってはダンジョンセンターの周辺にドロップ品買い取り専門店なんかもできているらしいが、ここのダンジョンセンターの周りにはなさそうだ。
受付や買取カウンター以外にあるのが『相談窓口』『パソコンコーナー』『ロッカールーム』『更衣室』『シャワールーム』『貸し会議室』『食堂』『医務室』など。
相談窓口はダンジョンに関する質問や相談に乗ってくれる部署で、登録するとパーティメンバーの紹介なども対応してもらえる。
パソコンコーナーはダンジョンの情報を調べたり、俺が受けたクエストと同じものが受注できるようになっている。
ロッカールームはそのまま、鍵付きの貸しロッカーが並んでいるスペース。ダンジョンに入る前に手荷物などを預けられる。まあ、今回の俺たちは荷物を学校に置いて送迎バスでここまで来ているので利用はしない。
更衣室、シャワールーム、貸し会議室、食堂などもそのまま。ダンジョンに潜る時に着替えたり、出てきた後にシャワーを浴びたり、パーティメンバーで会議室を借りて話し合いをしたりするのに使われる。
食堂は普通の食堂だがお昼の時間を過ぎているのに意外と人が多かった。ダンジョンから戻ってきたパーティが何組か休憩しているようだった。
医務室はほとんど使われることがないが、それでもたまに体調不良者やダンジョン内でトラブルが発生して怪我をする人間が出てくるので設置されている。お医者さんが常に常駐しているので安心だ。
ダンジョンセンターの中を見ているうちに前のパーティが退いた。
スマホの画面を見せて受付を行い、俺たちも【機械のダンジョン】に入った。
■ ある探索者学校の生徒の末路
いい方法を思いついた。
探索者学校はDPでカードの売買をしているけど、★のスキルカードならいくら、★のモンスターカードならいくら、と一律で値段をつけている。
つまり人気のカードも不人気のカードも同じ値段で売買できるんだ!
そこに目をつけた俺は探索者資格を持っている兄貴に頼んで不人気のスキルカードを集めてもらうと、それを学校に売ってDPに変え、そのDPで人気カードを購入、兄貴に転売してくれるように頼んだ。
人気カードと不人気カードの値段は何倍も差がある。時には十倍以上の値段がつくんだ。
これを使えばあっという間に億万長者! ダンジョンなんか潜らなくても大金持ちだ!
そして狙い通り、カードの売買は大成功!
元手はすぐに何十倍にも膨れ上がり、俺も兄貴も大金持ちになった! やったぜ!
「――あなた、ショップで購入したスキルカードを外部に売却したわね? 入学した時やショップを利用する時に誓約書を書いたことを覚えてなかったの?」
「え? 誓約書……?」
後日、いきなり先生に呼び出された。
なにそれ? ……そういえば何か書いた気がするけど、なんだっけ?
「……うちの学校のショップは探索者の育成のためにあえて価格を同一にしているのよ。さまざまなカードを使って試行錯誤できるように売買に手数料も取らない。その代わり、ショップで購入したものを外部に売却・譲渡するには一定の手続きが必要だし、手続きをしていない場合はちゃんと保有していると証明する必要があるわ」
先生が怖い顔で言う。
そういえば、最初の時にそんな説明をされた気が……。
「ショップからあなたが何度もカードを持ち込み、代わりのカードを購入していったと報告があったわ。それも外部で格安で売られているカードと高値がつくカードを選んでね。そして、そのカードを使っている様子もない。……貴方のお兄さんが、外部で同じカードを売却しているのも確認できたわ」
はあ、と先生は重いため息をついた。
「私がもっと早く気がついていれば……いえ、今更ね……」
せ、先生……俺、どうなっちゃうんですか……?




