34 新たなステージの下準備
モンスターと一口に言っても、ダンジョンには多種多様なモンスターが出てくることが確認されている。
チュートリアルダンジョンに出てくるゴブリンや上位種のハイゴブリン、エルフ、ドワーフなど亜人系モンスター。
狼、虎、鳥などの実在する動物からグリフォンやキメラのような幻想動物も含む鳥獣系モンスター。
食人花、ハンギングツリー、マンドラゴラなどの植物系モンスター。
ゴーレムやリビングドール、ミミックなどの物質系モンスター。
魔力を宿して存在できるようになった炎や氷がモンスターになった雪ん子や火炎蝶などの精霊系モンスター。
更に天使や悪魔を亜人系モンスターとは別の系統のモンスターとして区分したり、ドラゴン系は鳥獣系とは別にしたり、モンスターの分類・境界については専門家であっても意見が合わないことが多い。
まあ、自称モンスターの専門家自体がほんの一年少々の研究実績しかないので仕方ないところもあるだろう。
そんなわけで分類が進まずごちゃ混ぜ状態のモンスターだが、最近研究されているのは【スキル分類】という分類方法だった。
例えば紅雪は【対人戦闘:人型生物との戦闘時に補正】というスキルを持っている。このスキルが効果を発揮するモンスターは【人型生物】という属性を持っていると考えられる。
同じような【対○戦闘】スキル持ちを複数用意し、スキルが反応するか否かでモンスターを分類する。ダンジョンから発生する謎の生物をダンジョンのスキルを使って解明するわけだ。
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目の前に積まれたダンジョン資料の山。
それを一つ一つ見比べながら精査していた。
「まず重要なのはこの学園からの距離だね」
教官が各ダンジョンの位置を表示しながら大体の移動時間を割り出していく。
「平日は午前中は通常授業、午後から探索実習だろう? 学園とダンジョンを往復する移動時間を考えた場合、遠くの場所にあるダンジョンは移動時間ばかりかかって効果が悪い。できるだけ近場のダンジョンを探すべきだね」
【洞窟のダンジョン(★)】をクリアした学生は校外実習が認められるようになる。学校から各ダンジョンに送迎バスが出るのでそれに乗って各地のダンジョンで探索を行う。
もちろん【洞窟のダンジョン(★★)】を攻略できるならそのまま攻略を進めても構わない。
だが、うちのパーティのように斥候職がいないパーティも学校には存在するので、将来的には罠が出ない・少ないダンジョンに大勢の生徒たちが押し寄せることになるだろう。
まあ、現在の攻略者は俺と他2、3パーティくらいしかいないらしいので、まだバスの利用者は少ないけどな。
未来のことはともかく、まずは目の前の資料に意識を集中する。
ダンジョンの位置情報を見て遠くにあるダンジョンは候補から除外。そして手近なダンジョンから構成と出現モンスターの情報を調べる。
一番近いのは【森のダンジョン(★★)】だった。モンスターは小人の妖精系、手のひらサイズのピクシーやフェアリーと植物系のモンスターが出てくる。
この妖精系モンスターは状態異常をばら撒いてくるタイプなので防具で防ぐか、回復魔法やアイテムを使って状態異常を治癒する必要があった。
「小人なら【対人戦闘】が発動するし、【特殊使役術(撃破)】の効果でモンスターカードのドロップ率が上昇する。状態異常ばら撒き型のサポーターはちょっと欲しいんだけどな」
近場であることも含めて魅力的な部分は多い。だが、それでもまともな状態異常対策がないうちのパーティだと厳しそうだ。
それに植物系モンスターは耐久力が高い上に、紅雪の【対人戦闘】が発動せず、血が流れていないので赤ずきんの【出血攻撃】も効果が薄い。うちのパーティとは相性が悪いと言えるだろう。
一旦保留にして他のダンジョンを見てみる。
「次は【機械のダンジョン(★★)】……機械?」
写真がついていたので確認したが、ダンジョンは近未来のSFっぽいイメージがする建物の内部が続いていた。屋内型ダンジョンの一種だ。
出現するモンスターは監視カメラのような姿をしていてビームを発射していた。こういうモンスターもいるらしい。……ちょっと毛色が違い過ぎない?
このダンジョンの場合も登場するモンスターが機械なので【対人戦闘】も【出血攻撃】も効果がない。やはりあまり相性は良くなかった。
「こんなダンジョンもあるんだな。……本当にいろんな種類があるな」
パパっと資料を流し読みしてみると屋外型でも草原や山や雲の上というものがあったり、屋内型でも洞窟以外にも砦や和風の屋敷、西洋の館などいろいろとある。
その中でも気になったのを手に取ってみた。
「【樹木のダンジョン(★★)】……大きな樹の枝の上に通路があるタイプ。もしかして世界樹か?」
出てくるのは昆虫系モンスター。大きなガやカマキリ、クワガタにカブトムシなどが出てくる。巨大化した虫を間近で見るのは辛いので、あまり攻略したくないのだが。
でも天を衝くほどの大きさの大きな樹の枝の上で戦うのってなんだか楽しそうだ。マンガやゲームではよくある光景だが、そんな大きな樹は実在しないからダンジョンならではの経験と言える。
観光でもいいから一度は中に入ってみたい。この樹木のダンジョンは他にいい候補がなかったら行ってみてもいいかもな。
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いろいろなダンジョンを見てみたけど、なかなかこれだというダンジョンがなかった。
紅雪と赤ずきんのスキルを活かすなら亜人系モンスターが出てくるダンジョンがいいのだが、亜人系ダンジョンは近場だと【洞窟のダンジョン(★★)】くらいしかない上に、亜人系モンスターは手先が器用で罠を作るのが上手い。必然的にダンジョン内部の罠が多くなってしまう。
逆に罠が少ないダンジョンを調べてみると、亜人系以外のモンスターがいるダンジョンが多かった。
中でも物質系、植物系などが出てくるダンジョンはうちのパーティと相性が悪いと言える。それなら【出血攻撃】が通る鳥獣系モンスターの方がいいだろう。
結局どこも似たり寄ったりで、これという決め手にかけていた。
「迷っているならこういうのもあるね」
若槻教官が手元のタブレットを操作してこちらに見せてくれた。
――【クエスト受注案内】
「……クエスト?」
「そう、クエスト。これも【校外実習】と同じで★★ランクから応募できるよ」
どうやら★ランクダンジョンを攻略したのでいろいろと出来ることが増えていたようだ。
ここでクエストを受注し、その報酬でパーティを強化することも可能らしい。
若槻教官からタブレットを借りて今あるクエストを見させてもらうことにした。




