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トロフィーヒロイン・モンスターガール  作者: タカリ
第一章 トロフィーヒロイン・モンスターガール
29/50

29 閑話・ダンジョン災害後の世界 ~思想・宗教~

国際情勢その2。

世界の宗教関連のごちゃ混ぜ閑話です。思想の話なども混ざっています。


前回のお話も今回のお話も本編のマサルたちには一切関係ありません。本編と無関係のただの小ネタです。

特に救いはないので読み飛ばしてもOKです。

「おお、神よ……! あなたの恵みに感謝致します……!」


 ダンジョンの中で祈りをささげる男がいた。

 彼が身につけているのはカンドゥーラという通気性の良い白いロングワンピースだ。

 アラブの石油王が着ている白い服と言った方が想像しやすいかもしれない。


 この格好が示すように男がいる場所は中東。砂漠地帯のど真ん中である。

 地平線の彼方まで延々と続く砂の海。当然緑はどこにもなく、生物も砂漠の気候に適応したモノ以外は容易く死んでしまう。

 昼間の気温は五十度を越え、冬は氷点下を下回る。雨はほとんど降らないのに雪が降ることさえある。


 近年では砂漠化が進み食料不足や生態系の破壊が問題に上がるなど、非常に過酷な地域である。


 そんな砂漠のど真ん中にダンジョンは存在していた。


 【森のダンジョン(★)】。


 豊富な森林資源と森の中に湧き出る泉を備えたダンジョンだった。

 出てくるモンスターは鹿や猪の姿をしていて、毛皮などの素材の他に肉も落とした。


 「これが奇跡以外の何ものだというのだ! ああ、この楽園は主は我々に与えたもうた神の愛なのか!」


 ハラハラと涙を流しながら、生まれて初めて見る自然豊かな森の美しさに感動する男。

 肌を撫でる風は優しく、花の香りが甘く漂い、木々の梢を透かして地上に届く陽光の柔らかさは砂漠の殺人的な風や日差しとはまるで別物だった。天国が地上にあったのならこの場所に違いないと男は心の底から信じたのだった。


 彼のジョブは【ハンター】。獣型モンスターの狩猟に適したジョブだが、同時に【採取系スキル】を有するジョブだった。

 ダンジョン内の資源はそのまま持ち出そうとすると魔力になって消えてしまう。水も樹も土も岩も、何一つ持ち出すことができない。

 だが、【採取系スキル】の持ち主がスキルを使って入手したアイテムだけは消えずにダンジョンの外に持ち出すことができた。


 男は革袋に新鮮な泉の水をパンパンにくみ取り、森の木々に実っていた新鮮な果物を山ほど抱えてダンジョンから外に出た。【ハンター】ジョブのお陰でモンスターに気づかれずに森を移動するもできた。


 こうして男が住む街まで持ち帰った食料や水は家族や近隣の仲間たちに配られ、ダンジョンの話を聞いた人間たちも同じようにダンジョンを――【楽園】を目指した。

 いくらくみ取っても減らない【楽園】の恵みを目当てに、砂漠のど真ん中に街が出来上がるまで時間はかからなかった。


 ■


 少年がいた。アニメとコミックが大好きな彼は自分にコミックのヒーローのような力が宿らないかと夢見る少年だった。

 彼らは《第一次ダンジョン災害》に遭遇し、不運にもペナルティモンスターとの戦いに巻き込まれたが、それでも何とか生き残ることができた。


 その結果、彼が得たジョブは【英雄ヒーロー】だった。


 ダンジョンというファンタジーな場所で彼は真のヒーローとなった。大好きなコミック(アメコミ)に出てくる超人やキャプテンと同じ、アメリカを守るヒーローの一人に選ばれたのだと信じた。


 だから彼はヒーローを行うことにした。


 彼と同じように《第一次ダンジョン災害》によって【ジョブカード】の力を得たのに、その力を悪用する悪人(ヴィラン)たちを懲らしめることにした。


 ただの高校生だった彼の地道な活動に共感する仲間(サイドキック)恋人(ヒロイン)もでき、やがて彼の呼びかけに応じた人たちは自警団を作り上げた。

 悪を憎み正義を行うヒーローとその仲間たちの活動はどんどん拡大していった。


 ――暴力と恐怖でアメリカのとある街に君臨する、悪名高き【ヒーローギャング】の誕生であった。


 ■


 十字教は最初ダンジョンについて無回答を貫いた。

 地上に実際に現れたファンタジーに対して肯定も否定もしない態度で距離を置いて静観していた。


 だが、あるダンジョンの登場でその十字教の方針は瓦解する。


 【聖域のダンジョン(★★★)】。登場するモンスターは翼を持つ人間――【天使エンジェル】だった。


 ダンジョンに天使が出現し、モンスターカードをドロップして人間たちに使われる。

 これに対して十字教の一部が反発し声明を発表した。


「ダンジョンは悪魔が作り出した万魔殿パンデモニウムである! ダンジョンに出現するモンスターは悪魔が擬態した姿である! 人々の信仰を穢し偉大なる主の聖名を地に落とすために作られた堕落の園である!!」


 唯一神に仕える天使がただの人間に使役されるわけがない、これは全部悪魔の仕業だ!という主張である。


「ダンジョンは悪魔の作り出したもの! 故にダンジョンから出てくるモンスターもアイテムも全て、悪魔が人間を堕落させるために作りだした悪魔のアイテムである! 人々はただちにダンジョンに入るを止めて、ダンジョンのアイテムを捨て去り、ジョブカードの力を使うのを止めるべし!!」


 暴走した信仰者たちはダンジョンを悪魔の巣窟だと断じ、ダンジョンに入ると悪魔に憑かれると主張した。彼らの言葉を信じ、ジョブカードを持つ者を【悪魔憑き】だと排斥する動きも出て、社会は大きく混乱した。


 だが、この声明を出した一派に対し、別の一派が新たな声明を出したのだった。


「ダンジョンは主から人に与えられた試練であり恩恵である。試練を乗り越えることで人はこの世の苦しみから解放され、より高位の存在に近づける。ダンジョンに出てくる天使は主が人に使わした存在であり、下位の天使に過ぎない」


 先に出された声明を全否定し、ダンジョンの存在を肯定する主張だった。

 この一派はジョブカード持ちとダンジョン産アイテムによって恩恵を受けている人間たちが主な支持者だったのだ。ダンジョンが悪魔によるものだと断定されてしまうと十字教社会に居場所がなくなってしまうのだから必死である。

 また、国や政府の命令でダンジョンに入っていた軍や警察の人間もこれも同調した。治安維持や調査の為にダンジョンに入ったのに【悪魔憑き】と後ろ指を刺されるなど、そんな理不尽なことを認められるわけがなかった。


 こうしてダンジョン内の【天使エンジェル】から始まった『ダンジョンは悪魔のものか神のものか』という論争は激化していった。


 片や自らが信じ人生を捧げてきた信仰を守るために。片や自分や自分の家族が暮らす居場所を守るために。

 お互いに一歩も譲ることはなく、いつまでも経ってもお互いの主張は平行線のままだった。


 ■


 彼女は人一番人権意識が強かった。

 裕福な家庭に生まれ恵まれた環境で育った彼女は、自分には弱者を守る義務があると考えていた。

 そして彼女は《第一次ダンジョン災害》の後に素晴らしい真実に気がついた。


 ――ダンジョンは【女性解放】のために作られた存在だと、彼女に天啓が舞い降りたのだ。


 【ジョブカード】の恩恵は非力な女性に邪悪な男と対等に戦える力を与えてくる。

 全人類の全女性にジョブカードを配ることで、もう女性は男性に怯えることも、男性に媚びを売る必要もなくなり、男性という搾取者から解放された真の意味での自由を得られると考えた。


 つまり彼女はフェミニストだったのだ。


 そして、彼女は自分の考えを世に広め、同調する女性たちと一緒に行動を始めた。

 全ての女性にダンジョンを開放しろと主張した。

 全てのダンジョンは女性のための財産であり、男性はジョブカードの取得禁止またはダンジョン使用禁止にしろと声を張り上げた。

 もしも男性にダンジョンを開放するならダンジョンで得たものは全て女性に配るべきだと彼女は言った。


 また、モンスターの中で人型に近いモンスターのうち、女性型のモンスターを使役すること、性的搾取を行うことに罰則を設けるように政府に意見し、男性型モンスターのみをダンジョンで使役するように軍や警察に投書を行った。

 モンスターであろうと女性と同じ姿かたちをしているなら全て“被害者”であった。


 ダンジョンが民間人に解放された後は男の探索者を大勢の女性で囲い込み、ダンジョンからの追い出しや探索者全員を性犯罪者呼ばわりするなどの運動を繰り返した。


 こうした活動を続けていくうちに、彼女たちは【ウーマン・モンスター】と呼ばれるようになっていった。

 “男たちから”ダンジョンを守るモンスターの一種だと貶され、男性探索者から蛇蝎のごとく嫌われるのだった。


 ■


 争いが絶えない地域があった。

 お互いの宗教の違いを理由に常日頃から争いが絶えず、過激なデモや破壊活動も日常茶飯事の土地だった。


 そんな場所にダンジョンが発生した。

 ジョブカードの力が与えられた。


 人々は己が神に感謝し、いつものように祈りを捧げた。


 彼らは敬虔な信徒である。神を信じ戒律を守る善き人々である。

 彼らは誇らしき父であり、優しき母であり、頼りになり兄であり、穏やかな姉であり、導くべき弟であり、愛すべき妹である。

 彼らはこの街に住み日々を営むごく普通の人々であり、困ったときに助け合い、悲しみにともに涙し、喜びを共に分かち合う仲間である。


 そして、彼らは手にした力で、憎むべき異教徒と殺し合いを始めた。

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