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トロフィーヒロイン・モンスターガール  作者: タカリ
第一章 トロフィーヒロイン・モンスターガール
28/50

28 閑話・ダンジョン災害後の世界 ~政治・経済~

感想で聞かれた国際情勢ネタの閑話。

主に政治と経済の動き。興味のない人は読み飛ばしてもOK。

 《第一次ダンジョン災害》の後、世界はダンジョンを規制する方向に移動した。

 なぜなら【ジョブカード】が野放図に広まってしまうと各国内の軍事バランスがおかしくなると判断したからである。


 【ジョブカード】の機能であるHPバリア。銃弾数発なら直撃しても無傷で耐えられる非常識な防具に、いつでもどこでも呼び出せる武装、魔法やスキルという遠距離攻撃手段。そして戦闘訓練を受けていない素人でも戦い方を自然と理解できる。

 この【ジョブカード】を国家の安全を脅かす【兵器】と認定し、軍や警察組織以外の取得を禁止した。これが《第一次ダンジョン災害》の後の各国政府の動きであり、日本もまた同様の対応を行っていた。


 ■


 しかし【ジョブカード】の有用性が徐々に人伝に広まり、各地で隠れてダンジョンに入る人間が現れるようになっていく。


 日本の場合は個人や極少数の知り合い同士で楽しむための【プライベートダンジョン】として用いられ、ひっそりと使われるのがほとんどだった。個人規模の小規模のダンジョン探索である。


 大国と呼ばれる国では国土全体に無数のダンジョンが発生し、警察や軍では全てを管理するだけの人員を用意できなかった。

 仕方がないので出入口だけ封鎖して撤退していったのだが、当然そんな有様ではいくらでも出入りができてしまう。警備が甘いダンジョンを狙って多くの人間が出入りするようになっていった。


 また、政府の影響力が低い地域ではダンジョンの存在を秘匿し、場合によっては現地の治安組織まで巻き込んでダンジョン攻略が進められた地域もあった。


 そして裁判大国のアメリカでは、自分の家の敷地にできたダンジョンなのだから自分の所有物だと堂々と国家を相手に裁判を起こす者までいた。

 所有者の男性は裁判を起こしたことで一躍有名になっただけではなく、他の人間から利用料金を取って一般人への開放まで行った。

 このダンジョンを巡った裁判にアメリカ中が注目し、後追いの人間も出てくるのだが、それも半年と経たずに収束する。


 ■


《第二次ダンジョン災害》。通称【スタンピード】。

 最初の第一次からちょうど半年後に発生したこの災害によって、ダンジョンから大量の★モンスターが湧き出てきた。


 日本の場合は政府が管理しているダンジョンならばジョブカード持ちの警察官や機動隊員がダンジョン前に待機していたので大きな被害は出なかった。モンスターはジョブカード持ちの人間に殺到し、ジョブカードを持たない人間や建物、設備などの被害は少なかった。

 その分ジョブカード持ちの人間が苦労をすることになったが、ダンジョン内と同じでHPが全損した時点でモンスターのヘイトが消滅したので、その法則にすぐに気がついた人間たちは速やかに対応できた。また、少数だが銃火器を配備できていたのも功を奏していた。


 一方、プライベートダンジョンでこっそりと探索していた探索者たちは数の暴力の前に屈した。

 一人から数人程度の人数では津波のように押し寄せるモンスターの大群に対応できず、銃火器のような装備もなかったので大量のモンスターに寄ってたかってタコ殴りにされた後、周辺地域へモンスターが散らばってしまった。

 そうして散らばったモンスターが各地の建物を破壊し、一般人は逃げ惑い、周辺に住んでいたジョブカード持ち、マサルと紅雪も実家を守るためにモンスターの群れと戦うハメになった。



 以上が日本の事情だが、世界各国ではまた対応が違った。


 警察や軍が待機していたダンジョンはほとんど日本と同じだった。

 だが、ろくにダンジョンの管理がされていなかった地域や、民間人のダンジョン探索が進んでいた地域では周囲の住民がジョブカードを手にモンスターの殲滅を行った。

 これらの地域ではジョブカードを持っていない人間でも銃で武装していることは多かったので、街中で銃撃戦が発生するなどの事件はあったが、ほとんど人的・物的被害を出さずにモンスターの処理をすることが可能だった。


 アメリカでダンジョンを公開して利用料を取っていた男だが、【スタンピード】当日はホテルに宿泊していたので直接の被災はしなかった。また、万が一モンスターが溢れてきた時のためにガードマンを雇うなど一応の対応もされていた。

 だが、不運なことにダンジョン利用希望者のグループがスタンピードに巻き込まれて乱戦になってしまい、負傷者が多数出てしまった。当然、所有者の男性はダンジョンの管理責任を問われて多額の賠償請求をされることになった。他のダンジョン所有者を名乗っていた人間たちも同様の事態に陥った。


 この結果を見てダンジョンを所有するリスクを改めて認識した人間たちは大きく二つに分かれた。

 ダンジョンのある土地を売却して手放す人間と、逆に買いたたいて徹底的な安全管理の元に運用しようとする大富豪、大企業である。野心に燃える人間たちはこぞってダンジョンの所有権を求め、合衆国政府や州政府と裁判で争った。


 これらのダンジョンとは別に、【人間に発見されていない未発見ダンジョン】も各地に多数存在していた。アメリカ、ロシア、中国などの大国や、他国との国境線沿いなどに【未発見のダンジョン】の数は多く、大量のモンスターが散らばることになった。

 モンスターたちは人間や人工物を求めてさまよい、山を谷を草原を森を砂漠を越え、人里まで襲撃にやってきた。

 だが、そんな僻地に住んでいる人間たちである。普段から猛獣や盗賊対策として銃で武装している者や、国境警備の軍人などだったので難なく撃退に成功していた。

 また、運悪く(?)人間たちと遭遇できなかったモンスターたちは一週間ほど地上を彷徨った後に魔力に還って消えていった。

 地上に住み着くモンスターは一匹もいなかった。


 ■


 世界中を震撼させたスタンピードだったが、真の恐怖はモンスターの撃退後に訪れた。

 倒したモンスターが【ダンジョンカード】というマジックアイテムを落としたのだ。

 このマジックアイテムは『ダンジョンの場所を示す機能』と、『一度だけダンジョン内に転移する機能』を持っていた。


 ――つまり、【スタンピード】とは【ダンジョンの広告活動】だったというわけだ。


 『もしかしたら、ダンジョンはいつでもスタンピードを起こせるのかもしれない』

 その事実に人類は気がつき恐怖した。

 今回は★ランクのモンスターだったから簡単に倒せたし銃も通用したが、★★★ランクのモンスターとなると対物ライフルが直撃しても一発では死ななくなる。機関銃の銃撃を強固な外皮で弾くモンスターすら出てくる。

 そんな恐るべきモンスターたちが【営業活動】に参加したら、人間社会はどうなってしまうのか?

 その疑問の答えは誰でも簡単に想像がつくだろう。


 各国は手のひらを返したようにダンジョンの封鎖を解除した。

 【スタンピードの真実】が民衆に広がらないようにできるだけ情報操作し、【ダンジョンから有益な物資】が産出したのでダンジョン探索を推奨するという風潮を作り出した。

 ちょうどスキルカードやダンジョン産資源の研究成果が上がってきた頃だったこともあり、政府はダンジョン探索を【安全で将来性の高い夢が溢れる職業】だと喧伝し始めたのだ。


 ダンジョンが【営業活動】を行わないように大勢の人間をダンジョンに放り込み、もしまた【スタンピード】が巻き起こった時に防衛戦力となる人間を増やすために、探索者を増やす必要があった。


 一方、民間人の間にも『ダンジョン災害から自衛する為にはダンジョンを利用するしかない』という考えが広まっていた。

 銃社会で自衛の為に銃を持つのと同じ。だから民間人にもダンジョンを開放してジョブカードを与えるべきだという声が欧米諸国を中心に沸き起こっていく。

 封鎖されたダンジョンの周りに集まってデモ集会を行うなど活動は世界中で活発化した。


 ダンジョン探索者を増やしたい政府の思惑と、ダンジョン探索をしたい民衆の声が合致し、世界中で次々にダンジョンが民間開放されていくことになる。

 【精力増強】や【繁殖力増強】など、ダンジョン以外では手に入らないアイテムを手に入れたい世界の富裕層もこの流れに乗った。

 自分たちがダンジョンに入るのは嫌だが探索者がダンジョンで手に入れてきたアイテムは買いたいという人間たちによって、ダンジョン探索が一つの職業として成立する仕組みが急速に出来上がっていった。



 こうして、《第一次ダンジョン災害》から一年と経たない僅かな期間に探索者という職業が誕生し、日本でも国立探索者学校が設立された。

 次の【営業活動スタンピード】がいつ発生するのか戦々恐々な事情を知る者たちに対し、何も知らない一般人たちはダンジョンの民間開放に歓声をあげたのだった。


 ■


 ――なお、世界全体はダンジョン開放に動いていたが、一部の国や地域はスタンピード後もダンジョン封鎖を続け、民間人のダンジョンへの立ち入りを禁止し続けた。

 【ダンジョンから溢れてくるモンスター】よりも【それ以外の脅威】の方が問題であると判断し、ジョブカードの民間流出を懸念した結果である。

 これらの対応を取った国では政府に対する不満が高まっていき、政府が管理できていないダンジョンに集まった人間たちによる地下組織が作られていく。

 卵が先か鶏が先かという話だが、政府の懸念は現実になっていくのだった。

その2で宗教の話の話に続きます。


赤ずきんという名前が不評のようなので新しい名前を考え中です……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [一言] 自爆テロしても本人ピンピンしてるとかヤバいですよね SPや警備会社などがいかに護衛対象守るかで頭悩ませそう そして結論でジョブカード取得してもらうとかにw
[良い点] 更新お疲れ様です。 こういう所をみると、所謂現代ダンジョンものにおける黎明期なんだなぁと 背景を見て色々想像するのも楽しいですねぇ。 [一言] >赤ずきん 開き直ってそのまま話のネタに…
[良い点] 国際情勢知りたかったので、ありがたいです。 [気になる点] ジョブ持ちが現れてから本格的な戦争や内紛はまだ起こってないようですが、 一度でも起こったらまた情勢変わってきそうですね。
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