26 終
【『偉業:ブラッドモンスターの討伐』を達成しました】
【特殊ジョブ・【英雄】の達成条件を満たしました】
【――エラーが発生しました】
【対象:堂島勝の『人類に対する友好度』が一定値未満です】
【特殊ジョブ・【英雄】へのジョブチェンジが自動でキャンセルされました】
■
――教官の控室
「若槻。堂島少年はどうだったんだ?」
「はい、事情聴取と経過観察ということで学生寮に残ってもらいましたが、事件の後も落ち着いていた様子で例のハイゴブリン亜種と一緒に過ごしていました」
「そうか。ジョブは?」
「【魔物使い】のままのようです。【英雄】への覚醒は見られませんでした」
「そうか……。彼はこれでペナルティモンスターの討伐は二度目のはず。それでも【英雄】にならなかったか。やはり何か我々の知らない条件が存在しているのか……?」
「ペナルティモンスターの討伐者でも【英雄】にならない者もいます。堂島くんもそのタイプなのかもしれません」
「ふむ。【英雄】は強力なジョブだからもっと増えてほしい、が……堕ちるよりはマシか」
「そうですね。もしも彼が【魔王】に覚醒していれば生徒たちにどれだけの被害が出たかわかりません。教員でも彼らを止められるかどうか……」
「強力なペナルティモンスター二体の所有者か。まだ★★ランクなのが幸いだな。いざという時は頼りにしているぞ」
「はい、お任せください」
★★★ランクダンジョン到達者、若き【英雄】若槻は力強く頷いた。
■
【対象:堂島勝の『人類に対する友好度』が一定値未満です】
【特殊ジョブ・【英雄】へのジョブチェンジが自動でキャンセルされました】
【対象:堂島勝の『モンスターに対する友好度』が一定値以上です】
【特殊ジョブ・【魔物使い】を継続します】
【本来のランクより上位のモンスターを撃破したのでジョブカードが強化されます】
■
久しぶりにジョブカードが使えるようになった日。
ジョブカードを見ると微妙に表記が変わっていた。
【ジョブ】魔物使い 【ランク】★☆
ランク★の横に☆が一つ増えていたのだ。
このことを教官に相談してみたところ、稀に起こる【ジョブカード強化現象】だと教えてもらった。
多くの場合はジョブカードを魔石で強化し続けると発生するらしいが、今回のように格上のモンスターや強敵を倒した場合でも起こるらしい。俺もできれば安全に魔石強化の方で起こしたかった。
まあそうわけで詳しくジョブカードの性能を調べてみたところ、何が強化されたのかすぐに判明した。
【召喚制限】。
【格上の★★ランクモンスターを一匹しか召喚できない】という制限がなくなっていた。
そこで早速、二体の★★ランクモンスターを呼んでみることにした。
まず一体目は【★★ハイゴブリン・ダンピール】。
白銀の髪と紅の瞳を持つ美しい少女。
“紅雪”の名を与えた、俺の最初の相棒であり最も頼りにしている存在。
そして二体目は【★★ハイゴブリン・レッドキャップ】。
残虐で人を襲うことを好む悪妖精の名を持つ者。
例の事件で紅雪がこの赤コートの怪人を倒した際にカードをドロップし、忘れずに回収しておいたモンスターだ。
俺がレッドキャップのカードを使うと光の粒となって拡散し、すぐに人型に集まって形を成した。
来ているのは鮮やかな赤い乗馬用コート。目深にかぶっていたフードをとると金の髪が零れ落ちた。
半分閉じられた瞳は透き通った翠の輝きを宿し、薔薇の唇にピンクの頬の、とても愛らしい少女だった。
「こんにちは、ご主人さま。ハイゴブリン・レッドキャップよ。よろしくね?」
可愛い声で挨拶をするレッドキャップ。
あの奇声をあげて襲ってきた怪人と同一人物とは思えない美少女だが、倒す前と倒した後でモンスターの容姿が一致しないのがよくあることだった。実際にカードを使ってみるまで召喚されるモンスターの容姿はわからない。
だからぶっちゃけレッドキャップにも期待していたのだが、どうやら予想通りの大当たりだったようだ。ブラッドモンスターは美少女しか出ないんだろうか。かなり興味はあるが自分で試せないのが残念である。
「ああ、これからよろしく頼む、レッドキャップ……ううん」
これからもずっと使っていくつもりなので何か名前を付けようと思うが、難しい。
俺に名前のセンスはないのだ。紅雪の時も名前をつけるまで半年かかったし。
「……?」
こてん、と首を傾げるレッドキャップ。
身にまとった赤いコートから、とある有名な童話の主人公を連想した。
「そうだな、とりあえず“赤ずきん”と呼ぶか。」
「赤ずきん……?」
「ちゃんとした名前は後で考えるけど今日からお前は“赤ずきん”だ。レッドキャップじゃ可愛くないしな」
「わかったわ。素敵な名前をつけてね、ご主人さま?」
ふんわりと微笑んだ赤ずきんが抱き着いてくる。
ふにょん。
背丈は紅雪と大差ないのに一部の戦力は赤ずきんが圧倒していた。新感覚である。
「……新人のくせにマスターに馴れ馴れしいですよ、赤ずきん。離れなさい」
俺と赤ずきんのファーストコンタクトを見守っていた紅雪が、低い声で赤ずきんに迫った。
「嫉妬しているの、お姉さま?」
「お、お姉さま!? ……い、いいから離れなさい! 私のマスターから離れて!」
「いや♪ ご主人さまはあたしのご主人さまだもの。ねえ、ご主人さま?」
「もう……このぉ…‥!」
赤ずきんはますます俺に抱き着いてきて、紅雪は何とか俺と赤ずきんの割って入って無理やり引きはがそうと悪戦苦闘している。
そんな二人の体を抱きしめた。
「俺がお前たちの物になるんじゃない。お前たちが俺の物になったんだ。そうだろう、紅雪、赤ずきん?」
チュートリアルダンジョンと洞窟のダンジョンと二回も続いた凄惨な事件。
――その事件を打ち破り、勝利して手に入れた勝者の証であり。
「はい、その通りです、私の英雄」
「ええ、その通りね、私の英雄」
――二つの事件で見事に試練を乗り越えてみせた愛しい主に、怪物の乙女たちは微笑んだのだった。
■ 第一章 『トロフィーヒロイン・モンスターガール』 終わり ■
今回で第一章が終わり、連続更新も一旦終了の予定です。
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