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トロフィーヒロイン・モンスターガール  作者: タカリ
第一章 トロフィーヒロイン・モンスターガール
25/50

25 決着

「――そのパターン、紅雪の時に見ているんだよ」


 【ペナルティ】が発動してモンスターのヘイトが上昇し、赤コートの意識が俺に向けられる。

 それまで紅雪に向けられていた意識が、今は完全に俺に集中していた。


「隙だらけだぞ」


 ナイフを振りかざして走り寄ってくる赤コート。背後から迫っている紅雪のことは完全に意識から外れている。


 紅雪と赤コートが拮抗状態だったことは見て分かった。紅雪が普段の戦闘と違って焦っていることも伝わってきていた。

 だから、このまま傍観していては紅雪が危ないと思ったのだ。

 逆転の為には更なる一手が必要で――その一手かとうが、ちょうど手元にあった。


 これまで散々迷惑をかけてくれた恨み(おれい)を籠めて加藤の顔面を殴り飛ばし、ヘッドバットに金的までおまけしてやった。

 これは必要な犠牲だったのだ。紅雪の勝利の為のコラテラルダメージという奴だ。

 まあ、のんきに喜んでいる姿や俺の紅雪を勝手に呼び捨てにしてることに対する苛立ちも200%くらい混ざっていたが、必要な行為だったことに違いはない。

 そして、うっぷん晴らしを兼ねた暴行で狙い通りに【ペナルティ】が発動。


 赤コートの意識ヘイトは完全に俺に向かっていた。

 これなら紅雪がきっちりトドメを刺してくれるだろうと安心して、俺は赤コートの振りかざしたナイフを受け入れた。




 ――手に持っていた加藤(にくかべ)をナイフの前に突き出して。


 ザクリ。




「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 加藤の背中にナイフが深々と突き刺さり、赤コートの手が止まった。新たに加えられた痛みに加藤が泣き喚いて暴れ出す。

 こいつまだ叫ぶ元気があったのか……。まあ、こんなイベントに巻き込まれて加藤の尻拭いをさせられているのだ、このくらいは我慢してもらおう。


「――終わりです」


 武器が刺さってしまい、一瞬動きを止めた赤コート。その背中に向かって、紅雪は体ごと体当たりするように致命傷の一撃を加えた。胴体の中心にゴブリンナイフの刃が半分以上沈み込んだ。


「ギイイイイイイイィィィ!!!!」

「ぎああああああああああ!!!!」


 最後の悪あがきとして暴れる赤コートを、やっぱり手で支えたままにしていた加藤(にくかべ)で抑え込む。うるさいことを除けば非常に使い勝手がいい。加藤くんは【格闘家】より【盾役タンク】の方が向いているんじゃないかな?


 その状態のまましばらく暴れていたがついに赤コートの体力も尽きたらしく、地面に倒れ込んだ赤コートの体がゆっくりと光の粒にほどけて溶けていった。

 これでようやく加藤くんもお役御免だ。痛い痛いとうるさいのでその辺の床にリリースした。


「はぁ……やっと終わった。寿命が縮むかと思った……」

「マスター! ジョブカードもないのに危険なことをしないでください!」


 涙を浮かべた紅雪が抱き着いてきたので両手でしっかりと受け止める。


「ごめんな紅雪。でもどうにかして隙を作らなきゃと思ってさ。あれ以外の方法が思いつかなかったんだ」

「もう! そんな無茶をしなくても私だけで勝てました! 二度としないでくださいね!」


 小さな切り傷をいくらか作った紅雪が、ぷくぅとほっぺを膨らませて怒る。

 ごめんなさい、反省してします。

 でも結果として俺は怪我をしていないからよくない? よくないって? ダメ、そうですか。はい。すみません。




【ブラッドモンスターの討伐を確認しました】




 俺と紅雪がお互いを労わりあいながらイチャイチャしていると空気の読めないダンジョンアナウンスさんが割り込んできた。




【以上でペナルティを終了します】




 これも紅雪の時と同じ。

 ダンジョンはペナルティを人間に与えるが、一度を乗り越えてしまえばそれ以上のペナルティは与えられない。

 加藤たちが呼び出したブラッドモンスターの件も、俺が加藤を暴行した件も、全部ダンジョンのルールではチャラなのだ。




【ペナルティ対象の強制排出を開始します】




 倒れ込む加藤や、俺や紅雪の足元に魔法陣が出現する。

 加藤の取り巻きたちもまだダンジョンの中にいるなら今頃一緒に排出されているところだろう。


 放っておけば出血多量で死ぬかもしれないが、ダンジョンの入り口には警察や機動隊が待機しているし、当然医者もいるので問題ない。


「あ、紅雪をカードに戻さないと……」

「ダメです」

「え? いや、ダンジョンの外に出るんだからカードに……」

「今戻るとジョブカードが再び使えるようになる三日後まで召喚できません。だからこのまま残ります」

「いやいや、だから、ルールが……」

「私がマスターのお世話をするんです! 絶対に戻りませんからね!」

「ええ……どうしよこれ……」


 魔法陣が光り、俺と紅雪と他数名がダンジョンの外に放り出された。


 なんか紅雪が過保護モードに入っちゃったんだけど、先生にお願いしたら許可くれるかな……。


 ■


 事件の後、血まみれの加藤たち三人は病院に緊急搬送された。

 俺は怪我らしい怪我をしていなかったので普通に学生寮に戻され、事情聴取の為に事実待機を命じられた。


 ダンジョンはしばらく封鎖して調査を行うらしく、ちょうどゴールデンウィークが目前だったということもあり、一旦学生たちは親元に返されることになった。


 加藤は病院で治療中だが、体中が傷だらけで治療も大変らしい。ダンジョン産のポーションやジョブカードの回復魔法はHP回復用の手段なので実際の怪我の治療にはほとんど役に立たない。まだしばらくは痛みにうめくことになるだろう。


 さらに取り巻きの一人をカッターで切りつけたとか何とかで警察も動いているし、ブラッドモンスターを意図して呼び出したということで危険思想の持ち主として探索者学校も除籍処分になるらしい。将来十八歳以上になって探索者試験の受験をしようとしても、申し込みすら拒否されるレベルだ。

 まあつい最近も問題行動を起こして謹慎処分を食らっていたのに、解除された途端にこの騒動だ。さすがにこんなバカに探索者資格を持たせたら不味いと判断されたのだろう。


 問題は加藤のジョブカードについてだが、実は【ペナルティ】を食らってHP全損するとジョブカードが【見習い】というジョブに変わる。【見習い】にはHPバリアしかなく、ステータス補正もないし魔石強化やカードのセットもできない。要するにHP以外の全ての恩恵を失う。

 この見習いから元のジョブに戻るにはもう一度チュートリアルダンジョンに入り直してクリアしないといけないのだが、加藤の情報は既に関係機関に通達されているのでダンジョンのゲートで止められる。


 つまり、日本にいる限り加藤が再び探索者になる方法は存在しないし、ジョブカードの力も使えないというわけだ。

 今回の騒動に巻き込まれた俺としても、こんな疫病神がダンジョンに戻って来られるのは嫌なので非常に嬉しい結果となった。


 そんな話を聞きながら寮の自室で紅雪といちゃいちゃしながら三日間を過ごし(先生たちが許可をくれた)、ようやく俺のジョブカードも機能を回復したのだった。




 ■


【『偉業:ブラッドモンスターの討伐』を達成しました】


【特殊ジョブ・【英雄】の達成条件を満たしました】

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