17 アクシデント
「というわけでカードを貰ったぞ!」
「まったく話が見えないんですけど?」
手に入れたばかりのスキルカードを紅雪に見せると怪訝そうな顔をされた。まあ説明していないんだから当然だな。
「いや、この前の探索で加藤たちに邪魔されてろくな収穫がなかっただろ?」
「そうですね。本当に邪魔な人たちでした」
紅雪の心底嫌そうな姿は珍しいが、それだけ嫌われるようなことをしたのだから当然だな。
俺もあいつら嫌いだし。あいつらの顔すら見たくない。
「まあそれを先生にチクって謹慎処分においやったんだけどさ。その時一緒に加藤たちが集めた魔石やカードも先生たちが没収したらしい」
「あれ? 確かあの人たちスキルカードも出てましたよね?」
「うん、で、それがこのカード。さっき貰った」
「なるほど。そういうわけでしたたか」
簡単に言えば迷惑料だ。本来は俺と紅雪が倒していたはずのモンスターをあいつらに横取りされた形になったので、あいつらが手に入れたドロップ品を被害者である俺たちに渡すという形で補填したわけだ。
逆に言うとそれくらいの補填がないと被害者である俺や紅雪が一方的に損をすることになる。貴重な週末探索の機会を邪魔者に潰されて終わりなんて不公平すぎるだろう。
「手に入ったのは【生命力強化】と【逃げ足】だった。【生命力強化】はHPが増えるから悪くないんだけど、今回は売却して魔石に交換してしまおう」
「またカードを残すのかと思いましたけど、売ってしまうんですね」
「モンスターカードが出た時に一枚はすぐに使えるようにしておきたいからな。もうちょっとMPを増やせばゴブリン一匹くらいなら呼べそうなんだよ」
先週の平日の探索で手に入ったDPはおおよそ100DP。ただ【繁殖力強化】のスキルカードは確保したので差し引き80DP、魔石四十個分だ。
今回手に入れたスキルカード二枚を売れば40DP、魔石二十個が追加で手に入る。
そういうわけで早速交換してきた魔石をジョブカードに使っていたところ、五十個使ったところで変化があった。
【スキル】
・魔力強化 MPが増える
ジョブカードに新たなスキル【魔力強化】が出現していた。
【生命力強化】と同じステータス強化系のスキルで、後衛系のジョブに出やすいと言われている汎用スキルだ。MPがカツカツな俺としてはかなり嬉しいスキルだった。
「よし、これでモンスターカードが出てきても大丈夫だ」
「よかったですね、マスター」
ダンジョン探索二週目。
俺たちは幸先のいいスタートを切れたのだった。
■
「モンスターカードが……出ない……!!」
そして金曜日。
毎日ちゃんと真面目にダンジョン探索をしていたのにゴブリンのモンスターカードが一枚もドロップしない。ついでに【精力強化】も出ない。
今週は【HPポーション】などの消耗品や【ゴブリンナイフ】という装備カードがドロップしたけどそれだけ。
「【魔物使い】はモンスターカードのドロップ率が高いはずなんですけど……なかなか出ませんね」
「ドロップでモンスターカードを確保して残りのDPで魔石を確保する予定だったのに……いっそDPでモンスターカードを購入した方がいいのか?」
「でもマスター。未強化のゴブリンをそのまま使うのなら私一人で戦っても変わりませんよ」
「確かにその通りなんだよな……どう考えても足手まといだ……」
今週手に入れたDPも100DPくらいにはなりそうだった。
50DPでモンスターカードを買うか、全部魔石に交換して五十個をジョブカードの強化に使うか。
「ジョブカードの強化で紅雪を強化できるスキルを覚えられたら最高なんだが、そう上手くいくとも限らないし……」
「スキルを覚えなくてもマスターのMPが増えるなら無駄ではないですよ」
「MPが増えても使い道がないと――あ」
手持ちのカードの中にあった【ゴブリンナイフ】の装備カードを見て思いついた。
・ゴブリンナイフ:ゴブリンが使っていたナイフ。攻撃力に補正(微)。
この装備カードは売ってしまうつもりだったが、それよりいい方法があるかもしれない。
「紅雪。この【ゴブリンナイフ】を装備できるか?」
「これですか? ……はい、装備できるみたいです」
「じゃあMPは余ってるし紅雪がそれを使ってくれ。紅雪を強化するのが一番探索効率がいいはずだ」
「マスター……はい、わかりました。ありがとうございます。大事に使いますね」
俺が渡したゴブリンナイフを宝物のように大事に抱きしめ、紅雪は笑顔を見せてくれた。
色気のないプレゼントだが喜んでもらえたようで何よりだ。このナイフでたくさんのゴブリンを血の海に沈めてくれることを期待しているぞ。
■
モンスターカードは基本的にカードを【セットできない】。装備カードやスキルカードを使用することはできず、同ランクの魔石でのみ強化が可能である。
だが、一部のモンスターとカードの間に【シナジー】が存在しており、この場合は装備可能になる。
今回は【ハイゴブリン】の紅雪と【ゴブリンナイフ】の装備カードに【シナジー】が存在していたので装備できた。
この情報は既に公になっているので少し調べればわかるが、【シナジー】の存在するモンスターとカードを揃える手間がかかるのであまり活用されていない。
また、モンスターが使うカードの分だけマスターの支払うコストが増える仕組みだったので、【シナジー】の発生する組み合わせを発見しても簡単に濫用できないという事情も存在した。
普段の探索ではあまり活用されないちょっとした小技程度のテクニックである。
■
「モンスターカードでねえかー……モンスターカードねえかー……」
「マスター。暇なんですか?」
「うん、ぶっちゃけ暇」
ゴブリンはサーチ&デストロイで紅雪が倒してしまうし、罠が仕掛けられているわけでもないから気を抜いていても問題ない。現状の俺はただダンジョンの中をぶらぶら散歩しているだけと言える。
「最初は緊張したし新鮮だったけど、さすがに十日以上も通い続けると飽きるな」
「もう、そんなこと言って。そんな風に気を抜いていると怪我をしますよ」
「HPバリアがあるからそうそう怪我なんてしない――」
――きゃあああああああ!!!
「紅雪!」
「はいマスター!」
通路の奥から響いた悲鳴に紅雪を先行させて駆け出した。




