15 もう一人のゴブリン使い登場!
「マスター、今日は家で休んでいた方がいいのでは?」
「大丈夫だから。本当に問題ないから」
「……何かあったらすぐに言ってくださいね?」
「わかってる。大丈夫だって」
週末。紅雪に体調を心配されながら学生寮を出た。いや、昨夜は体調が悪かったとかそういうことじゃないんだ。ちょっといろいろと思うところがあっただけだから、本当に心配しなくていいぞ。
寮から徒歩数分という神立地の便利さで学校に到着した。
昔は学校の近くに住んでいる生徒は時間ギリギリまで家に居られるから羨ましいと思っていたものだ。朝の登校時間ギリギリにやってるアニメを断腸の思いで諦めて家を出た幼い頃の思い出。まあ録画しているから帰ってから見るんだけど。
複数ある校舎の横をすり抜けてダンジョンの入り口がある中庭に到着した。
「遅い! いつまで待たせる気だ!」
「……は?」
なぜか加藤が既にスンバっていた。怒っているような顔の加藤の後ろには子分らしき男子生徒が二人がいてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「なんでお前がいるんだ?」
「週末に一緒に探索すると言っただろ! だからお前を待ってたんだ!」
「それは断ったはずだ。お前とは組まないってな」
「ふん、それはこれを見ても言えるかな?」
加藤が右手を前を突き出してカードを出現させた。
【名前】 なし
【ランク】 ★ 【種族】 ゴブリン
【スキル】
・火魔法
「…………それがなんだよ」
杖を持ったゴブリンの絵が描かれたカードを持って加藤がドヤ顔を見せた。
「俺のゴブリンは【火魔法】のスキルを持っているゴブリン・マジシャンなんだぜ! ここじゃ魔法を使えないからな、中で見せてやる! ついてこい!」
加藤がこっちの返事も聞かずにさっさとダンジョンの中に入ってしまった。子分らしい二人も中に入ってしまう。
「……このまま帰ろうかな」
一瞬本気で帰りたくなった。
寮の自室で一日中紅雪といちゃいちゃして過ごす休日……とても魅力的だ。
だが、一日中ダンジョンに潜れる週末探索の機会はなるべく逃したくない。普段の授業だと午前は通常科目や座学があって、午後からダンジョン実習が行われる。往復の時間を考えるとダンジョンの奥で活動できる時間は限られてしまう。
「……さっさと話をつけて奥に移動するか」
これ以上付きまとわれても嫌だし、仕方ないと魔法陣の中へ足を踏み入れた。
■
「遅いぞ! 何をちんたらしているんだ!」
ダンジョンに入った途端に加藤の罵声が飛んでくる。これだけでやる気が削がれることこの上ない。踵を返して帰りたくなる足を何とか抑え込んだ。
「おい、さっきから言っているが――」
「まあいい! 見ろ、これが俺のゴブリン・マジシャンだ!」
本当に人の話を聞かないなコイツ。
加藤の側でゴブリンが実体化する。粗末な杖を持っている以外は普通のゴブリンと変わらない。着ている者もローブのような上等なものじゃなく、ボロボロの布切れの服だ。
ただ、攻撃系スキルを持っているモンスターは人気が高い。特に火魔法のようにわかりやすく有用なスキルを持っている場合は特に希少価値がついたはず。
★のモンスターカードは人気があるカードだと十万円くらいしたはずだから、この火魔法を使えるゴブリンもそれくらいするのかもしれない。
ちなみに戦闘系以外のスキルを持っているゴブリンは一万円くらいが相場らしい。
「おい、お前ら! お前らも出せ!」
「「はい!」」
目の前のゴブリンについて値踏みしていると、今後は取り巻き二人がそれぞれモンスターカードを取り出して呼び出した。剣を持ったゴブリン・ソードマンと盾を持ったゴブリン・シールダーが現れる。
この二体も人気が出そうなカードだ。売ればいい値がつくだろう。
「どうだ! これが俺のゴブリン軍団だ! これで俺の凄さがわかっただろう!」
加藤が得意げに胸を張って堂々と立っている。よく見ると加藤は【格闘家】、残りの二人はそれぞれ【斥候】と【魔法使い】系のジョブだった。ゴブリンたちを含めると前衛三後衛三で意外とバランスの取れた編成だ。
(でも全部普通のゴブリンじゃあな……)
自慢したい気持ちも少しはわからなくないが。
だが、うちの紅雪は★★ランク。加藤たちが束になってようやく試合になるかどうかというレベルだ。
しかも普通のゴブリンは口が耳まで裂けていたりして醜い容姿をしているが、紅雪はアイドル顔負けの美少女である。
強さも見た目も紅雪一人に敵わない集団を見ても「ふーん、で?」という感想しか思い浮かばない。
それに三人のジョブは【魔物使い】ではない。魔物使い系のジョブは『召喚コスト軽減』『モンスター強化』などのジョブスキルを覚えるが三人にはそういう補助が一切ない。だからゴブリンを召喚する為にかなりのコストがかかってしまう。はっきり言うとコスパが悪い。
せめて一匹だけならまだ良かったのに、わざわざ三匹も用意するのは戦略的に間違っていると思う。
「……そうか、まあお前たちはお前たちで頑張ればいいんじゃないか」
だが、わざわざそれを指摘してやる理由もないし、嫌いな相手に助言をするほど人間ができていない。さっさと探索に向かうことにする。
「おい、まだお前のゴブリンを見せていないぞ! 俺のゴブリンに恐れをなしたのか!」
「見せるなんて言ってない。ついてくるな」
「俺のゴブリンたちを見せたんだからお前も見せるべきだろ!」
「お前が勝手に見せびらかしたんだろうが」
ぎゃあぎゃあと喚きながら加藤たちが後から追いかけてくる。しばらく言い合いをしながら進んでいくと前からゴブリンがやってきたので紅雪を召喚した。
「マスター。後ろの人たちは敵ですか?」
「とりあえず放っておけ。それより敵が来るぞ」
「はい、わかりました」
入口近くだったのでゴブリンは一匹しかいなかった。さくっと紅雪が処理してしまう。
「お、お前……それが、ハイゴブリンなのか? 本当に美少女じゃないか……それに、なんだあの強さ……」
戦いが終わると加藤が唖然とした様子で声をかけてきた。目は紅雪をしっかりと見据えていて気持ちが悪い。加藤の視線を遮るように紅雪を隠した。
「もう見たんだから満足しただろ。邪魔だから向こうに行けよ」
「いや……ますます欲しくなった。いくらなら譲る?」
「はあ?」
譲るわけないだろ。本気で頭がおかしいのか。
「いくら積まれても紅雪を売る気はない。それに名付け済みだから譲渡はできないぞ」
「なんだって……そうなのか……」
そう答えるとしばらく考えたように黙り込んだ後、口を開いた。
「じゃあ堂島を俺のパーティに入れてやる。それで我慢してやる、仕方ないな」
「それも断ると言っているんだが?」
「なんで俺のパーティを断るんだ! 見ての通り素晴らしいパーティだろ!」
本当に会話が成立しない……いい加減こいつの相手に疲れてきたぞ……。
「とにかく、お前のパーティに入らないし、これ以上ついてこられると迷惑だ! もう後を追いかけてくるのは止めてくれ!!」
改めてハッキリと加藤たちに告げて、更に奥へ進んでいった。
■
ダンジョン奥地。
「どうだ! これが俺たちの力だ! これでわかっただろう!」
懲りずに加藤たちが俺を追いかけ回し、今は三匹のゴブリン相手に数の暴力でボコボコにしていた。
さっきからアピールのつもりなのか、こっちの狙った獲物を横取りしてばかりしているのだ。紅雪ならもっとスマートに短時間で勝てるのにな。
結局一時間ほどダンジョンの中をうろついたが、俺たちは全然モンスターを狩れなくて、加藤たちに纏わりつかれ続ける精神的苦痛を味わうことになった。
「どうしましょうか、マスター? あの人たちがいたら鍛錬になりません」
「そうだな……」
モンスターを倒せていないのでカードどころか魔石すら手に入っていない。完全に無駄足である。
「あ、加藤さん! カードが出ました! スキルカードです!」
「おお、よくやった! 今日は大当たりだな!」
「やりましたね、流石です加藤さん!」
向こうは二枚目のカードまでドロップしてウハウハらしい。本当にムカつく連中だ。
イライラを募らせながら帰路を急ぎ、何とか入口のホールまで戻ってきた。
「じゃあまたな、紅雪」
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、こっちは心配しないでいいよ。また寮で呼ぶから待っていてくれ」
「はい……どうか気をつけてくださいね」
朝といい、今といい、紅雪には心配をかけてばかりだ。あとで美味しいデザートでも買って帰ろうと思いながら俺は教官たちがいる待機所に足を向けた。
「すみません、あそこにいる加藤たち三人パーティから粘着されていて、探索の邪魔をされました。これが証拠です。対処をお願いします」
朝からの一部始終を収めたダンジョンカメラを教官に提出した。
・パーティに勧誘されたがはっきりと断った
・モンスターカードの譲渡を迫られたが断った
・ダンジョンの中で後を追いかけてきたのでやめろと言った
・だが、その後も執拗に後をつけ回し、こちらが発見したモンスターを横取りし、結果、探索が全くできなかった
以上の嫌がらせを加藤パーティからされたと報告したのだった。
■
「あ、連絡がきた」
「どうしたんですか?」
「さっきのあいつら謹慎二週間だってさ。いっそ退学にしてくれればよかったのに」
寮に戻って紅雪と一緒にデザートを食べていたところ、加藤たちの処分について先生から連絡が入った。
まあ少なくとも二週間はあの不快な面を見なくてすむから今回は我慢しておこう。
次があったら絶対に退学を要求するけどな。
登場したけど退場しました。




