10 ゴブリンマラソン
「今日はどうしたの? いつもと全然違ったわ」
「ふふ、実はとてもいいものを手に入れたんだ。今まで試したものより遥かに効くのさ」
ベッドの上で一糸まとわぬ生まれたままの姿の男女が絡み合っていた。男の方はそれなりの年齢で衰えを感じていたのだが、今日は違った。
「いいもの?」
「ああ。これさ」
男の手の中にカードが出現する。
【精力強化】
ゴブリンから手に入る例のカードだ。
「今日はたっぷり可愛がってあげよう。ふふふ」
にたりと好色そうに男が笑う。
この夜、男女はお互いにとても満足できる時間を過ごしたのだった。
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ジョブカードが世に出回り、HPバリアの規格外の性能が注目されてから早一年。
各国の医療機関などで研究された結果、HPバリアは『すでに負っている怪我』や『先天性の障害』などには効果がないことが判明した。
バリアは怪我を防ぐが怪我を癒す効果は存在しないというのが研究の結論であった。
回復魔法のスキルやポーションなどのマジックアイテムに期待を寄せられることになるが、様々なアプローチの結果、いくつか画期的な発見が存在した。
「聴こえる……聴こえます! ああ、この耳でもはっきりと……! おお、神よ……!!」
【聴覚強化】のスキルカード。
このカードを障碍者が使用した場合、多くの事例で聴覚の復活あるいは聴覚の獲得が見られたのだ。
事故や病気などの理由で聴覚を失った人間や、先天的な障害で耳が聞こえなかった人間がこの【聴覚強化】のカードのお陰で耳が聞こえるようになった。
更にこの事例を元に【視覚強化】【嗅覚強化】【味覚強化】【触覚強化】のスキルカードが存在しないかと世界中が血眼になって探し回り、いくつかのスキルカードが発見され、実際に治療に効果があることが確認された。
こうしたスキルカードの活用方法が発見されるとともに、ダンジョンやジョブカードの存在を肯定する意見が増え、人々はこぞってダンジョンへと向かうようになるのだった。
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「おめでとうございます」
「あ、ありがとう……ございます……!」
「う、うう……ほ、本当に……本当にありがとうございます……」
とある病院。若い夫婦に対し医者が祝福の言葉をかけた。
ここは不妊治療専門の病院で、夫婦は二年間不妊治療を受け続けていたがそれでも子宝に恵まれなかった。検査の結果、先天性の不妊体質で子供ができる可能性はとても低いと言われていた。
そんな時に、最後の頼みとすがったのが【繁殖力強化】のスキルカードだった。
夫婦でチュートリアルダンジョンに挑んでジョブカードを取得をすると、ネットオークションでハズレ扱いで投げ売りされていた【繁殖力強化】のスキルカードを落札し、夫婦でカードを使った。
その結果、カードを使ってからわずか二か月で我が子に恵まれたのだった。
「しかし、まさか本当にスキルカードにこのような効果があるとは……経過観察は必要ですが、全く新しい不妊治療法として今後世界中に広まっていくかもしれませんね」
夫婦の担当をしていた医者は最初はスキルカードを疑っていたが、夫婦の強い希望に押されて【繁殖力強化】のカードの使用を認めたという経緯があった。
だが、実際に夫婦が妊娠し、しかも心身への負担が非常に少ないことからこの治療法の素晴らしさを見直していた。
これまでの不妊治療は検査や治療の為に何度も通院が必要であったし、場合によっては手術を行い、しかも治療費として数十万円の費用がかかることも珍しくなかった。
だが、【繁殖力強化】のスキルカードを使えば普段通りの生活を維持したままでも治療が可能な上に、子宝に恵まれた夫婦からスキルカードを回収して別の夫婦にリサイクルすることで金銭的な負担を大幅に減らすことが可能だった。
夫婦の今後の経過次第だが、【繁殖力強化】を使った治療法は世界中から注目を集めることになるだろう。
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【精力強化】、【聴覚強化】、【繁殖力強化】……。
モンスターとの戦闘では効果が薄いが生活に役に立つゴブリンのスキルカードたち。
これらの有用性に目をつけた人間たちによってゴブリンのスキルカードは買い漁られ、ネットオークションなどでも落札価格が上昇、『ゴミスキル』から『大当たりのレアスキル』へと変わっていった。
初心者でも難なく倒せるゴブリンはドロップ目当ての大勢の探索者に狙われるようになり、ゴブリンマラソンブームを巻き起こすのだった。




