1 クラス転移もののプロローグ?
■ プロローグ
それは何の前触れもなく突然起こった。
「な、なんだこれ……!?」
「きゃああああああ!!」
始業前の中学の教室の床に突然浮かび上がった魔法陣が光り輝き、魔法陣の上にいた生徒たちを飲み込んだ。
「み、みんなどこ!? どこに行っちゃったの!?」
「お、俺、先生を呼んでくる!!」
偶然魔法陣の範囲から逃れていた生徒たちが混乱して騒ぎ出す。
教室の床には大勢の生徒を飲み込んだ魔法陣が妖しく輝いていた。
■
【チュートリアルダンジョンを開始します】
「チュートリアル……それにダンジョンってまるでゲームだな……」
謎の魔法陣に連れ去られた生徒たちは石造りの灰色の迷宮の中に閉じ込められていた。
訳が分からないまま、混乱した頭で空中に浮かぶメッセージを見上げる。
【ジョブカードの力を使ってモンスターと戦いましょう】
「ジョブカード……?」と思ったところで、いつの間にか手の中に一枚のカードが握られていることに気がつく生徒たち。
紙や金属、プラスチックなどとは違う、謎の素材で作られた白紙のカード。
白いカードが砕け散り光の粒となって降り注ぐ。
「うわっ!? な、なんだ!?」
「服が――!」
生徒たちの着ていた中学の制服を上から塗りつぶすように、一瞬で姿が変わっていく。
杖とローブを装備した【魔法使い】。
全身黒ずくめで装備の音が鳴らないようにされている【斥候】。
金属甲冑で固めた【騎士】。
「これが……ジョブカードの力……?」
姿が変わると同時に【力】の使い方が自然と理解できた。魔法の使い方、索敵の方法、騎士としての剣術や戦い方。
【ボスを倒すとチュートリアルクリアです】
ボス。チュートリアルクリア。
宙の文字を見つめる生徒たちの顔に自信が漲る。
自分たちが得たジョブカードの力を感じとり、戦うことができると確信を得た。
【剣士】の堂島勝も自分の腰に据えられた剣を手に、冒険の予感に胸を躍らせていた。
剣道部で稽古をつけていた勝の手に剣はよく馴染んだ。
【貴方たちの健闘を期待しています】
宙に浮かぶ謎のメッセージを挑むように睨みつけ、彼らの冒険が始まった。
■
――チュートリアル開始から二時間後。
ダンジョンに飲み込まれた生徒たち十七名全員がチュートリアルをクリアし、元の中学校の教室に帰還することができた。
警察に保護され病院に運ばれた彼らはやがてテレビのニュースで知る。
彼らが攻略したチュートリアルダンジョンと同じものが世界中に出現し、日本でも最低五十個のダンジョンが発見されていた。今でも続々と新しいダンジョン発見の報告が続いている。
そして、そのすべてのダンジョンが大勢の人間を内部に取り込み、ジョブカードを与え、チュートリアルを受けさせていたことが発覚した。
日本だけでも少なくとも数千人、世界規模で見れば数万人から数十万人はいるだろう《第一次ダンジョン災害》の被災者。生徒たちはそのほんの一部に過ぎないということが判明したのだった。
■
――そして、ダンジョン発生から一年後。
日本中に発生したダンジョンは全て政府の管理下にあり、国家公認資格を得た探索者たちがダンジョンに潜っている。ダンジョンから得られる未知の物質や、魔法のような力を持つ【カード】、【マジックアイテム】などを入手してくる現代の冒険者たちだ。
一年の間に紆余曲折合った結果、世界中でダンジョン探索が推奨され、人類は大きな転換期を迎えようとしていた。