空間を操る者、帰りたい世界#04
「このまま隠れて見てようか」
ツムギは物陰に隠れたまま、魔導書を取り出し開くと呪文を唱える。
「我を不可視化せよ、インビジブル」
ツムギは姿が消えた事を確認すると、魔導書に栞を挟んでポケットへセットする。そして戦闘を隠れて観察し始める。
◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、はふぅ」
女の子と龍が相対していた。どちらも疲労の色が見える。
『矮小なる人の子よ!偉大なる俺様に牙を剥いたこと、 悔い改めるがいい!さすれば、俺様の』
「必要なーい。わたしは、あなたを倒すの!」
『ほざけ!』
龍が女の子へ向けて炎を吐く。
女の子は炎が当たる寸前に、消えると龍の頭上に現れる。龍の頭へ手をかざすと辺りの空間が捻れていく。
しかし龍も黙ってはいない。女の子の方へ飛び上がり体当たりをして、空間が捻れている範囲を離脱する。そしての勢いのままに女の子に噛みつこうとした。
「くっ!空間跳躍!」
女の子は体当たり受けた瞬間に、空間の捻れによる攻撃をキャンセルし、紙を貼り付ける。そして龍が噛みつこうとしている事を悟り、魔法を発動させる事で龍の噛みつきを緊急回避した。
『ふっふっふ!なるほど、ようやくキサマの手の内がわかってきたぞ!キサマ、空間魔法の魔法使いか』
「ざーんねん!わたーしは魔導師だよ」
『っ!』
女の子が龍に貼り付けた紙が起動して、龍の鱗が一部消失し肌があらわになる。
女の子が言った魔導師とは魔法と魔術を扱う者の事である。魔法は主に自身固有の能力。詠唱やトリガーとなる言葉や動作で使用するのが一般的だが、稀に感覚で扱う無詠唱の人物がいる。そして魔法を使う者を『魔法使い』『魔法師』と呼ぶ。魔術は主に技術を形にした物。媒介となる物に魔力を通して発動させる。そのため誰でも扱えるが、作るの事が出来る人物は限られてくる。なので『魔術使い』『魔術師』と呼ばれるのは、物を作れる少数の人物たちの事を言う。
「ウィークポイント完成!」
『ほざけ!』
龍が再び女の子へ向けて炎のブレスを吐く。女の子は消える。
『そこだ!』
龍は自身の背後に女の子が移動したと予想し尾で払う。が女の子はそこにいなかった。
◆◇◆◇◆
「そうなんどーも、同じ事するわけないでーしょ」
女の子はツムギの隠れる物陰近くに転移してきていた。
「見てないで、助けてくれーる?」
ツムギは魔導書から栞を抜きインビジブルを解く。
「何で分かったのかな、イースロッテ?」
「私は時空間魔導師。姿が見えなくてーも、空間の揺らぎでわかるーの」
「私たちは敵じゃないの?」
「んー、時とー場合にーよるんじゃなぁーい?今はー、敵ではないよ」
(これ以上問答していたら、三つ巴になるぞ。協力関係を結べるなら結んでおけ)
「……分かったわ。何をすればいい?」
「だったーら、鱗を剥いだところに飛ばすかーら、一撃で仕留めーて」
「一撃……ね。K」
ツムギは懐から光る球体を取り出し詠唱する。
「龍殺しの力、ドラゴンスレイヤー。依るべに従い顕現せよ。重纏」
光る球体は分散しツムギが装備する籠手に纏わりつく。
『そこか!』
イースロッテの事を見失っていた龍が、イースロッテを見つけ急速に接近してくる。
「飛ばすよ」
イースロッテはツムギに触れると、ツムギを少し未来へと転移させる。そして自身はその場に残る。
『これで終わりだ!』
龍がイースロッテに噛みつこうと口を広げる。がそこで龍の動きが止まる。
『う、動けん、だと』
「そこにーは、罠を設置したーんだよ」
イースロッテは短時間の座標固定の罠を仕掛けていた。しかし短時間あっても動きが止まれば十分であった。飛ばされたツムギが龍の鱗が剥がれた部分に現れる。
「はぁぁぁー!」
ツムギがドラゴンスレイヤーの力を付与した炎竜の籠手で、龍を殴打していく。
「火炎竜拳!」
最後に一発力強く叩き込む。龍は地に強く打ち付けられ、気絶していた。
(ドラゴン系の武具にドラゴンスレイヤーを乗せると、火力がうまく出ないな。コツが必要そうだ)
「気絶はさせたけど、倒しきるまでは、いかなかったわ!」
「十分だーよ。あとは、わたーしが」
そう言うとイースロッテは龍の胴体へ見つめ場所を絞ると、空間を捻れさせ心臓を潰し、魔石を自身の手元に転移させる。
「えっぐ……」
「素材はあげーるよ。じゃーね」
そう言ってイースロッテはどこかへ転移して行った。
「……処理を丸投げされた」
ツムギは武装を完全解除すると、死した龍の素材を集め始めた。
「私、なんとなく想定ついた」
(奇遇だな。俺もだ。それにイースロッテとは案外、会話すれば友好関係は築ける……かもな)
「未来の私、あとは任せた」
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