白銀の神滅器、奪われる魔導書#03-2
ツムギが閉じ込められたドームの前に雪姫を持ち立ついのり。
「はぁあああ!」
雪姫を回転させドームへ深く突き刺す。するとドームは崩れていき、中から拘束が解かれた横たわるツムギが現れる。
「けほっ、けほっ……あー、助かったよいのり」
「どういたしまして、先生。と言うか大丈夫ですか」
いのりが心配そうに訊ねると、ツムギは土を払いながら答えていく。
「ん~だいじょばない。取り返すよ魔導書は。まぁいのり頼みになるけれど……。いのりは?ケイオスの事何か分かった?」
「そうですね……ケイオス、彼女は悪い娘じゃあ無さそうです。荊の首輪を装着させて、無理矢理に操っている感じです。まぁ精神支配の抵抗力が強いみたいで、完全に操れていないみたいですけど」
(それでまだ意識があるって事か)
「なるほどね」
「それに、やっぱり先生に何処と無くそっくりな気がしました」
(そっくり、かあ。悪い娘では無さそうなら、助けて話をつけるのが手っ取り早いか?)
「……そーだね。どう転ぶか分からないけど、ケイオスを助けてみようか」
「本気、ですか先生。一応素性の知れない敵の一人ですよ?」
「とか言いつついのり。君、嬉しそうな表情してるよ?」
「えっ、そ、そう見えますか?」
ツムギの言葉に動揺してか、いのりは自身の頬に触れる。
「一応とか言ってる時点で、本音は助けたい、って事でしょ」
「あはは……。そーですね。彼女は操られながらも、チョーカーを外して、そう言いました。たぶん彼女は助けを求めている」
「……まぁそうだね。うん、じゃあ行こうか」
「追跡はしてますけど……先生。動けるんですか?」
いのりは心配そうにツムギに訊ねた。
「問題なし、かな。動ける程度には回復してるよ」
「ほんとですか?そんなに時間、経ってないですよね。無理してません?」
「信用ないにゃ~。じゃあ、実際にタネを見せようか」
ツムギは懐から一冊の淡く光る魔導書を取り出す。開くと魔導書はカラフルな光を放ち始めた。
「何ですかこの魔導書?」
「『九の女神から始まる物語』って言う魔導書。コレはかなり珍しい魔導書で、常時発動型支援系。閉じた状態だと、少し能力向上、オート回復等々。開いて使用すれば使用効果の即効。で、今発動させたのは各種回復」
「つまり魔力を完全回復したという事ですか?」
「Yes!さてと、じゃあ今度こそ案内よろしく」
ツムギは魔導書をしまうと、改めていのりに案内を頼んだ。
「分かりました」
素直に返事をして、二人はテイカーたちの後を追い始める。いのりはツムギにコレクションついて疑問を訊ねる。
「そう言えば先生、取られた魔導書って?」
「複数持っているうちの一つ。初版では無いけれど、私の大切な一冊」
(第6版は雷光系統で使い易くて重宝するんだよなあ)
「先生の夢って確か……初版の魔導書をコレクションする、でしたよね」
「神域遺物を集める事が使命、個人的には初版の魔導書を、って感じだよ」
「使命、ですか?」
「私が永久を生きている理由だよ。まぁ、気にしなくていいよ」
(永久、とか失言じゃあないか?)
「……そう言えば先生って、昔から変わらないですよね。不老不死かってぐらい」
(ほらな。まぁ親しい相手に隠してる事でもないが……どうする?)
「……」
「先生?」
「あぁいや、テイカーたちは近いかい?」
(……いのりには、まだ伝えないって事か)
「あ、はい。ちょっと待って下さい」
いのりは後を追わせている式神との距離を確認する。
「近いです!」
(捕らえた!コレは追ってきてるとは、思っても無いな)
「K。こっちも捕捉した!」
「作戦は?」
「ケイオスは私が解放する。いのりはテイカーから魔導書を奪い返して」
「了解です。本気で良いんですよね!」
「K!略奪者に目に物見せてやるといい」
ツムギは『九の女神から始まる物語』の魔導書をポケットへセットし、もう一冊を取り出し開くと複数のクナイを顕現させる。
「じゃあ、スパッと決めるよ!」
二冊目もポケットへセットし、テイカーたちへ瞬く間に接近する。
ケイオスを射程に捕らえクナイを一刀投げ放つ。ケイオスは飛来物に気付き降下して回避する。地に降りテイカーを放した。ケイオスの突然の行動にテイカーは怒鳴った。
「おい!何で降りた!」
「攻撃」
「はぁ!?」
テイカーは慌てて周囲を警戒する。そこへいのりがテイカーに強襲を仕掛ける。テイカーは寸前で気付き、収用札から盾を出し受けるがケイオスと引き離される。
間髪入れずに槍で追撃をするいのり。テイカーは盾で防ぎつつ、奪った魔導書を開き詠唱する。
「纏えよ雷帝!雷の鎧、サンダーアーマー!」
テイカーの全身が淡く光りバチバチと電撃がほとばしる。電撃を纏った事を察知していのりは追撃を緩め間合いをあけることを選ぶ。
離れたところでツムギとケイオスが戦いは始めたのだろう。戦闘音が微かに聴こえていた。それにより十分に引き離した事を確認したいのり。
「なるほど、便利だなコレは」
テイカーは魔導書を手にニヤリと笑った。それを見ていのりはムッとする。
「その魔導書、返してもらいます!」
「あぁ?返さねぇよ。これは俺が有意義に使ってやる。こんな風にな!」
テイカーが魔導書のページをめくり新たに唱える。
「駆けよ雷帝!雷の矢、サンダーアロー!」
テイカーの詠唱により雷の矢が出現する。その矢をテイカーはいのりに向けて投げ放つとテイカー自身も雷を纏って接近する。
対していのりは槍を長槍から短槍へ切り替え雪姫を杖のように扱う。
「集え氷の精霊、矢をもって迎え撃て」
氷の矢が出来上がり、雷の矢とぶつかり相殺する。と同時にテイカーが殴り掛かる。いのりは後方へステップを踏み容易く回避して見せる。
「オラ!オラ、オラ!!」
テイカーは続けざまに打撃を行うが、いのりは悠々と回避を繰り返す。
「単調ね」
「はぁ?」
「あなたにその魔導書は、相応しくないわ。扱いきれてないもの」
「うるせぇ!!」
いのりの言葉に過剰に反応を示すテイカー。雷を纏った大振りな一撃を振るう。その拳は余裕で避けられ空を切る。
「アイツがやってたのと同じはずだ!なのに何で避けられる!」
テイカーは地団駄を踏み、魔導書の別の詠唱を試す。
「纏えよ!雷帝の鎧!トールアーマー!」
速さが駄目なら圧倒的な力、と考えたのだろう。先ほどが淡くであるとすれば、今は完全に可視か出来るほどの電撃を纏うテイカー。手に持つは雷で形作られた両手持ちのハンマーであった。
「はぁ、やっぱりバカね。雷系は速さとそれに準ずる力が売りなのに守りでパワー形態って」
「うおおおぉ!!」
テイカーはハンマーを振り上げ勢いよく振る。
「……氷壁」
いのりはポツリと呟くと、氷の壁が出現し雷のハンマーを受け止める。
「うおおおおぉ!!!」
テイカーは更に力を込めて氷壁ごとぶち抜こうとする。しかし氷壁はひび一つつくこと無く、逆に接触点から雷のハンマーを取り込む様に凍らせていく。
「ぐうっ……っそ!」
必死に引き剥がそうとするが凍結したハンマーはピクリとも動かない。テイカーは悪態付くとハンマーを手放し再度距離をあける。
離れた事を見計らっていのりは気になっていた事を訊ねた。
「そう言えばあなた、転生者なの?」
「ハァン!?だったらなんだ!」
「伝承通りだなぁって。転生者は自身の力に溺れ傲慢に成りやすい」
「ふっっざけんなよ!お前だってそうだろ!?その顔立ち、日本人だろ!」
「ご先祖様がそうだったみたい。私はこの世界の生まれだよ」
いのりの言葉はテイカーに届いていなかった。テイカーは不意を付く様に詠唱を行った。
「駆けよ雷帝!雷の雨、サンダーレイン!」
「止まれ(凍れ)、雪姫」
雷の雨による回避不能な攻撃がいのりへ降り注ぐと思われた瞬間、タンッと言う音を響かせ攻撃含め辺り一面が氷結する。
「……はぁ?」
突然辺り一帯が凍りつきテイカーは目を瞬かせる。そんなテイカーにかまうこと無く、いのりは追撃を行う。
「氷の荊よ、拘束し封じよ」
「纏えよ雷帝!雷の足、雷足通!」
氷の荊がテイカーにまとわりつき拘束をする。テイカーは抜け出そうとするが荊が食い込み、より拘束を強固な物となり移動を阻む。
「くそ、なんだよこれ!!ふざけんな!雑魚が俺の邪魔をするなよ!」
悠々とテイカーへ近付き手に持つ魔導書を取り返す。魔導書を取られテイカーの纏っていた雷が霧散する。喚き散らすテイカーにいのりは語り始める。
「ならその雑魚に負けるあなたは、なんだろうね」
「……」
「あぁ、そう言えば名乗って無かったね。私は瀬戸内島の巫女、村上いのり。聖上から神域遺物『雪姫』を授かり、白銀の巫女と呼ばれているの」
いのりが杖にした短槍、雪姫を手にして自己紹介をおこなっていた。その話を聴きながらテイカーはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか、神域遺物なのか、それ」
「……だったら何?」
「スナッチ!!!」
訝しむいのりをよそにテイカーは叫んだ。おそらく奥の手を使ったのだろう。しかし何も起こらなかった。
「……何で」
「何か使用したの?」
「くっ、ケイオス!!俺を助けろ!!!」
不思議そうに訊ねるいのりだが、その時拘束を緩めてしまう。拘束が緩んだ事に気付いたテイカーはすぐさまケイオスを呼びつけた。
次回は、4月5日投稿予定になります。