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第2話 無芸課金

―魔界特区役所 婚活会場―



「それでは1番目の方どうぞー!!」


「どうもー!!ホストやっとりますアレン言いますわ。今日はあんじょう頼んます。えっ?アピール?そうやな、プライベートでもイッキコールしまっせ」


「食事は静かに食べたいので……」


* * *


「次5番目の方どうぞー!!」


「今宵貴女に出会えた奇跡に感謝を。貴女の恋のしもべ、ウルグースと申します。まずは踏んで頂けますでしょうか?」


「外反母趾なので……」


* * *


「次13番目の方どうぞー!!」


「俺さー昨日彼女に振られたんだよねー。だから俺と付き合わね?」


「だからの可能性が無限大」


* * *


「お次が最後です!28番目の方どうぞ!!」


「くるっくーキュルキュルるくるくくるっく」


「終了!!」


--------------------------


「ロクなんいないじゃん!!」


 控室でリンレーンは、案内人であるミレニングにおしぼりを投げつける。ミレニングはおしぼりを綺麗に畳む。その所作はいちいち仰々しく勘に触る。

 

 リンレーンは、魔界の悪魔達とのお見合いパーティーに参加していた。と言っても女性はリンレーン一人。数多の悪魔達を一方的に品定めする立場にあった。



「うっふふ、これでも魔界では一般的なのを集めたつもりなーんですけどね」


「鳩語喋るヤツのどこが良識人だよ!」


「あれは滑舌が悪いだけでーすよ、ふふふ」



 滑舌が悪くて鳩語に聞こえるってどういうことだよとリンレーンは毒づくが、ミレニングはどこ吹く風でお茶を差し出す。



「それではそれでは、今回リンレーン様のお眼鏡に適う恋人候補は居なかったということでーすね」


「当たり前でしょ!あたしは天使みたいなヤツ連れて来いって言ったじゃん!全然違うじゃん!!」



 リンレーンは吠える。事前のアンケートで、最重要条件として『天使同等、もしくは準ずるレベル』としっかり書いた。


 

(流石に天使と同レベルが来るとは思ってないわよ。ある程度は妥協しようと思っていたし)



 だが蓋を開けてみたら、妥協どころかまともなアピールをする悪魔が皆無だったのだ。

 天界と魔界は言語体系が違うのかと疑いたくなるレベルだ。



「悪魔は良くも悪くも自分の欲望に忠実ですかーらね。うふふ」


 ミレニングはそんなリンレーンの不満を見透かして、先に答える。


 天使はその行動原理が謙虚を軸とする。謙虚と言えば聞こえは良いが、実際は思慮が深く、迂遠な言い回しで建前も多く、自己評価も低い。早い話かったるい恋愛が多い。

 逆に悪魔は欲望が行動原理なので、取り繕うということをほとんどしない。自己顕示欲が強く、真っ向勝負の当たって砕けろがデフォルトである。



 どちらもメリットデメリットはあるが、リンレーンは天使の気質が好みだ。かったるくても何でも、従順なのだ。稼がせた金は全部自分が使いたいし余計な口も挟まれたくない。


 欲望丸出しの旦那だと使える金が減るじゃん!!とどこまでも自分勝手な言い分である。



「欲望に忠実っていっても限度があるでしょ!次はまともなヤツ用意してよね!!」


「うっふっふ、リンレーン様はお立場が分かってらっしゃらないようでーすね」



『立場が分かっていない』



 その言葉は、リンレーンの心に重く圧し掛かる。先ほどの勢いはどこかへ霧散し、後には萎びれてバグった妙齢女性が残る。


 戦慄の特区役所お漏らし事件から1週間が経った。その間至る所でこの言葉を言われ続けた。



 一等区役所でパンツを貰うついでに、当面の生活費をくれないかと打診した時も


 用意されたアパートに、WiFiが繋がっていないと嫌だと言った時も


 斡旋されたバイト先で、時給が安すぎると吠えた時も




 言った相手は、一様に侮蔑を露わにしていた。そして今また悪魔からも同じことを言われる。



「貴方様は外見はとーても魅力的です。でもぉー」



 唐突に褒められて、萎びれたリンレーンが息を吹き返す。


 確かに見た目は美形というカテゴリーに入る。

 絹のようなロングヘア、左右対称の目鼻立ち、均整の取れた手足、グラマラスな体形と世間一般では絶世の美女ともいえる。容姿だけで見たら引く手あまたなのは間違いない。


 ただし、この世間とは人間界のことを指す。天界魔界では容姿が評価基準になることは無い。加点も減点もないのだ。では何を見るか?当然中身、もっと言えば『七つの状態』を重視する。



「天界にとって貴女様はまーーーったくと言っていーい程需要が無い。いわゆる事故物件というやつでーすか。うっふっふ」



 いくら絶世の美貌を持っていようが、大罪系を背負ったリンレーンが同じ天使から選ばれることは無い。選択肢にも上がらない。


 改めて現実を言葉にされて、返す言葉もないリンレーン。再び萎びれる。



 紫と金が刺繍された燕尾服を着たミレニングは、芝居がかった仕草で髪をかき上げリンレーンを見つめる。

 その双眸に侮蔑は無いが、その代わり興味本位と愉悦が混じっている。



「天使らしい悪魔が貴女様を求める事なんてありません。そもそも、そんな悪魔は滅多にいませんかーらね。うっふっふ」



 魔界にとって、リンレーンは魅力が溢れている。もちろん悪魔にとって容姿は選択肢の一つだが、それ以上に『ステータスがバグっている』という事実が悪魔の心をつかんで離さない。



 こんな面白いこと他に無い!



 退屈を嫌い、刺激を求める悪魔達は我先にとリンレーンを求めた。募集を開始して3日で倍率は1000倍を超えた。



「でもでもぉー、安心してください。貴女様の需要は満たせずとも、貴女様自身の需要がたーくさん有りますからね。きっと良きパートナーが見つかりまーすよう。うふふふ」

 



(何も安心できない)



 リンレーンは萎びれたまま、婚活会場を後にした。もう布団にくるまってソシャゲをやりながら寝落ちしたいと思う。



 だが現実は許してくれない。この後コンビニで深夜12時までバイトなのである。

 バックレることは出来ない。寝床も職場も区役所が抑えている。リンレーンが逃げることもサボることも許してくれない。



 天界特区役所の担当者は、死刑に出来ない以上何か罰を与えねばと考えた。結果自活の強制であった。

 天使からしたら食い扶持を稼ぐことは至って普通なのだが、リンレーンに関わった天使はこれが一番の罰だと確信を得ていた。



--------------------------


 バイトが終わり、6畳一間の自室に帰る。廃棄弁当を夕食に、不満をぶちぶちとたれ流す。



(自分は罪を犯したのか?こんな仕打ちが許されていいのか?天界に慈悲は無いのか?)



 大罪系を持つことが何よりも罪で、十分慈悲を貰っていることに気づかない。挙句―――



(今日まで十分頑張った。バイトもこなして生活費を稼いでいる。婚活もしている。つまり……ご褒美が必要じゃない?)



 リンレーンはソシャゲを起動する。親指がスッとすべる。ピローンと音がする。


 あろうことかガチャの為に課金をしているのである。父親名義のカードが登録されている為、課金の決済が通ってしまった。


 特区役所の担当天使も他の天使も気づいていなかった。ここまで状況が変わって尚、親の金で課金するという思考回路を読み切れなかった。天使達は何も落ち度は無い。ただリンレーンのクズ度が上回っただけである。



(頻繁にしたり、大金を使うとバレる。ここぞというご褒美じゃないと出来ないし、これくらいなら許される許される)



 許されるわけがない。だが咎めることも止められることも無い状況である。リンレーンは世界の中心でガチャを引いている気分になる。



(あぁ溶かしてる……溶けるわぁ……脳汁出てるわぁ……)



 涎を流し、恍惚の表情でガチャを回すリンレーン。既に5本は超えている。お目当てがあるわけではない。ただ有料石で回すという行為そのものを楽しんでいる。


 それ故に今バグが加速しているのだが、リンレーンは気づかない。



 至福の一時を過ごす彼女は、母親の胎内にいるかのような安心感と満足感に包まれて回し続けた。


サブタイは無芸大食(大した芸も無いのに大食らい)の課金バージョン。当然造語です。

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