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孤高の女騎士、敵国へスパイとして潜入し愛を知る〜お馬鹿な第二王子に取り入るはずが、不慮の事故から、冷酷無慈悲と噂の第一王子に拾われてしまいました〜

作者: 品原るるる

ある日、王から敵国にスパイとして潜入するように命じられた孤高の女騎士。


第二王子に取り入るために、慣れない長い髪、化粧、ドレスに悪戦苦闘するものの

不慮の事故に巻き込まれてしまい……


気づけば自分を拾い、介抱してくれていたのは、国から絶対に近づくなと警告されていた第一王子・ヴィンセントだったーーー



ひとまず短編です。





「ニーナ、朝からすまないな。今日呼んだのは他でもない。お前に、極秘任務を命じる為だ」


 特別な伝令を下すので、謁見部屋に来るようにと、王からの連絡を受けたのはつい昨夜のことだった。


「はっ。なんなりとご命令下さい、陛下」


 ニーナは、エレクトラ王国の王下騎士団に属する女騎士だ。


 王下騎士団と言っても『裏』の王下騎士団……いわゆる『暗部』に、彼女は属している。

 裏で、王家に抗う者たちを暗殺する仕事を主に行なっているのだ。


 一般国民でもこの騎士団の存在を知る者は少ない。


「お前にしか頼めない任務だ」


 いつにない、王の真剣な声色。

 だが、ニーナは顔色一つ動かさずに言葉を待ち続けた。


「帝国にスパイとして潜入してほしい」


 アルキュオネ帝国は、長年、ニーナたちの国と敵対している国の一つだ。


 過去に何度も戦争を繰り返していて、またいつ戦争が始まってもおかしくない緊迫した関係が続いている。


「す、スパイですか……? この私が?」

「そうだ。暗部の紅一点であるお前にしか頼めない」


 暗部の中でも工作チームはあり、そのチームの人間たちはスパイをすることもあった。

 だが、ニーナはあくまで騎士。王家の用心棒として剣を振るってきただけだ。


「頼めるか?」

「……承知しました」


 だが、王の命令には逆らえない。

 自分はただ、任務をこなすだけ。


 不安や疑念はすべて飲み込み、ニーナは任務をを引き受けることにした。


「お前には、第二王子に近づき情報収集を行ってもらいたい。良い歳になってもまだふらふら遊んでいて、隙も多い男だというのは有名な話だ」


 だが、と王は声色を変え、さらに言葉を続けた。


「第一王子には間違っても近づくな。間違いなく次の国王はあの男だ。剣の腕も立ち、頭も切れる」


 この王がここまで敵国の人間に対して評価するのは珍しいことで、ニーナは必ずやその忠告は守らねばならないと思った。


 ……しかし、この命令に、まさかあんな形で背くことになってしまうとは。


 ニーナはまだ夢にも考えていない。







「ニーナ様、すっかり一流貴族の令嬢のようです。見違えましてマユリは嬉しいです!」

「もともと、ニーナ様の顔の造形は大変お美しいのです。だから陛下もニーナ様が適任だと思ったのですよ」


 王の命令から数ヶ月、ニーナの教育係としてついたのは双子の侍女・マユリとコユリだった。

 今日も二人に、鏡台の前で長くなった髪をとかれながら、ニーナは無言で俯いていた。


「ほら、笑顔笑顔! この前、練習したじゃないですか!」

「こ、こうか……?」

「ああ、怖いですよお! これじゃあ王子が逃げちゃいます!」


 そんなこと言われても、王子どころか、男性の手を握ったことすらないのだ。


 いや? 握ったことはあるか、暗殺した死体なら。


 だが、だめだだめだとニーナはまた心の中で、強く首を横に振る。自分はもう、暗部の騎士ではない!

 そんな記憶がすぐ引き出されてくるようではボロが出る。


「明日から頑張ってくださいね」

「明日からニーナ様じゃなく、シャルロッテ様ですからね」


 シャルロッテ。これから名乗る予定の偽名だ。

 まだまだ、その名前で呼ばれるのには慣れそうにない。






 それから、ニーナは次の日から海軍の船に乗さてもらい、帝国へと向かった。


 暗部の二人も護衛としてついてきた。

 風を浴びたいと船上デッキへ向かったニーナに、二人は渋々ついてきた。


「にしても、ニーナがそんな姿になるとはな」


 仮面をつけた暗部の一人が、腕を組みながら背をもたれさせてそう言った。


 すっかり伸びた赤い髪、なんとか自力でもできるようになった化粧、そして煌びやかな青いドレスを着たニーナを見て、暗部の女騎士だと思う者はもう居ないだろう。


「孤高の女騎士様が、令嬢になりきって王子を口説きにいくとはねえ」


 任務の期間は一年だ。向こうに先に潜入しているスパイと合流し、彼の養女という設定で振る舞うことになっている。


 令嬢として王宮に潜入し、王子に取り入って情報を聞き出す。それを国に伝えるのがニーナの役目だ。


「王子に気に入られすぎて、国に戻れなくならねえよう気をつけな」

「孕まされたら、さすがのお前も帰ってこれなくなるかもしれねえもんな」


 下卑た笑いをしながら、暗部の男たちはニーナの伸びた髪を触った。


「……汚い手で、私に触るな」


 ニーナは男たちの腹に、ヒールの靴で蹴りを入れようと脚をあげた。


「おっと! 中身はやっぱり変わらねえな」


 男たちはニーナと距離をとりながら、仮面越しでもわかるような、見下した態度をとり続けていた。


 ニーナは暗部の中でも、男に負けないような剣の腕を持っていた。そんな彼女を疎ましく思っている者も多かったのだ。


「に、ニーナ様!」

「どうした?」


 緊迫した空気のニーナたちの元へ、水兵が慌てた様子で駆け込んできた。


「まずいです、前方に得体の知れない渦が……このままだと、船が……っ!」

「なんだと!?」


 船の進行方向を見ると、確かに大きな渦が広がっている。今から迂回しても、もう間に合いそうにない。


「なんでもっと早く気づかなかったんだよ!?」

「と、突然現れたんです!」


 あんな巨大な渦に、海軍の水兵が気付かないことなんてあるのだろうか?

 ニーナは疑問に思ったが、水兵たちを問い詰める時間なんてもう残されてはいなかった。


「おいおい、マジかよ……!」

「クソ、こいつの護衛任務なんかについたせいで、なんで俺がこんな目に……!」


 暗部の男たちの声を最後に、船は大きく横に揺れるとそのまま渦に飲み込まれて行った。

 揺れた時に、船上の水兵や暗部の男たち、そしてニーナも、海面に放り投げられてしまったのだった。


(まさか、こんなところで終わりだなんて……)


 ニーナは消え行く意識の中。

 今になって、これまでのことを後悔した。


 孤児院に居た、身寄りのない自分の剣の才を見出し、引き取ってくれた王家。

 暗部の騎士として多くの命を奪い、剣を振るい続けてきた。


 自分の意思なんて生きてきた二十有余年、どこにもなかった。


(私は、なんの為に生まれてきたんだろう)


 最後に、そう思った。









「……ここは」


 ぼやけた視界が晴れていくと、白い天井が見えてきた。金色の模様が光る天井に、赤い壁、シャンデリア……


 こんな部屋、王城にあっただろうか?

 いつの間に自分は城に帰ってきたのだろう?


 ニーナが定まらない意識の中、なぜこの部屋で寝ているのか考えていた時だ。


「目が覚めたか?」

「え……」


 声がした方を見上げると……

 そこには軍服を着た黒髪の男が、ニーナの寝ているベッドの横に座っていた。


 その顔を見て、ニーナは全ての記憶を一度に思い出した。


(第一王子のヴィンセント……!)


 帝国に潜入すると決めてから、ニーナは何度も写真を見返して帝国の人間たちの顔を覚えるようにしていた。


 切れ長の目に、悠然とした金色の瞳。右目の下の泣きぼくろ。薄い唇。どのパーツをとっても間違いない。


 王からも関わらないように忠告されていた第一王子だ。写真で見るよりも、ぞわりと痺れが走るぐらい、王子は綺麗な顔をしていた。


 恐る恐る、ニーナはゆっくりと上体をあげた。


「意識が戻って良かった」


 何か話さなければ、うまく振る舞わなければ。

 頭の切れると言われている王子だ。


(いや、もう私の素性がばれている可能性も)


 そうだ、自分は海に投げ出されたんだと思い出した。本当は船からこっそり帝国に上陸する予定だったのに。


「たまたま海辺で倒れているのを見つけてな。もう一週間経つ」


 見れば身体中に包帯が巻かれていて、全身がじりじりと痛む。特に鋭い痛みが走るのは頭だ。


「っ……」

「大丈夫か?」


 起こしていた上体がふらつくと、ヴィンセントは肩に手をかけ支えてくれた。


「だ、大丈夫です」


 ヴィンセントは、話で聞いていたよりもずっと物腰が柔らかい。冷酷無慈悲な危険人物だとニーナは認識してきたが、そんな様子は見えない。

 

(いや、もしかしたらヴィンセントは私を油断させようと、こんな態度をとっているのかもしれない)


 ニーナは心の奥で、そっとばれないようにヴィンセントへの警戒を続けた。


「俺はヴィンセント。この国の第一王子で、ここは我が王城だ」


 やはりここは帝国の王城だったのかと、ニーナは思った。

 潜入前に目を通していた王城内部の写真と、天井の模様や壁の作りなど似ている気がしていたのだ。


「お前のことを聞かせてくれないか?」

「私は」


 まずい。本当は、先に帝国に潜入しているスパイの養女となり、貴族の令嬢として振る舞う予定だったが……計画は既に破綻してしまった。


 貴族の令嬢だと今から名乗れば、なぜ浜辺に倒れていたのかという話になってしまうからだ。


「記憶が、ないのです。自分の名前もわからなくて」

「記憶がないだと?」


 そこでニーナの口から咄嗟に出たのは、記憶がないという嘘だった。

 一番疑いがかからずに王子に接近できる方法は、これしかないと思ったのだ。


「そうか……頭も強く打っているようだと医者も言っていた。覚えていることは一つもないのか?」

「何一つ、覚えておりません」


 一度、自分の全てを封じるしかない。

 素性がばれることこそ、最も回避しなければならないことだ。


「わかった。医者には俺から伝えておこう。無理に思い出さそうとしなくて良い」


 だが嘘を吐いた自分に対し、疑う素振りもなく。

 ヴィンセントは優しい目をして、言葉をかけてくるだけだった。


「今日のところは目が覚めたばかりだ。俺は部屋を後にしよう。食事はとるか? と言っても実は今、真夜中なんだが」


 この部屋には時計も窓もないので、ニーナは今の時間が夜だとは気づいていなかった。しかも真夜中ときた。


 そこでニーナは、ヴィンセントがこんな夜遅くまで、自分の様子を見守ってくれていたという可能性に気づいた。


「食事はいらな……」


 言いかけた瞬間に、ニーナのお腹からぐうっと間抜けな音がした。


 思わずニーナの頬に、恥ずかしさのあまり赤が走る。


 一瞬、二人の間に沈黙が流れると、ヴィンセントはくつくつと小さく笑い始めた。ニーナがこれまで見てきた無愛想な写真とは違った、くしゃりと眉を寄せた笑顔がそこにはあった。


「あっ、朝まで食事は我慢します!」

「ふふ、そうか、わかったよ」

 

 ニーナは体にかけられていたブランケットをぎゅっと握り締めた。


「ではまた朝にな。何かあったら枕元の機械を使い、人を呼ぶと良い」


 ヴィンセントはそう言うと、去り際にニーナの頭を撫で、部屋から出て行った。


 部屋のドアがぱたりと閉まってから、ニーナはベッドにぱたりと倒れ込んだ。


(な、なんだ今のは)


 冷酷無慈悲な関わってはならない、危険な男。

 そう聞いてきたのに。


 触れられた肩と頭にじんわりとその手の感触を思い出すと、なんだか胸の奥が温かくなるような、懐かしい思いが込み上げた。







 翌朝。約束通りヴィンセントはまた部屋に来た。


「おはよう。あれからまた眠れたか?」

「はい……」


 本当は全然、眠れなかった。


 あれから事故に遭った者たちはどうなったのか。

 王国にあの事故は伝わっているのか。

 自分の身分がヴィンセントにばれたらどうなるのか。


 これからどうしたらいいものか。


 考え始めたら、止めどない不安が波のように押し寄せてきた。


 ヴィンセントは、最初は医者と看護師を連れて、ニーナを診察させた後。使用人に、部屋の奥にあるテーブルに朝食を用意させた。


「腕を貸せ。俺の肩に捕まっていろ」


 脚や腕が骨折してしまっており、しばらくは車椅子生活を余儀なくされた。


 ヴィンセントは軽々とニーナを持ち上げると、車椅子に座らせた。


「手荒な方法にしてすまない」


 そう一つ謝罪してから、ヴィンセントはニーナの車椅子を引いて、席まで連れていった。


 男性に抱えられるなんて初めてのことで、どう振る舞えば良いかわからなかった。

 自分でもどんな表情をしているかわからない顔を見られたくなくて、ニーナはずっと俯いていた。


「ずっと部屋に居るのも退屈だろう。何か希望はあるか?」

「希望?」

「読みたい本や行きたい場所、なんでも良い」


 朝食を食べるニーナを眺めながら、ヴィンセントが聞いてきた。


 散々、双子の侍女のマユリとコユリにテーブルマナーを躾けられたからか、特にその点は緊張もなく王子の前でも食事をとれた。


「外には、出てみたいかもしれません」


 いざとなったら、この王城からの脱出も考えねばならない。なるべく城内や外の様子は把握しておきたい。


「わかった。使用人に伝えておく。午後から庭園でもまずは散歩してみると良い」






「はじめまして。ヴィンセント様の使用人のエルマーと申します」


 エルマーは茶色い癖っ毛の髪をした青年だった。黒縁の眼鏡をかけていて、背もすらっと高く、聡明そうな出で立ちをしている。

 歳はニーナと同じぐらいだろうか。


「これからあなた様の世話は、僕が務めさせていただきますね。よろしくお願いします」


 物腰の柔らかい人の良さそうな青年で、ニーナは少し安心した。


「こちらの花はですね……」


 エルマーに車椅子を引いてもらいながら、ニーナは庭園を回った。


 こんな穏やかな時間は、王国でも過ごしたことはなかった。

 澄み渡る雲一つない空の下、花の名前を覚える時間なんて初めてだ。


 花の名前を伝えながら、エルマーはこの庭園は第二王子が熱をあげて作っているものだと話した。


「ヴィンセント様は大変そうです。第二王子のアルベルト様がいつまでも、ふらふら遊んでおられて」


 元々、情報収集のターゲットとなっていた第二王子か。


「あなた様はとても幸運だと思いますよ」

「私が、幸運?」


 エルマーはええ、と頷いた。


「ヴィンセント様のような優しい方に拾っていただけて」

「ヴィンセント様は、お優しい方なのですか?」

「お優しいです。僕も実はヴィンセント様に拾われた身なのです」

「エルマーさんが?」


 たまたま気まぐれで自分は拾われたものかと思っていたが、そうではなかったらしい。


「昔ヴィンセント様が公務の為に訪れた施設があるのですが、その近くに僕の村はありました。なんの運命の因果か? ヴィンセント様が来られる前に、村は山賊によって焼き討ちにあったのです。生き残りは僕だけでした」


 そう言ってエルマーは前髪を右手でかきあげると、痛々しい火傷の痕が現れた。


「そんな僕を拾ってくれたのがヴィンセント様です。村の様子を見に来たヴィンセント様と偶然出会い、拾われました。他にも拾われた孤児は、城に何人も居るんですよ」


 ニーナは自分だけが特別ではなく、ヴィンセントは昔から人助けをしていたという事実を知り、色んな意味で安堵した。


 一つは、スパイだと疑われているのではないかと不安に思っていたが、どうやらそうではなかったこと。


「みんなの前では冷酷な仮面をかぶって振る舞っておられますが、それも国の為。あの方は心お優しい方です」


 そして、身分で世界を分かつことなく、隔てなく手を差し伸べる王子の優しさを知ることができたからだ。


「こいつが、兄様が最近ご執心の女か」

「あ、アルベルト様!」


 アルベルト。

 忘れるはずのない、この国に潜入する為に何度も読み込んできた名前だ。


 エルマーの纏う空気が、この男が現れたことで一瞬にして重くなった気がした。


「俺の庭園へようこそ」


 兄弟とは思えないほど、ヴィンセントとアルベルトは似ていなかった。


 アルベルトは燃える炎のような赤髪をした男だった。雲一つない澄み切った夜空のような、ヴィンセントの髪とは正反対だ。


 背丈や金色の瞳は同じだが、顔立ちも違う。

 美しいことには変わりないが、アルベルトの方がくっきりとした大きな目をしており、まだ幼さの残る顔立ちをしていた。


「お前、可愛い顔をしているな」


 ぐいっとニーナに顔を近づけると、アルベルトは珍しいものでも見るように喜んでみせた。


「怪我が治ったら俺の侍女にならないか? 兄様には恐ろしい婚約者が居るのだからお前を持て余すだけであろう」


 ヴィンセントに婚約者が居ることは、スパイで潜入する前に調べて知っていたから驚きはしなかった。

 それもあってアルベルトがターゲットになったのだ。


「アルベルト様、この方は目覚めたばかりなのです。困らせるような発言はお控えください」

「記憶喪失? ……怪しい女だな。兄様は騙されているんじゃないか?」


 ニーナの目の奥をじっと見つめながら、アルベルトはそう問いかけた。

 馬鹿な第二王子と聞いていたが、まさかこちらに疑われることになるとは。


 アルベルトに対してどう返答しようか迷っていたニーナだが、自分を庇うように一つの影が前へ出た。


「やめろ、アルベルト」

「兄様」


 ヴィンセントが現れたのだ。

 自分を守るように、アルベルトとの間に立つその大きな背中を見て、ニーナはこれまで経験しことのないような感情を覚えた。


「彼女は当面、この俺が面倒を見る。お前は近づくな」

「はあ……そんなまるで羽虫みたいな扱い、やめてくださいよ」


 やれやれと首を横に振りながら、アルベルトは踵を返し始めた。すぐにその場を去ろうとするアルベルトの行動や仕草を見て、よっぽどヴィンセントと関わりたくないのだろうとニーナは感じ取った。


「驚かしてごめんね、お嬢さん。これから仲良くしようね」


 ばいばーいと軽快に手を振り、思ってもなさそうな言葉を吐きながらアルベルトは去っていった。


 庭園作りは作ること自体が楽しく、ただの娯楽なのだろうか。ずかすかと、周りの花々を気にも留める様子なく、庭園から出て行ってしまった。


 エルマーはかわいそうにと、ゆっくりと膝を折り曲げ、アルベルトが散らした花びらを手でかき集めた。


 物理的にも精神的にも、まるで小さな嵐が去ったようだとニーナは思った。


「二人ともすまない。不快な気持ちにさせてしまったことだろう」

「いえ……ありがとうございます、ヴィンセント様」


 ニーナの口から出たこの言葉は、ヴィンセントに疑われないようにする為でも、取り入る為でもない。自然に心から溢れた言葉だった。


「確かにお前が何者かは俺たちにはわからないが、記憶がないからというだけで、疑う理由にはならない。お前はお前だ。だから弟の言葉は忘れてくれ」


 全くニーナを疑ってないことは、聡明なヴィンセントからしたらないのだろう。

 だが、それだけで疑う理由にもならないということだ。


 ヴィンセントの読みは半分当たってはいた。


 確かにニーナは他国から潜入しようとしていたスパイだった。だが今は、仲間も計画も国への連絡手段も、何もかもを失い何者にもなれていないのだから。敵でも味方にもなりきれない、グレーな存在だ。


 

 






「昼は散歩もできるが、夜は退屈するのではないかと思ってな。本をいくつか持ってきた」

 

 部屋に帰って夕食をとった後。

 ヴィンセントは腕の中に何冊か本を抱えて、ニーナの部屋をまた訪ねてきた。


 エルマーはヴィンセントと入れ替わりで、城内にある使用人たちの寮へと帰っていった。


「有名な本も多いが、記憶に引っかかる本はあるか?」


 ヴィンセントにそう聞かれたが、他国の本なんてそもそもニーナは読んだことがなかった。


 首を横に振ると、そうか、では気に入るものがあると良いなとベッド脇の机に本を置いてくれた。


「ヴィンセント様のお好きな本は、この中にあるのですか?」

「好きな本か……俺の好きな本は、剣術や戦略の本ばかりだからな。持ってこなかった」


 つまらない男ですまんとヴィンセントは謝罪したが、ニーナは内心、自分と同じだと思った。


 そのことに嬉しいと思ったり、ヴィンセントと剣について話してみたいと思ってしまったことにまで気づき、心の中で首を横に振った。


「これは侍女たちも面白いと話していたな。女性に人気のようだ」


 ヴィンセントが渡してきた本は、剣術の本でも戦術の本でもなく、恋愛小説だった。

 帝国で人気のベストセラー小説だそうだ。


「恋愛……私にはあまり理解できないものです」

「それは、記憶を失くしたからか?」

「……記憶を取り戻してもわからないままな気がするのです。恋愛に限らず、私はきっと、人と心から繋がれたことがなかったんだと思います」


 そうぽつりぽつり降り出しの雨のように吐露していくニーナを、しばらくヴィンセントは見つめていた。


 そして、その言葉に対して何かを返すわけでもなく、ヴィンセントは一つの提案をした。


「お前の仮の名を決めないか?」

「仮の名前……?」

「名がないと呼ぶのにも困るだろう」


 何か呼ばれたい名前はないかとヴィンセントは続けて聞いた。 


「ヴィンセント様たちの、呼びやすいように呼んでくださって構いません」


 暗部に入った時から、ニーナという名を与えられた。この名前に意味なんてなかった。

 スパイで潜入することになった時も、シャルロッテという名前をまた与えられた。


 だから、名前に意味なんて見出したことがなかった。ニーナにとって名前は、ただ呼ばれる為のラベルシールのようなものだ。


「では俺が、君の呼ばれたい名前を呼びたいと言ったら?」

「呼ばれたい名前……」


 振り払ったつもりが、それでもヴィンセントは優しい表情でニーナのことを見つめてくる。

 選ばせてくれる。


「……イザベラ」


 幼い頃、宝物にしていた本の、主人公の名前がなんとなく浮かんだ。


「良い名だ。イザベラ」


 深い理由なんてない。最初に浮かんだだけだ。


 でもヴィンセントに笑顔でその名を呼ばれた時。

 思い出の底に眠る宝物が、また光ったような。そんな気がした。

 そしてなぜか、もうずっと涙なんか流したことがないのに、目の奥から熱いものが込み上げてきた。


 ヴィンセントは驚いたように、使うかとハンカチを差し出した。ニーナはすみませんとそのハンカチをとると、顔を覆った。


 いつの間にか、色んな苦しみや恐怖が、胸の内に突っかかっていたのかもしれない。

 でもヴィンセントに、自分の選んだ名前を呼んでもらって、確かに自分はここに居るのだと。そう思えたことで、感情の蓋をしていた部分が解けてしまったのかもしれない。


 その後、ヴィンセントは慰めの言葉をかけるでも、大丈夫かと背中をさするでもなく、ニーナの涙が止まるまで、黙ってずっと隣に居た。それだけのことだ。その、それだけのことが、ニーナにとっては救いになっていた。







 ヴィンセントに拾われてから、季節を一つ、また一つと重ねた。

 だが日々の中身は、毎日あまり変わらなかった。


 本を読む。

 リハビリをする。

 城の周りを散歩する。


 基本的にはその繰り返しだ。


「イザベラ。お前の勧めてくれた本、実に面白かった」


 そんな繰り返しの日々に、ヴィンセントは色をつけてくれた。


 例えば、読んだ本を交換すること。


「良かったらこの子たちに本を読み聞かせてくれないか?」


 本を使用人の子供たちに読み聞かせること。


「イザベラ、見てくれ」

「白い文鳥……?」

「庭園に紛れ込んできた鳥なんだ。怪我をしていたから拾ってな。君の部屋に置けないか?」


 静かな部屋の中に、明るい同居人を増やしてくれたこと。


 ヴィンセント様は本当に色んなものを拾ってきますねと、エルマーも笑っていた。







「使用人の子供たちに、クリスマスにプレゼントを渡したいんだ。手伝ってもらえないか?」

「私でよろしければ……」

「ありがとう。プレゼントの内容だが、イザベラに考えてほしいんだ」

「わ、私が?」


 冬になれば、ヴィンセントはプレゼントの内容からニーナに考えさせた。


 本の読み聞かせをすることも増え、子供たちとはよく話す関係にはなっていた。


 だが、さあ困った。

 ニーナは人に物を贈ったことなんて全くなかったからだ。


 城の中を車椅子で回り、ニーナは子供たちの様子を見ながらずっと考えていた。


「イザベラ様はリハビリや読書を初め、本当に何事も熱心ですね。何事にも熱心になれるところは、ヴィンセント様と似ている気がします」


 車椅子を引きながら、エルマーは感心したようにニーナに言葉をかけた。


「リハビリはエルマーも手伝ってくれているから、続けられている」


 一人だけでは、心が折れる時もあったかもしれない。


「でも、人に物を贈るのって難しいことなんだね。他のことよりも難しいかもしれない」


 エルマーはイザベラの言葉に、少し驚いたように目を見開くと、すぐに笑顔になって頷いた。


「難しいことです。でも、考えたその時間がまた贈り物になります」

「考えた時間?」

「プレゼントは物だけでなく、心です。選んだプレゼントに対してどんな心を込めたのか」


 心を込める。

 それは命じられたことを淡々とこなしてきたニーナにとって、考えたこともないことだった。


「ヴィンセント様は贈り物の天才だと思いますよ」

「ヴィンセント様が?」

「イザベラ様も、これまで色んな形の贈り物をヴィンセント様からもらってきたのではないでしょうか」


 エルマーにそう言われ、ニーナははっとした。

 それから、ヴィンセントと過ごしてきた時間が、ニーナの心の中に、ばらばらとアルバムのページをめくるようによぎっていった。


「……嬉しかった。本も、鳥も、過ごしてきた時間も」


 『贈り物』と称して渡されたわけではなかったが、この城に来てからの半年間、ヴィンセントはたくさんのものをくれた。


「それは全てヴィンセント様がイザベラ様を想って選んだ、贈り物……ヴィンセント様の心です」






 ヴィンセントからもらったものを思い出しながら、ニーナは子供たちへのプレゼントを考えていった。


 難しいなと思っていたプレゼント選びも、子供たちを改めて見て、言葉を交わしていくと、喜んでもらえそうなイメージが次第に湧いてきた。


「みんな、今日はイザベラ様がプレゼントを用意してくれました」


 そして、クリスマス当日を迎えたその夜。

 ニーナはエルマーにも協力してもらいながら、使用人の子供たちを自分の部屋に集めた。


「イザベラ様が?」

「プレゼント!」


 小さな、ニーナやエルマーの半分の背丈にも満たない使用人たちが、目をきらきらさせながら二人を見上げている。


 ニーナは、ああ、プレゼントをするのってこんなにも勇気のいることなのかと内心思った。

 プレゼントを見た時に、どんな反応をされるかというのが怖いのだ。


 思わず、子供たちの後ろ……部屋の奥で様子を見守っていたヴィンセントの顔を見てしまった。


 ヴィンセントは声に出すことはなかったが、思いを込めた表情でニーナを見つめた。


 イザベラ、頑張れ。


 そう言っているようにニーナには感じた。


「ひ、一人ひとりに渡していきます。まずは、アンジュ」


 オーランド、キルシュ、トーマス、リリー……ニーナは一人一人の名前を呼びながら、プレゼントを渡していった。


「エルマーも、いつも私の世話をしてくれてありがとう」

「僕にもあるんですか?」


 一緒にプレゼントを準備してくれていたエルマーにはばれないように、こっそり用意していたのだ。


 まさか自分にもあると思ってなかったエルマーは、目尻に涙を浮かべていいんですかと、感嘆に声を震わせながら受け取ったのだった。


「イザベラ様、プレゼントあけてよろしいのですか?」

「どうぞ」


 いつものように表情を崩さず、ニーナ自身は冷静に振る舞っているつもりだったが……

 ヴィンセントやエルマーの目からしたらいつになく、上擦った声で緊張していることがわかっていた。


「わあ……イザベラ様は、魔法使いなのですか?」

「ほしかったマフラーです!」


 子供たちに渡したプレゼントは、全てばらばらだった。マフラー、手袋、靴下。それぞれに必要だと思ったものを一から編んで、ニーナは作りあげていった。


 王に引き取られる前、ニーナは孤児院で暮らしていた。その時に歳の下の子供たちに、編み物をしてやったことがあった。この記憶を頼りに作ったのだ。


「ヴィンセント様! イザベラ様が、手袋を編んでくださいました!」

「僕には毛糸の腹巻をくださいました!」


 子供たちは後ろに居たヴィンセントの方へ、プレゼントを持って駆け寄って行った。


 手袋を片方なくしがちで、また先日もなくしてしまったオーランドは、ヴィンセントにさすがに次は支給を頼めないと嘆いていた。だから紐で繋がった手袋を。


 寝相が少し悪くて、よく風邪をひいてしまっているトーマスには腹巻を。


 話した記憶や、みんなの顔を思い出しながら、ニーナは編んだ。


「イザベラ様、僕のプレゼント……驚きました」


 エルマーに与えたのは脚につけるサポーターだった。これはニーナがつくったのではなく、城内の人たちに編んだ物を売りながら、集めた硬貨で買ったものだった。


「エルマーは、脚が悪いのかと思って」

「どうしてそれを……イザベラ様にお話ししていなかったのに」

「最初、私が松葉杖も使えなかった頃、いつも肩を貸しにきたのはヴィンセント様だった」


 夕食後、エルマーと入れ替わるようにヴィンセントは決まって部屋を訪ねに来た。肩を貸して、車椅子からベッドへ下ろしてくれたのはいつもヴィンセントだった。

 それはニーナだけでなく、エルマーを気遣ってのことだった。


「しゃがむ時の動作もそうだし、リハビリに付き添い続けてくれたのも……いや、エルマーが私のお世話係になってくれたのも。エルマーが私と同じような怪我をしたことがあるからかと思って」


 エルマーとも初めて会った時からもう半年間、共に過ごしてきた。しっかりとその姿を見てきたのだ。


「庭園もアルベルト様じゃなくてエルマーが本当は手入れしているんでしょう? 庭仕事は足を使うわ……だから、何か贈れるものはないかと思って」


 花の名前を教えてくれたり、アルベルトが散らかした花を大切そうに集めていた姿も見て以来、ニーナは気づいていたのだ。


「イザベラ様はやはりすごい人です……こんな僕のことも気にかけてくださっていたなんて、嬉しくて、なかなかうまく言葉を紡げません」


 少し詰まりながら話していったエルマーは最後に、本当にありがとうございますと、ニーナの手を握ったのだった。

 子供たちもニーナの元に集まってくると、口々にありがとう、ありがとうと抱きついてきたのだった。






「イザベラ……たくさん考え、時間をかけてつくったのだろう。ありがとう。子供たちもあんなに喜んでいた」


 ようやく子供たちから解放された頃。ニーナの部屋に最後まで残ったのはヴィンセントだった。

 もう消灯の時間だと子供たちは使用人の寮に帰っていったのだった。


「ヴィンセント様にもプレゼントです」


 ニーナはずっと隠していたプレゼントを、ヴィンセントの前に差し出した。

 サプライズプレゼントはヴィンセントにも用意していたのだ。


「俺に?」

「子供たちへのプレゼントを考える時間も、ヴィンセント様からの私への贈り物だったから。お返しです」

「イザベラ……」


 この流れで、自分にもプレゼントがあるとは考えてもいなかったのだろう。ヴィンセントは珍しく動揺しながら、ニーナに手渡されたプレゼントを受け取った。


「開けて良いのか?」

「はい」


 包装を剥がしていくと、中から出てきたのは本のカバーだった。


「ヴィンセント様の本、熱心に読み込まれるからか、いつもカバーがぼろぼろになっておりましたから」


 ヴィンセントは口元を手で覆うと、少し照れくさそうにし、次第にくつくつと笑い始めたのだった。


「俺ばかりお前を見ていると思っていたが、俺も知らぬ間にしっかり見られていたというわけか」

「あなたが思っているよりもずっと、私はあなたのことを見ております」


 そう話すニーナは、自身は気づいていないが、帝国に来てから一番、自然な表情で笑っていたのだった。

 何か美しいものを見て心奪われるように、ヴィンセントは自身の体が熱く凍りつくのを感じた。


「ありがとう、イザベラ」


 ヴィンセントはニーナの指に自分の指を絡めると、大切なものを見るようにニーナを見つめた。


 真っ直ぐと自分を映してくれている彼女の瞳が、この先もずっとこちらに向いていてくれないものかと。ヴィンセントはその時そう思っていた。








 冬が解けて春がくればリハビリの成果もあり、ニーナは歩けるようになっていた。


 しかし、剣をしばらく振っていない。

 腕が落ちていないか心配になる。


「努力の賜物だな。医者の診断よりも、こんなにも早く歩けるようになるなんて」


 ヴィンセントもエルマーも、大きく感心してニーナを褒めた。


 やはり自分の脚で自由に歩けるというのは良いことだ。


 けれど、そう思いながらもニーナの心が完全に晴れないのは、この先の生活について考えているからだった。


 歩けるようになったからには、これまでのように城に住まわせてもらい続けるなんてできないだろう。


 それはヴィンセントやエルマーたちとの別れを意味していた。

 さらには、この城から出たところで行く宛があるのかということだ。






 そう悩み始めてすぐのことだった。彼女が訪れたのは。


「その子が噂のイザベラ?」


 エルマーが開けた扉の向こうに、ブロンドの髪に雪のような白い肌の、見目麗しい女性が立っていた。ニーナが出会ったことのある女性の中でも、自国の女王に匹敵する美しさだ。


「れ、レオナ様」


 エルマーは、アルベルトと話した時よりも怯えた様子でその名を呼んだ。

 レオナ……ヴィンセントの婚約者だ。名前だけは聞いていた。


「はい……私がイザベラでございます」


 レオナはニーナの前まで歩み寄ると、不意に手を伸ばしてきた。それからニーナの髪や頬を触ってきたのだった。


 いきなりのレオナの行動に、ニーナは強い恐怖を感じた。


「綺麗な髪に、肌。アルベルト様や侍女たちから噂には聞いていたのだけれど美しいわ。まるで人形のよう」


 それはあなたのことではと思いながら、ニーナはじっとされるがままに耐えた。


 レオナを前にしたこの恐怖は、闇ギルドの頭領と対峙した時とも、屈強な敵国の騎士と闘った時ともまた違う。

 得体の知れない恐怖だった。


「今日は、あなたに話したいことがあって来たのよ」

「私に?」


 ええと、レオナは目を細め、


「単刀直入に申し上げると、この城から出て行ってほしいの」


 ニーナにそう言い放ったのだった。


「あなたはいつまでこの城に居るのかしら? 使用人として雇ってもらった孤児たちとあなたは違うわ。怪我が治った後も、何をするでなく、ただヴィンセント様やそこのエルマーにお世話してもらってるだけですよね?」


 レオナの言ってきたことは、語気は強いものの決して間違ってはいなかった。


「レオナ様……イザベラ様は過去の記憶がございません。そんな状態で見捨てるなんて」

「記憶がない人は、働かなくても良いのかしら?」

「それは……」

「だいたい、イザベラ様なんて何者かわからない彼女をなぜ王室や貴族のお嬢様のように扱っているのかしら? これだけ美しいんだもの、もしかしたらどこかのお嬢様かもしれないけれど。今は何者でもないわ」


 エルマーも返す言葉がないのか、胸元で浮いた手が、所在なさげにしている。


「城に居るなら、せめて侍女として働いたらどうですの? 子供たちですらみんなそうしてますよ」


 そう一方的に言い放つと、レオナはしばらく考えてみてくださいと笑みを浮かべ、部屋から出て行った。


 ニーナは何も言い返せないと思った。


 元々スパイをする為に、なるべく長く城に居ようと思っていた。


 怪我が治った今、レオナの言う通り使用人として城で雇って貰えば、さらに長く居続けられるかもしれない。

 その後、王から命じられていた情報を収集して国に帰れば、事故での失態もお咎めなしになるかもしれない。


(でも、今はもうそんな気持ちになれない)


 最初は認めたくないと思っていた。

 騙されているのかもしれないとも考えた。


 しかし過ごせば過ごすほど、彼らがニーナに分け与えてくれる心は本物だとわかっていった。


 何をもって証明できるわけではない。

 『理屈抜きなのに物事がわかること』自体も、ニーナにとって初めての経験だった。


 みんなのことを好きになってしまったのだ。

 ヴィンセントもエルマーも、子供たちも。


 そんな幼稚な理由で任務を放棄するのかと、王や上司の怒声でも聞こえてきそうだ。


(みんなを裏切ることは、私にはできない)


 早急に、この城から出よう。


 王下騎士団失格だ。

 敵国の人間たちに懐柔されるなんて、自分らしくない。でも逆に、『自分』らしさとは、『ニーナ』とはなんだったのだろうかとも思った。


 ヴィンセントは聡明な男だ。

 色んなピースを掻き集めながら一枚の絵を完成させるように、きっといつか自分の正体に辿り着くだろう。


 そんな日が訪れるのはずっと先かもしれないし、もしかしたら明日かもしれない。


 どちらにせよ、その日がくることももう耐えられそうにない。








「イザベラ……すまない。レオナが今日の昼に、お前に無礼を働いたと聞いた」


 夕方、ヴィンセントは仕事の合間を縫ってニーナの部屋を訪ねてきた。


 ニーナは座っていたソファから立つと、ヴィンセントの正面からその瞳を見つめて、伝えたいことがあると前置きした。


「ヴィンセント様、私、この城を出て行こうと思います」


 ヴィンセントは、別れを告げられる予感をしていたのだろう。ショックこそ受けているが、取り乱す様子はないまま、なぜだと理由を聞いた。


「私はあなたにたくさんのものを与えてもらいました。でも私は、ヴィンセント様に何も返すことはできません」

「そんなことない……たくさんのものを、お前は返そうとしてくれたじゃないか……」


 ヴィンセントはそう言ってくれるが、自分が居ることでこの先、奪ってしまう物があるかもしれない。


 この言葉に続く思いは、言葉にせずに飲み込んだ。


「今まで、ありがとうございました」


 せめて笑って、別れを告げたいと思っていた。


 だけどきっと、この笑顔は。

 いつか双子の侍女たちに駄目出しされたような、あの時の笑顔……いや、それよりももっと下手くそで、酷い笑顔に戻ってしまっているのだろうとニーナは思った。


 ぼろぼろと、心が痛くて崩れ落ちていくような。こんなにも悲しい気持ちになったのも初めてだった。








 ヴィンセントはニーナを強く引き留めることはしなかった、否、できなかった。


 ニーナに城の侍女になるように強要することなんてできない。かと言って、別の立場を与えることもできなかった。


 なぜ一国の第一王子なのに、自分はこんなにも無力なのだろう。


 婚約者も王から用意された女性で、契約的なものだだ。愛なんて二人の間には存在しなかった。

 自分の立場なんて誰かにとっての価値でしかなく、本当に役に立てたことなんて一握りだ。


「ヴィンセント様……イザベラ様を引き留めなくて、よろしいのですか?」


 今日の夜に、ニーナは城を出る予定となっていた。

 朝からエルマーはヴィンセントの元に、無礼を承知でお願いに来たのだった。


「記憶のないイザベラ様を、城から出すことに僕は反対です」

「それは俺も同じ気持ちだ」

「ではなぜ……」

「俺に彼女を留める力がないからだ」

「あなたがなかったら誰もないですよその力! 力がないわけがない。彼女を留められるのはあなたしか居ません」


 エルマーは、ニーナに対する気持ちを、恋心という言葉に括ってしまう気はなかった。だが、ヴィンセントの次には彼女を想える人になりたいと、彼女と過ごすうちに思うようになっていた。


「王子は正直に生きたら駄目なのですか? 僕は周りから非難されようと、自分の心に従い、僕たちを救ってきたあなただから尊敬しているのです」

「エルマー……」


 エルマーを拾って城で雇い始めてから、強く意見してきたことは初めてで、ヴィンセントは酷く驚いた。


「すまない……今夜、彼女が出て行くまでには、もう一度必ず答えを出してみせる」


 このまま彼女を、城から出て行かせるわけにはいかない。







 だが、なぜこんな日に限って仕事が多いものかとヴィンセントは頭を悩ませた。


 もちろん王族の公務は一つ一つが重要な仕事だ。

 いくら自分がイザベラのことで時間がほしいからと、蔑ろにすることなんて考えられない。


(いつもと同じようにやるしかない)


 城の人間たちと時間を作るために、仕事を早く終わらせる。


「アルベルト、今日の公務の件だが……」


 部屋を訪ねると、アルベルトは呑気にレオナとお茶をしていた。任せている仕事は多くあるが、いつも締め切りをすぎて終わらせていた。

 王子からのお願いだと押し通せば、仕事の期限なんていくらでも自由に変えられると思っているからだ。


「あら、ヴィンセント様。お邪魔しておりました」


 レオナはのんびりと、アルベルト様にご馳走になりましてと、紅茶や菓子を指してみせた。


「イザベラさん、今日をもってこの城から出て行くと聞きました」


 エルマーから、自分の知らない所で、レオナが彼女に出て行くように促してたという話も聞いている。

 だからこそ、ヴィンセントはこれまで以上にレオナに対して疑心を抱くようになっていた。


 自分の知らない所で、この女は何をしているかわからないと。


「まだ決まっていない」

「え……」

「彼女ともう一度話す。だからまだ、彼女がこの城から出て行くと決まったわけじゃない」


 ヴィンセントはアルベルトの机に、仕事で使う書類を置くと、足早に部屋から出て行った。


「なんだ、出て行く準備を始めてたからすっかりそうかと思ったのに。レオナちゃん、ごめん……ねって、聞いてないか」


 ヴィンセントが出て行った扉を見つめるレオナの表情は、まるで聖書に出てくる悪魔のようだった。兄は恐ろしい女を婚約者に抱えたものだと、アルベルトは鼻で笑った。







「エルマー、今までありがとう。エルマーたちと過ごせた半年間は、本当に、色んなものを分け与えてもらった」

「イザベラ様……」

「またいつか会えたら。今度はイザベラで良い。レオナ様の言う通り、私はそんな敬意を払われるような存在ではない」


 ニーナは自分が半年間過ごした部屋の掃除をしていた。


 持って行こうとしている荷物は、服の入った小さな風呂敷一つだけ。

 服だけ譲り受けて、あとは何も要らないと断った。


「一つ聞かせてください。なぜ、イザベラ様はこの城に残ることを頑なに拒むのですか?」

「それは……」


 このまま城に残り続けても、互いに傷つけ合うことになるから。

 とても打ち明けることのできない理由だった。


「イザベラ様ぁ!」

「イザベラ様、今日で城から出て行かれるというのは本当ですか?」


 エルマーとの間の重苦しい空気を打ち破ったのは、部屋に押しかけて来た使用人の子供たちだった。


 ニーナの周りをあっという間に取り囲むと、出て行かないでと泣き始めた。


「ごめんね、今日で最後なの……永遠の別れではないわ。またきっと会えるから」


 その場の慰めにしかならないと、ニーナ自身が一番わかっていたが、そう言って子供たち一人一人と抱擁を交わしていった。


 それから泣き疲れてしまった子供たちを、エルマーと一緒に背負って部屋まで帰し、ようやく落ち着いた頃だ。


「大変だ!」

「執事長……何事ですか?」


 使用人たちを束ねている執事長の男が、ニーナたちの部屋に飛び込んできたのは。


「アルベルト様に反感を持っている暴徒たちが、城に押しかけて来て……アルベルト様が人質にとられた」

「なんですって……?」


 ヴィンセントと違って、アルベルトは尖った発言も多く……国民の前で言葉を述べる時には、確かにこんなことを話していて大丈夫なのかと、ニーナもこの半年見ていて不安になる時があった。

 実際に、アルベルト考案の政治施策に不満を持つ国民も多いとも聞いていた。


 その小さな不安の芽が、まさかこんな形で顕在化するなんて思わなかった。


「城の入り口に火も放たれたんだ。裏口から脱出するよう、皆に声をかけて回っている。お前たちも早く逃げろ!」


 エルマーと顔を見合わせ頷くと、二人で動揺している子供たちを抱きかかえた。一刻も早くここから脱出しようという思いだが、一つだけ、ニーナには気にかなることがあった。


「あの、ヴィンセント様は……?」

「アルベルト様を助けようと、騎士たちと暴徒を相手にしている!」


 騎士たちも一緒だし、ヴィンセントの剣の実力は高い。

 元々、王国に居た時から噂で聞いていたし、剣の訓練に励む姿を見たことがあるが、確かな腕前だった。

 こんな形で会わなかったら、剣を交わしてみたかったとニーナに思わせたほどだ。


 なのに、どうしてこんなにも不安なのか?

 ニーナ自身にも理由はわからなかった。


「行きましょう、イザベラ様!」

「え、ええ……」


 胸の中に渦巻く黒い不安を抱えながら、ニーナはエルマーと共に裏口へと駆け出した。







「はあ、はあ……」


 炎の海と化した城の入り口で、ヴィンセントはその場に居た暴徒の、最後の一人を打ち破った。


「ヴィンセント様、あとは我々にお任せください。アルベルト様を救出してまいります」


 アルベルトは城の上階にある部屋で、暴徒たちのリーダーに人質として連れて行かれた。

 騎士たちは自分たちが行くと名乗り出てくれているが、そういうわけにはいかなかった。


「俺だけ来るように、暴徒のリーダーは言っている。俺が行かなければアルベルトの命はないかもしれない」


 決して仲の良い兄弟なんかではないし、むしろ相容れない部分の方が、年々増えていっている。


 しかし、ヴィンセントにとってアルベルトはたった一人の弟だった。そして、彼はこの国のたった一人の第二王子でもあった。


「みんなは消火活動や、怪我人の治療、城内に取り残されてる者が居ないか確認するなど、他のことにあたってくれ」


 ヴィンセントは騎士たちに指示をすると、暴徒のリーダーに呼び出された部屋に向かって走り始めた。








「手の空いている者は、消火活動にあたってくれ!」

「怪我人は、庭園の方のテントへ移動させろ!」


 ニーナが城の外まで、エルマーや子供たちと脱出すると、城の騎士や使用人たちが慌ただしく動いていた。


 城の入り口の扉は開放され、中から黒煙が絶え間なくあがってきている。

 中の様子は火と煙しか見えず、全くわからない。


「我々も手伝いましょう」


 エルマーの呼びかけに頷こうとした時だ。


「ヴィンセント様を一人で向かわせた!?」


 騎士たちが揉める声が聞こえてきたのは。


「申し訳ありません……暴徒のリーダーが、ヴィンセント様のみで来るように指定したとのことで……」

「何を考えている! 影武者をつくるなり、他の者に気づかれないよう援護させるなど、やり様が色々とあっただろう!!」

 

 ヴィンセントが、まだこの城の中に居る……。

 エルマーや子供たちも話を聞いていたらしく、悲痛そうに顔を歪めていた。そして恐らく、最悪の事態も頭によぎったのだろう。ニーナも同じだった。


「ヴィンセント様……」


 気づけばその名前を口にしていた。


 別れる決意はしていた。


 けれど今ここが、本当に彼との最後になるかもしれないとなったら、その現実を受け入れることはできなかった。


「イザベラ様!?」


 ニーナはもう一度、自分たちが出てきた裏口に向かって走り始めたのだった。







「あなたは、い、イザベラ様ですか?」


 裏口から上階へと向かうと、城に残っている者が居ないか探している騎士に会った。


「ヴィンセント様はどの部屋に向かわれたのですか?」

「あ、アルベルト様の部屋に、暴徒のリーダーはアルベルト様を連れて立てこもってると聞いてます……というか、なぜあなたがここに!?」


 ニーナは情報を聞き出すと、ありがとうございますと一言礼をした。そして、


「それ、貸してください」

「え?」


 騎士の腰に括り付けられていた鞘から、ニーナは早い身のこなしで剣を抜き取ると、そのままアルベルトの部屋に向かって走り出して行った。


「え、え、えええええ!? お、俺の剣!?」


 何が起きたと驚きながら、騎士は自分の空っぽになった鞘と、走り去るニーナの後ろ姿を往復して見ていた。


 追いかけようにも、そのあまりの速さにまたさらに驚く羽目になり、すぐに見失ってしまうのだった。







「アルベルト!」


 扉を開けると、暴徒のリーダーとアルベルトが部屋の奥に立っていた。

 アルベルトは頭に銃を突きつけられながら両手を胸の高さで挙げていて、青ざめた顔をしている。


「兄様……俺のことなんて見捨てて良かったのに、本当に来ちゃったのかよ……」

「弟を見捨てる兄がどこにいる?」


 アルベルトは目尻に涙を浮かべながら、挙げた手や体を震わせた。

 いつもと変わらない真っ直ぐな目で、ヴィンセントが自分を助けようとしている……そんな兄の姿を見て、アルベルトはごめんと呟きながら俯いた。


 優秀なヴィンセントを僻み、困らせようと、悪い行いばかりしてきた。そのつけが、この暴動だと時は既に遅いがアルベルトはわかっていた。


「お、おい! 剣を床に捨てろ!」

「……わかった」


 ヴィンセントは腰に固定していた剣を鞘ごと外すと、足元に置いた。


「この馬鹿な第二王子の施策のせいで、俺たちの職場が潰されたんだぞ! 職を失って死んだ奴も居る! 第一王子も天才だかなんだか知らないが、こいつの制御ができてねえじゃねえか!」

「……申し訳ない。私の力不足だ。確かに私が制御できていない部分があった。そして何より、弟を信じて任せようという想い。そこに私情が絡んでしまっていた」


 アルベルトは兄のその言葉を聞いて酷く驚いた。

 てっきり、自分に関わりたくないと干渉してこないと思っていたことが、まさか信頼し任せてくれていたからだとは知らなかったのだ。


「望みがあるなら話してくれ。皆の意見を取り入れ、間違っていた部分を正していきたい」


 ヴィンセントは暴徒のリーダーと話し合おうと、落ち着いた声音で諭そうとした。しかし、暴徒のリーダーの中では元々、次にどう行動するかは決まっていた。


「望み……? そんなの、お前たち兄弟が消えることだよ!」

「!!」


 それは、まずヴィンセントを殺すことだった。


「兄様!」


 暴徒のリーダーは何一つ躊躇うことなく、拳銃をアルベルトからヴィンセントに向けると、引き金を引いたのだった。


 けたたましい銃声が鳴り響き、城外に出ていた人間たちも何かあったのだと、一斉にその音を聞いて悲鳴を上げた。


「……弾が」


 ヴィンセントはいざとなったら床に置いた剣を蹴り上げ、使おうかと考えていたが、さすがに対応できなかった。なんとか急所を避けようと受け身をとったものの、駄目かもしれないと一瞬で考えた。


 しかし、撃ち放たれた弾丸はヴィンセントに届くことはなかった。暴徒のリーダーの頬を通り過ぎると、壁に埋め込まれてしまったのだ。


「な、なんで撃った俺の方に弾が……!?」


 誰もがその時何が起きたかわからなかったが、部屋に入ってきた彼女の姿を見て、事態の変動に気付いた。


「ヴィンセント様!」

「い、イザベラ……?」


 ここに居るはずのない彼女が、剣を構え、ヴィンセントの前に現れたのだった。


「だ、誰だこの女!?」


 暴徒のリーダーは自身に返ってきた弾と、突然現れた女の存在に動揺していた。

 こんな動揺している元々戦闘経験も少ない男に、遅れをとるニーナではなかった。


「なっ!?」


 ニーナは男の目の前へ移動すると、手に蹴りを入れ、拳銃を蹴り上げた。それから剣を男の喉元に突きつけ、脇腹にも蹴りを一発入れてみせた。


 それは本当に瞬く間のことで、ヴィンセントですらその動きを追うのはなかなか容易なことではなかった。


「この方に指一本でも触れてみろ。貴様の首を切り落とす」

「ひ、っ……!」


 首元に食い込んだ剣先に、つーっと男の血が落ちていく。

 この女は、本気だ。

 男はそのあまりの気迫に白目を剥きながら、へなへなと座り込んでしまった。


「す、すごい……」


 アルベルトは男から解放されて力が抜けたのか、壁にずるずるともたれかかった。何より目の前で起こった鮮やかな救出劇に、心が追いついていなかった。


「ご無事で何よりです。ヴィンセント様」


 ニーナは床に落ちた拳銃をとり、男が本当に意識を失っていることを確認するとヴィンセントに声をかけた。


 そして、ああ、もう取り返しがつかないことをしてしまったかもしれないと思った。







 事の騒動が全て落ち着いたのは、その日の深夜のことだった。


 消化活動や暴徒たちの確保、城の関係者の安否確認など色んなことがあった。


 こんな騒動があったので、ニーナが城から出て行く日ももちろん延期となった。

 不幸中の幸いで、ニーナの部屋は今回の騒動での被害はなかったので、また今夜もこの部屋で過ごすこととなった。


「お前にあんな一面があったとはな、驚いた」


 ニーナは覚悟していた。

 お前は一体何者なんだと、ヴィンセントに問われるのだろうと。


「イザベラ。やはり、このまま城に居てくれないか」


 だが、ヴィンセントから告げられたのは、ニーナの予想とは違った言葉だった。


「……なんで……私を疑わないのですか? 記憶喪失だった女に、あんな戦闘ができるわけがないって」


 ヴィンセントなら、絶対にわかってるはずだ。

 ニーナがどんな人間なのかと。


 それなのに、いつもと変わらない優しい表情と声色。なぜ、まだ同じように接してくれるのか?

 いっそのこと突き放してくれれば、苦しまずにすむのにと思っていた。


 だがヴィンセントは首を横に振ると、ニーナを抱き寄せたのだった。

 ヴィンセントの肩に顔を埋めながら、ニーナは何が起きたのかわからなかった。


「イザベラはイザベラだ。みんなを喜ばせようと、編み物をする手と、俺たちを守ろうと剣を握った手。そこになんの差があろうか」

「……っ、それは」


 言葉こそ少なかったが、抱き締められたその腕の強さから、ヴィンセントの想いが伝わってくるのを感じた。


「この城にお前を引き止める理由をずっと考えていたが、やはり一つしかなかった。俺はお前のことが好きだから、側に居てほしいのだと思う」

「ヴィンセント様……」

「この先も俺の隣で笑っていてほしいと思う女性は、お前だけだ」


 生まれて初めて、ニーナは一人の男性から愛情を向けられるということを知った。

 そして、自身がヴィンセントに対して抱いている想いと向けられていた想いが同じだったということに気付いた。


 互いの気持ちが重なる、こんな奇跡がこの世界には存在するのかと思った。


「お前の過去も全て受け止める。どんな障害があっても必ず超えてみせよう。これからも俺の側に居てくれないだろうか」


 ニーナがヴィンセントの側に居続けることは簡単なことではない。ヴィンセントも婚約者が居る。


 でも、ヴィンセントと一緒なら、この先にあるどんな苦難も乗り越えられるんじゃないかと。

 新しい奇跡を起こしていけそうな、そんな予感がした。


 ニーナは、そっとヴィンセントの背に手を回して目を瞑った。言葉は要らなかった。これが、答えだった。


 閉じたその目尻から、一筋の涙が流れた。









お読みいただき、ありがとうございました!


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また、連載小説で「死に戻り勇者は、ラスボス少女を今世こそ幸せにしたい」という作品を書いてるのですが、よろしければそちらもお願いします!



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