可憐な子爵令嬢
「ありえませんわ。王女でなくなるなど。ヴィオラは幸せに決まっています。だって私たちからとても大切にされていますもの。ドレスだって何だってわたくしが着たもの使ったものをすぐにヴィオラへ渡しておりますわ。最新のもの最高のものですのよ。それに王女ですのよ。平民でもなく、普通の貴族とも違いますわ。王女ですわよ。誰よりも違っていて当たりまえですわ」
「王女だから幸せとリコリス王女は思われているということかな」
皇太子が薄く笑う。
「不敬ではありますが、一言よろしいでしょうか」
後ろのほうから声がかかる。
「まあ、ビオエラ……可愛いわ…」
普段のお仕着せを着た凛としたビオエラと違い、可憐の一言に尽きる優しい雰囲気のビオエラがふんわりとしたドレスを着こなして現れた。
「ヴィオラ様も誰よりも世界一お綺麗です」
目を輝かせてヴィオラを見るビオエラがそこにいた。
「ヴィオラ王女の侍女をしていたビオエラ嬢か。かまわない」
「侍女をしていたではなく今現在も専属侍女でございますわ、皇太子殿下」
「どうして歓迎パーティーに一介の侍女が参加しているのです。不敬にもほどがある」
リコリス王女が声を高くする。
「ビオエラ嬢はもとはバンパー国の子爵令嬢。リコリス王女にとっては侍女ごときと思われるのだろうが、子爵令嬢である以上今回の式典に参加するのは当然のこと。招待状も子爵へ出している」
「……さようでございますか。わたくしはヴィオラの侍女が子爵令嬢であることは全く存じ上げておりませんでした」
不服そうにリコリス王女は扇で隠して口をとがらせる。
「……先ほどリコリス王女よりドレスの話がありましたが見て分かる通りリコリス王女とヴィオラ王女は身長差が10センチほどあります。体格差もあります。リコリス王女のドレスをもらってもヴィオラ様は全体的に細身のため身に着けることはできますが、ドレスの丈が短いためにドレスをリフォームできるものがほとんどないのです。新しいものをヴィオラ様が作ってもらうことは決してありません。ですのでヴィオラ様はパーティーにはいつも同じものを何度も着ることになります。
周囲からドレスすらまともに持たないのかと笑われてもそうするしかないのです。リコリス王女は王女だから幸せだと言われましたが、ヴィオラ王女はなんにしても新しいものを手に入れることはほぼありませんでした。周囲の貴族から嘲笑で迎えられることばかりでした。
ヴィオラ様がお優しい方だけにどうにかしたいと何度も思っておりました。今回の留学は色々な意味で本当にヴィオラ様にとってチャンスだったのです」
「おだまりなさい。わたくしは何時だって周りの者を思い配慮しているのです。ヴィオラだって王女だからこそ誰からも尊重されているではありませんか」
リコリス王女は頬を紅潮しながら扇を持つ手がぶるぶると震えた。
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