アネモネ
母とは違うとはわかっていても、言葉は唇からこぼれていた。
「おかあさま…」
その人は母とうり二つだった。
今流行りのドレスを着た、母より少しふっくらしたうら若き女性。
抱きついて確かめたい、抱きしめられたい。思いが膨らむ。。
「皇太子殿下、お招きいただきありがとうございます。そして、はじめてお目にかかります、バンゲイのヴィオラ王女様。わたくしはヴィオラ王女の従妹にあたりますアニック伯爵家のアネモネと申します。
ふふ。ヴィオラ王女がそんなに驚かれるなんて、そんなにわたくしはフリージアおばさまに似ておりますか」
微笑むアネモネの横に立っていた人好きのする笑顔を浮かべたアネモネによく似た父親と思しき男性が一歩足を進めた。
「お招きいただき、感謝申し上げます、皇太子殿下。書類作成に時間がかかりまして時間通り参上できず、申し訳ありません。
ビオラ王女、私はフリージアの兄アニック伯爵エイドリーと申します。
それにしてもヴィオラ王女にお会いすることができましてありがたいことです。バンパーに来られたと聞き何度も面会を申し込んだのですが、断られてしまい」
「フリージアの娘ヴィオラと申します。お会いしたかったですわ」
誰から断られたのだろう。話が見えないとヴィオラは首を少し傾げた。
「後ろにいる老夫婦は私とフリージアの両親、ヴィオラ王女の祖父母にあたる元アニック伯爵夫婦でございます。ぜひフリージアの忘れ形見に会いたいと今回の式典に参った次第です。ヴィオラ王女と会いたい話したいと何度も面会の希望を持ち申し込んだのですがすべて断られてしまい、今日話すことができずともヴィオラ王女を陰から見るだけでもできればと言って来たのです」
ヴィオラは面会の要請などそんな話を聞いたことがない。
後ろを振り向くと優しそうな老夫婦が寄り添って立っていた。
祖母と思しきフリージアが年を重ねた風貌の女性は優しげな笑顔を浮かべていた。よく見ると笑顔のまま女性の頬には涙がたらたらと流れていた。
後からたくさん母のことを話そう。流れた月日をたくさん埋めていこう。
母がバンパーでどういう生活を送っていたのか、どういう人だったのか、何が好きだったのか、嫌いだったのか。たくさん聞きたいことがある。
辛い話は祖母にはきつすぎるから、優しくて楽しくて頑張った話をたくさんしよう。
ヴィオラは小さく頷きながら二人に礼をした
「アニック伯爵。ヴィオラ王女はアネモネ嬢たちに会うことができて本当に喜んでいるようだ」
皇太子は足がすくみ体が固まってしまったヴィオラをそっとアネモネのほうに押し出す。
「…はじめまし…て」
「はじめてお目にかかります、ヴィオラ王女。アニック伯爵家の長女アネモネです」
「初めまして。ヴィオラと申します。アネモネ様は母によく似ていらっしゃいます。びっくりするくらいに。突然こんなことを言って不審がられるかも知らないですが……抱きしめてもいいですか」
令嬢とは言えないような行為だが我慢できない。
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