母の言葉
「わたくしは幼いころ平民でした。母と一緒に市井で過ごしていました。母は慣れない生活の中一生懸命私を育ててくれました。体調が少しずつ崩れていって、それでも私の前では笑顔を向けてくれました。その中でよく言っていた言葉があったのです。『ビオラは私の宝物よ』『幸せになりなさい。あなたの思うように生きていきなさい』と。
繰り返し繰り返し言われてきました。
私は母の宝物で幸せにならなければといつも思っています。
王宮に引き取られてから幸せだと思うことはあまりありませんでした。お金の問題はなくなっても、母の笑顔はもうどこにもありませんでした。侍女のビオエラと過ごす時だけが私の喜びでした。王族や貴族になったからと言って幸せではない、とよく思っていました。幸せになるということはどういう状況なのだろうといつも思っていました」
話をしながら意識が母のことに向かう。
いつもヴィオラのことを気にかけていた母。
ヴィオラの話を笑顔で聞いてくれていた母を。
『ヴィオラ、あなたは私の宝物よ』
もう忘れてしまった、あの優しい声を。
「平民でなくとも、王族でも貴族でも幸せにはなれる」
少し考えるとアークライト殿下は口調を緩めた。
「母はわたくしを見るときは笑顔でしたが、それ以外の時は悲しそうに俯いていました」
『ヴィオラごめんなさいね』
『わたくしのせいでヴィオラにこんなつらい目に合わせてしまって』
悲しげな笑顔とともに。
「わたくしは母と一緒にいるだけで幸せでした。母がいなくなり、父……王のもとに行って悲しみをたくさん感じるようになりました」
「なら私がヴィオラ王女を幸せにする権利を与えてもらえないだろうか」
顔を上げると表情を変えることが少ない皇太子が困ったように少し口の端を下げた。
「実は母は日常生活の中で貴族令嬢としてのマナーをわたくしに教えてくれていたようです。引き取られ始めて、マナーの時間に様々なことを教わっている時に母が貴族だったのではと思うこともありました。ただ母が貴族であったなら、なぜ母は市井に放り出されていたのかとよく考えていたのです。誰にも聞くことができずにいました。
……貴族だけでなく平民でも女の人を大切にしない人はいます。いつ何が起こるかはわからない、といつも思っています」
いつの間にか1曲目は終わり、2曲目が始まった。
二人は自然と礼をし、手を離すことなくそのまま2曲目を踊り始める。
「ヴィオラ王女の言うことはわかる。だがそういう男だけではない。少なくとも私は違う。君が私の側に来てくれるなら君一人を愛そう。私は側妃も妾もいらない。ヴィオラ王女が私の側にいてくれるなら君一人を愛したい」
ヴィオラの姿が映る紫の瞳が揺れた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
初めて小説を書き、『毎日更新をする』『最後まで終わらせる』ことを目標に頑張ってみました。そのため文章中に誤字脱字等間違いが多くなり、読んでくださる皆様が不快な気持ちになられることも多かったと思います。
そろそろ終わりが近づいてきました。最後まで毎日更新頑張りたいと思います。




