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気品ある王女

「バンパーは周囲の国を従える巨大な国。その国の王妃となるならば誰が見ても納得できる王妃が立つべきですわ。ならばわたくしが一番ですわ。わたくし以外に考えられません。どうかわたくしを妃にしてくださいませ。……どうしてヴィオラなどを妃にと思われますの? わたくしの何がいけないんですの。わたくしは誰からも慈愛の人、妖精のような姫と言われ皆から慕われています。アークライト殿下の隣に立つには誰よりもふさわしいと思っております。わたくしこそが殿下の妃に選ばれるべきですわ」

 リコリス王女が一筋の涙を流しながらもゆったりとほほ笑む。


「王女として育ったということが王妃になることへつながるというのであれば、バンゲイでなくとも他の国々からも婚姻の申し出は多数あった。そちらの国のほうが経済的にも地勢的にもリコリス王女より利はある。

リコリス王女は自分の事を慈愛の人だ、妖精だと言われるが、リコリス王女より慈愛に満ち美しい人はたくさんいる。だが私が望んだのはほかの国の王女でもリコリス王女でもない。

誰からも慈愛の人と言われるということだが、あなたは何が慈愛なのかご存じなのか。それともバンパーとバンゲイでは慈愛の意味合いが違うのかな」


「わたくしがヴィオラを平民の娘と言ったことであれば、その辺りの事情を詳しく知らなかったためです。ヴィオラが平民であるとわたくしに伝えたのは母ですわ。平民だから平民として扱うようにと。ですからわたくしの侍女たちもそのように行動していたのです。

 わたくしはヴィオラが平民ではあっても妹であるからこそ。ドレスを持っていないと聞けばわたくしのドレスを与え、何か足らないと言えばわたくしのものを与えてまいりました。

 わたくしは誰よりも優しいと周りの人々から言われますわ。それにアークライト殿下の婚約者となりましたらこれまで以上の努力をします」


「そういうことを言っているのではではないのですよ。バンゲイ国王はどう思われているのか。話をしているとだんだん腹が立ってきますよ。なぜこうも話が通じないのか。国と国との繋がりを危うくしてもかまわないのだろうな、バンゲイ国は」

 リコリス王女は涙ぐみ。皇太子に体を向け近づいて腕に手を添える。

「もしヴィオラが平民の娘ではなかった、令嬢の娘であったということを教えてもらっていたなら、ちゃんと扱っていたはずです。わたくしはヴィオラが平民とだけしか、素性の分からない市井の者の娘としか聞いてはいないのです。知っていれば違ったのです」


 皇太子はリコリス王女の手を払いのけた。

「論点がずれております。

王妃とリコリス王女が言われていることは私たちにいうべきことではない。それはバンゲイ国内で話し合い解決すべきことだ。我々はそういった話し合いに混ざる気はない。話し合った結果を求めているのだ」


 兄が顔色を青くして口をはさむ。

「今回のこと、ヴィオラのことに関しては申し訳なく思っております。今回は王妃の独断であったようです。いや、今までヴィオラに関することすべてが王妃の独断です。……いや、もちろんリコリスが関与していることも多いのですが……王はこれでも王女二人を平等にするようにと伝えていた。伝えていただけですが。本来ならばその後のことを聞くべき知るべきであった。ちゃんと指示がいきわたっているのかどうか。だがそれすらしていなかった。

王妃はフリージア様のことを嫌うあまりにヴィオラには理不尽な対応をしていた。それは王宮の中で働くすべての者まで感化するほどだった。ヴィオラは王宮内で生きづらかったと思います。

本来なら私も手を回すべきだった。

ただ私自身も王妃から平民の娘に王が手を付け、市井で育った娘と聞いていたためあまり接触してこなかった。調べることはいくらでもできたであろうに、調べることすらしなかった。私の咎でもあります」


「王太子がいくら言葉を尽くしてももう私たちの気持ちも……今更どうすることもできないでしょう」

 バンパー王妃が表情も変えずに行ったと同時に、部屋の扉が大きく開く。

 式典の時に必ず見ることのできるバンパーの宰相が顔をのぞかせる。


「ご会談のところ申し訳ありません。開式の時間をだいぶん過ぎました。話の途中になってしまうでしょうが、また後からにしていただき、まずは会場へと場所を移していただく必要があります」

 表情を何一つ表に出すことなくバンパーの宰相が扉を開けて早く部屋を出るようにとしぐさで表す。

 宰相から騎士へと扉を押す人が変わると両国の王と王妃4人が立ち上がる。

「話はあとからにしたほうがよいようだ」

 バンパー王が部屋にいる人々へ伝えて、客人であるバンゲイの王、王妃、兄、リコリスと続く。


 ヴィオラは後からこっそり式場へ行こうか、それともリコリス王女に続いたほうがいいのか悩んだが、リコリスが部屋を出るとすぐに皇太子が手を差し伸べた。

「私にエスコートをさせていただきたい」

 ヴィオラは一瞬悩んで、断るのは不敬に当たると判断する。それより物語のお姫様のように素敵な王子様からの申し出を断るのはできなかった。

「喜んで」

 ヴィオラは皇太子に微笑んだ。

 微笑むヴィオラをちょうど後ろを振り向いたリコリス王女が睨んだ。



いつもお読みいただきありがとうございます。

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