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王妃の言葉

「あなたは……あなたは何ということを言われるのでしょうか。本当に話になりませんわ。やはり、このことに関しては私たちの希望通りにすべきです」

 アークライト皇太子が頷きながらバンゲイ国王を見る。

「バンゲイ国の王と王妃へ私からも話があります。これは相談ではありません。決定事項としての話になります。

ヴィオラ王女の母上フリージア様は間違いなく我が国のアニック伯爵家の令嬢であり、現在ヴィオラ王女の伯父上が家督を継いでおられます。

アニック伯爵へはヴィオラ王女の現状を余すところなく伝えています。8歳で王に引き取られるまで市井で暮らしていたこと。王城に引き取られたとはいえ、小さな離宮で一人で住み、ドレスすらもまともに用意されることなく、姉王女の着たものをそのまま渡されヴィオラ王女自身や侍女で作り直してきていたと。微細に渡り話はしています。

その上でヴィオラ王女さえ良ければであるがアニック伯爵から養女として引き取りたいとの連絡がありました。わたしもそれがヴィオラ王女の幸せだと思っています」


 話はヴィオラ抜きで進んでいるが、皆が思うほどその生活は悲しいものではなかった。

 貧乏とかそういうのは平気だった。

 ヴィオラは姉から数枚のドレスをもらったときも、実は本当にうれしかった。リコリス王女のドレスは綺麗なものばかりでそれまで見たことがないほど素晴らしいものだったから。


 それに城の離宮で済むように言われた時も、ほぼ一人っきりの生活がさみしくてたまらないもののお金の心配がいらないことは本当にありがたいとも思っていた。

 ただ、ドレスに関しては成長するにつれ、ヴィオラがリコリスの身長を越したあたりから2人の細さは変わらないものの、豊満な胸を持つリコリスに比べて大きさが標準サイズのヴィオラにとって、ドレスの丈や胸囲をかなり詰めなければならないなど問題も出てきた。


 その問題もビオエラが来たことで解消した。ビオエラはリフォームが上手だった。リコリスからもらうドレスもビオエラがリフォームしやすく胸が詰めやすいものを選んでくるようになった。ドレスの数は多くは持ってはいなかったが、繰り返し着ていた。

 王族でありながら周りの貴族令嬢よりドレスを持っていないことを哀れんだり蔑まれることもあったがヴィオラは平気だった。だってしょうがないから。


 悲しかったのは母がいなかったから。

 してもいないことで人からそしりを受けたり、リコリス王女に嫌がらせをする妹として周囲から冷たい視線を受けていたから。

 リコリス王女に嫌がらせなどしたことないといくら言っても聞いてくれる人などいなかった。

 どこにも誰も味方はいなかった。

 ビオエラが現れるまで。

 ただ、早くこのバンゲイという場所から抜け出したいと思っていた。


 バンゲイ王が身を乗り出す。

「お待ちください。養女などと。ヴィオラは王女ですよ」

 アークライト皇太子がバンゲイ国王に再び顔を向ける。

「私はヴィオラ様が王女であることが必須とは思っていない。私の婚約者ということであれば、隣の国の王女であろうと我が国の伯爵令嬢であろうと一緒です」


 突然の展開についていけなかったヴィオラも意味が分からず口をはさむ。

「はい? 婚約者って何のことでしょうか? リコリス王女が皇太子殿下の婚約者候補のはずですよね」

 ずっと話の展開を見ていたリコリスも口をはさむ。

「そうですわ。わたくしが婚約者であるほうが当たり前のことです」

「そうです。リコリスは生まれた時からの王女。生まれ持った気品が違います。気品だけではありません。優雅さもですわ。誰よりも人の上に立つべきものを持っております。そのように育てたのですわ」

 リコリスと王妃が王族としての気品を忘れたかの如く身を乗り出す。


「王妃となるために王族であることが必要ではないのですよ。王妃となるためにはほかの国の王族とも忌憚ない意見を話すだけではなく舐められないように自分の国のことをよく知る必要がある。それだけではなくほかの国のことも一通りの知識も必要になるし、言葉も数か国語を話せる必要性がある。マナーやダンスができるのは必須だ。それ以上に必要となるものも多い。学園でいい成績をとるのは最低限必要なことだ。リコリス殿は学園での成績は決して良くはない。しかも周囲からの評価も良いものとは言えない。

ヴィオラ王女はトップの成績であり、生徒講師陣からもかなり評価が高い。話していても分かるように機知に富む。

だが問題はそれ以前の話となる。私はヴィオラ王女が留学される前から婚姻を申し込んでいた。申し込みの文書を送りバンゲイからの返答を待っていた。その返答がリコリス王女の留学とその付き添いとしてのヴィオラ王女だった。ヴィオラ王女のために用意した離宮にはリコリス王女が住み、平民とほぼ同じ待遇でヴィオラ王女が寮へ行った」


「それだけではないわ。私は将来の娘となるヴィオラ王女と話をしたかったのです。親交を深めたかったのです。だから茶会の招待状を送ったのよ、ヴィオラ王女へと。なのに当日リコリス王女が来られたわ、婚約者候補として。誰が招待状をリコリス王女へ渡したの? 誰がリコリス王女を婚約者候補としたの?」


「お待ちください。申し出はありがたいですがヴィオラは平民の子ですわ。リコリスが皇太子殿下の婚約者となり妃になることが誰の目にうつったとしてもおかしいはなしではありません。そうでしょう。だってリコリスは正式な王女なのです。誰からも大切にされているわ。誰よりも可愛らしいといわれてきたわ。誰よりも王女たれと育ててまいりましたのよ。

対してヴィオラは今まで育ってきた環境は市井で育ち、極貧すらも経験している。そのようなものを王妃にできるわけがないではありませんか。

リコリスは貴族との付き合い方もよく分かっておりますわ。これ以上の良縁はございません」


「……まあ、何と言ったらいいのでしょうか。……良縁かどうかを決めるのは迎え入れるわたくしたちのほうですわ。……リコリス王女は王女たれと育てられたということは十分に分かりましたわ。ですがわたくしたちにとっては王女たれと育てられたから皇太子妃になれるというものでもありませんわ」

興奮したバンゲイ王妃に バンパー王妃がため息をつく。



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