いいわけ
顔色の変わった王はちらりとヴィオラを見る。
「私としてはそのようなつもりではなかったのですが。やはり……これ以上の込み入った話は別の部屋がよろしいでしょう」
「ならば場所を移しましょう」
後ろを振り向いたアークライト皇太子は続きの部屋に両国の王と王妃を通すように侍従に命じた。
促され部屋に通されると両国の王と王妃がソファに腰かけたところだった。
アークライト皇太子からエスコートされて皇太子殿下の横に座ることになる。
「先ほどの話ですがバンゲイ国では王妃だけでなく王も本気でそう思われているのか。ヴィオラ王女の母君が出自の分からぬ者と」
「……いや、そうは思ってはいないのだが……。時代だったのだ。詳しい話をヴィオラに言うわけにはいかず。
ヴィオラの母が我が国に来た時は戦争直前だった。ヴィオラを出産した直後に戦争がはじまり、敵国の貴族が王宮にいることは避けたほうがいいと、出自が分からぬということで市井に隠し過ごしていたのだ」
アークライト皇太子はバンゲイ国王の言葉を聞くとあからさまに息を吐いた、
「なぜ、バンゲイ国王がそのようにいわれる。市井で過ごしていたのではなく、あなたがそうさせたのでしょう。隣国からやってきた貴族令嬢が出産後すぐに市井に放り出されて大変だったはずだ。ましてや、敵国の貴族令嬢であればどんなに辛かっただろうか。
しかも母親の死後王宮に引き取られてからも、ヴィオラ王女は素性の分からぬ女性が母親だと王妃や姉君から言われて……」
言葉の途中でバンゲイ王妃が目を見開く。
「わたくしは市井で過ごすほどの身分低い女ということで素性分からぬという言葉を使っていたのです」
「……市井で過ごしていたのは本当ですが、十分に金銭を送っておりました」
言葉を続けるバンゲイ国の王と王妃に冷たい視線を向けたのはバンパーの王妃だった。
「本当ですの? 私が送った間者からは金銭は何一つ送られていないという話でしたわ。住むところだけは小さな小さな平民が住むには小ぎれいに見える小さな家だったそうだけれど、内職をずっとしていて亡くなる直前は食べるものすらまともになかったと。
フリージアがバンパーから持ってきたドレスや宝石、ヴィオラ王女が持っている服やらなにやら少しずつ売って過ごしていたそうだわ。
……こんなことなら結婚を反対するべきだったと、わたくしは何ということをしてしまったのかと話を聞くたびに本当に辛くて」
ハンカチで涙を拭いたバンパーの王妃はもう一度正面に座る二人をにらむ。
「ヴィオラ王女の母は出自が分からぬものではなく我が国の伯爵令嬢でした。わたくしが王妃になったばかりの頃行儀見習いの侍女として1年ほど王宮に勤めていたのです。そして隣国訪問をしたときにわたくしに付いてきてくれたのですわ。そしてバンゲイ国王の目にとまってしまったのです」
立ち上がったバンパー王妃がヴィオラの手をやんわりの握り微笑む。
「そしてをヴィオラ王女を産んだのよ。でもすぐに戦争が始まった。敵国の人間、しかもフリージアの伯爵家は有名な武の家。出自を隠す必要もあったのでしょう。平民だということにしたらしいのよ。
でも平民ではないわ。なぜ、戦争が終わってからちゃんとしてあげなかったのかしら。身分を明らかにしてあげなかったのか理解に苦しみますわ。
今現在に至ってすら、ヴィオラ王女がドレスも飾りすらもまともに買うことができない状況にまで追い詰めることができるなんて、わたくしには信じられないわ」
「フリージアに関しては一度平民としたからには改めて元々は貴族であったと言うわけにもいかず、またすぐになくなってしまったのでいう必要もないかと。ヴィオラに関しても一言も弱音を吐かなかったので分からないままで」
王が流れる汗を拭く。
「それは言い訳ではありませんの?
ヴィオラ王女にすらフリージアが元はバンパーの伯爵令嬢であったと言っていないではないですか。あなたがたの言っているのことは矛盾だらけだわ。これほどバンパーを馬鹿にして、どう思っているのか説明してもらわないと」
「いえ、バンパー王妃。お聞きください。フリージアには余裕のある生活を送ることができるよう金銭も十分に渡していました。侍従に言いつけておりました。けして内職をする必要などないはず。苦しい生活を思っていたなど、そんなことがあるはずは」
その時、扉が大きくダンという音を立てて開いた。
「お話し中、失礼します」
いつもお読みいただきありがとうございます。




