会場
会場の中に入る。
「ビオエラ様はこちらです」
侍女のうちの一人がビオエラを連れてどこかへ行ってしまった。
「ヴィオラ様はこちらへどうぞ」
会場となるホールの中は咲き乱れた花々が柱に沿って所狭しと飾ってあった。
大きな花瓶から背の高さほどの花や樹木が豪華に飾られている。
花瓶の花があれだけ豪華で華やかで大きかったら体全体陰に隠れられるし、ずっと隠れていたとしても来ているのだしパーティーには出席したことになるわね、とヴィオラは微笑む。
「案内はここの辺りまでで十分です。わたくしは一人で大丈夫ですので」
普段と違い貴族らしく、いや王族らしく笑顔を張り付け扇を手に持ち立ち止まる。
「そちらではございません。こちらへどうぞ」
向けられた手の先はかなり上座のほうで。しかも着飾ったドレスの貴婦人や紳士で包囲されてしまっている。そこは高位貴族の人や王族の方ばかりなのではないでしょうか、ヴィオラは内心呟く。
「そこには行きたくないのです」
というか誰も私を呼んでいません、小さく聞こえるか聞こえないぐらいの小声でつぶやく。
その場所には行きたくない、その気持ちが大きくなって止めようと思ったわけでもないのに足がぴたりと止まってしまう。
「探しましたよ、ヴィオラ王女。君のいるべき場所へ連れて行きましょう。それから、これまで行き違いがかなりありましたが、やっと解決しそうだから今から君に詳細を説明させていただきたい」
見るからに上機嫌なアークライト皇太子が有無を言わさぬ様子で手のひらを差し出す。エスコートされるのだろうか?
青銀の見るからに豪華な正装。端を金色で縁取られ、歩くだけでため息が漏れるほど素敵だ。周囲にいた令嬢も貴族も皇太子の姿に目を見張る。
細身で背が高いのに筋肉がついているからかっちりとして見える。
見栄えのする人は兄で見慣れているはずなのに、皇太子は兄よりさらに頭半分背が高くすっきりとしている。
白銀のさらりと長い髪を一つに結び、紫の瞳が会場の明かりに照らされてキラリと光る。まるで芸術品じゃない、と内心ヴィオラは感嘆する。
「本日はバンゲイ国王、王妃のため盛大な宴を催していただきありがとうございます。両親に変わりまして感謝申し上げます」
人がたくさんいるところへは行きたくないという意思を示そうとするも、アークライトの手は差し出されたままでヴィオラはもぞもぞと手のひらを差し出した。
「ヴィオラ王女の父上、そして王妃も来られています」
「……リコリス王女はどうされていらっしゃいますか?」
「来ている、が心配いらない」
「心配? とは」
微笑むアークライト皇太子は答えることなくヴィオラをエスコートする。
手を引かれて連れて行くうちに、あっという間にバンゲイ国の王と王妃の近くまでついてしまう。
その近くにバンパー国の王と王妃の姿も見える。
「父上、こちらがヴィオラ王女です」




