ビオリラの水色のドレス
ヴィオラは歓迎式典、歓迎の宴と夜会が終わったら王女としての出番は終わりだと思っている。バンゲイ国にさよなら、そしてスードリーの平民に、そして官僚となる。
兄からもドレスは2枚、ドレスとセットの靴と髪飾り首飾りほかにもドレスに合わせたレースのグローブと白いシルクのグローブ等コルセットに下着までたくさん送られていた。
アリストロ殿下と話した日、寮に帰ってくるとドレスやそのほかの飾りがたくさん部屋に届いていた。アリストロ殿下にはドレスはもらえないと固辞したし、その日すぐにドレスが用意できるなんてことはないから今度こそ兄からの贈り物だろう。
目の前ではビオエラが首を傾げていた。
「どうして? なぜ?」
私は侍女だから関係ないでしょうに、と不思議そうにビオエラがつぶやいていた。
実はヴィオラのドレスと一緒にビオエラのドレスも送られてきたのだ。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる女性らしい体形で優しくて賢そうな雰囲気のビオエラにぴったりの水色というより薄い青といったほうがよさそうなプリンセスラインのドレスだ。見るだけでビオエラに似合うのがわかる優しいドレスになぜかビオエラよりもヴィオラが興奮してしまった。
「そのドレス、ビオエラに似合うわ。着たら誰よりも貴婦人みたいになるわ」
「ヴィオラ様! 私はどうでもいいのですよ」
「なんだか楽しみになってきたわ」
「……もうヴィオラ様は…私が似合うわけないじゃないですか」
「ビオエラよりきれいな人なんて今まで見たことないもの。ドレスを着たらどんなに綺麗になるのか楽しみだわ。自慢しちゃうわね、わたくしのお姉さまみたいな人よって」
「ヴィオラ様ありがとうございます。似合うか似合わないかは別にしてヴィオラ様からそう言っていただけることはとても嬉しいです」
ビオリラが顔を俯けてにやりと笑う。
「わくわくするわね。パーティーでこんなにワクワクするの初めてよ」
ビオリラのドレスを見た瞬間、それまで地味に目立たないように壁の花を決め込もうと思い、いきたくない気持ち満載だったのがビオエラと一緒にパーティに行けると思っただけで、かなり気分が上向きになったのは本当だ。
実は送られてきたドレスを見てヴィオラは内心パーティに参加することをためらう気持ちが大きく出てきてしまった。形とかではないドレスの色が気分を落ち込ませる原因だ。
兄が用意しただろうドレスは2着とも本当に手の込んだ目を見張るほど素敵なものだったが、2着ともアークライト皇太子殿下を思わせる白と白銀のドレス、宝石は皇太子さまの瞳と同じ紫だった。
ヴィオラだってこれほど綺麗なドレスならば何の問題もなく着てみたい。だが、この色のドレスや宝石を見たらリコリス王女がどう思うかとどんより憂鬱になってしまう。
皇太子殿下からいただいたものも、兄から贈ってもらったものも、なぜだろう。まるで皇太子殿下を現したようなものばかりだ。
だが他にドレスも持っていないから皇太子さまとリコリス王女2人からできるだけ離れて目立たないよう壁際近くから離れず、ずっと壁の花を決め込むつもりだ。誰からも見られることのないように、静かに目立たないように息をひそめて。
もしもの時は柱や花に隠れるのもいいだろう。
「ともかくヴィオラ様をきれいにドレスアップし終わったら私のドレスは意外と簡単な感じでしたからパパパッと着てしまいますわ」
ビオリラは腕が鳴るわとヴィオラのドレスを確かめていた。
「ビオリラのドレスはわたくしが手伝うわ。たまには違う立場に立ってみるのも楽しいわよね。ビオリラのお化粧もお手伝いさせてちょうだい。わたくし休みの日は自分の化粧は自分でしているからある程度腕は確かよ」
歓迎式典当日。
式典は午後2時からというのに朝7位には寮のドアをたたく音がして、扉を開けるとよく王宮からの届け物をしてくれる少し年配の女官が立っていた。
王宮からヴィオラへの使者は必ずこの女性だ。
王宮から訪れる女官といえば、リコリス王女には若い侍女たちが数人で訪れているのを何度も見ている。
だがヴィオラには必ずこの人がやってくるのだ。
なぜか文官の雰囲気すら感じる硬い雰囲気のこの人が。
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