パレードと噂
隣国バンゲイの王様と王妃様がやってきた、と下町では評判だ。
ノートとインクを買い出しに行ったときに商店の奥さんからの情報だ。
「隣の国の王様とお后様らしいよ。でもね、残念なことにパレードはないらしい。パレードしてほしいもんよ。私パレードが好きなの。お祭りって感じになるじゃない。あれが大好きでね。しかも売り上げもすごいし、なんていえばいいか…ボッタク……値上げしても売れるしね」
ワハハと豪快に奥さんは笑った。
「なんでもお姫様をこの国に留学させているらしくて、うちの皇太子さまの婚約者になられるのじゃないかと大方の噂らしいよ。しかも婚約者になったらあと数か月で結婚式もあるらしいし。もうこの噂話で花盛りよ、皆」
結婚式。
アークライト皇太子殿下とリコリス王女が結婚される。
その噂は思ったよりヴィオラの顔をこわばらせるには十分だった。
「結婚式ですか。早いですね婚約してすぐに結婚なんて」
無理やり笑顔を作る。
リコリス王女が婚約者候補であることは知っていたけれど、婚約者になり、すぐに結婚とは。何も聞いていない。何の情報もない。結婚まで数か月というのは急すぎるから1年くらいは時間を空けるのだろうけれど、ここまで噂になるくらいだから本当の情報も混ざっているだろう。
全く何も聞いていないということは、姉妹だけどヴィオラのことを姉妹とは思ってはいないのだろうリコリス 王女は。
ああ、そういえばと思いだす。近頃リコリス王女を避けているのは私のほうだと。
自分だってリコリス王女のことを姉とは思っていないからお互い様だろうけれど。
「本当だよ。皇太子殿下直々に指示があっているらしいのさ。お好きでいらっしゃるってさ、そのお姫様の事。なんだか楽しみだねえ、パレード。パレードは間違いなくあるね。しかも豪華絢爛。私もその時は花束いっぱいに用意しようと思ってるよ。家にだって飾れるし、家の前にもたくさん花を用意する必要もあるし。商売のための花もたくさん必要だろうしね。ほかに何か商売になるようなものってないもんかな……1週間、いや1か月はお祝いの期間になるね。いや、それ以上だね。楽しみよ。
商売になるもの。あやかって王子様人形とかお姫様人形とか作ってみるかな。不敬とか言われるかもね。なら、どうしたものか。何が商売になるかね。
私もお祝い期間中のワンピースでも新調しようかな、2枚くらい」
奥さんはスカートの両端をつまむとくるりと上手に一回転した。
そういえば王都全体が華やいでいる。
隣の国の王と王妃が訪れた、それだけではない足元から這い上がってくるような浮足立った喜びの雰囲気だ。
「本当に楽しみですね」




