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アリストロ殿下の言葉

「そうですか。合格ですか。それは嬉しいですわね。なら、合格の知らせがあったら早めに住む場所を決めなければいけませんね。それと アリストロ殿下の国から妃にと申し出があったようですが、私は平民として官僚になりたいと思い試験を受けたのです。ですので」

 柔らかなアリストロ殿下の笑みが一瞬にして真面目なものに変わる。


「官僚になるということは国を支えたいという思いがなければできるものではない。……妃となると国を支えるだけでなく国の代表として見られることとなる。

君の姉上を婚約者候補としているバンパーは我が国スードリーやバンゲイと違い巨大だ。リコリス殿がほかの国の言葉をまともに話せずとも歴史をきちんと理解してなかろうと地理すらはっきりわかっていないのであろうと、側近や周囲がどうにでもできるのだろう。でなければ君の姉上を婚約者とはしない。少なくとも私はしない。

私の国は観光が中心だ。歴史ある建物が随所にある。観光名所、そしてその周辺の宿泊所、レストランそういったものが産業の中心となっている。もちろん農業も大きいが歴史的遺物が私の国は多いからね。私たちスードリーの王族は見栄えだけでなく、ここぞというときの言動が見られることも多い。国民に対しても対応も間違うわけにはいかない。毎日が勝負だ。ちょっとした会話から様々な情報を引き出す必要もある。その逆もしかり。

こういってはなんだがほかの国の言語ができず、歴史地理にも疎い、計算すらまともにできず、人の言葉の裏も読み取ることができないそんな妃を私は必要とはしていない。

……すまない。いいすぎたようだ。リコリス王女も見栄えはいい。可愛らしく無邪気だ。マナーもよく、ダンスも上手だ。ヴィオラ王女ほど見栄えはよくはないが。無邪気さで人を傷つけることすら無意識の行為として行っている。一貴族や平民ならばそれでもいいだろう。だが王族は違う。たった一言で人々の運命が変わる。一人を簡単に弑することすらできる。それを理解できないものが王や王妃となるべきでない。私はそう思っている」

 

 真っすぐな視線がヴィオラを射抜く。

「私はヴィオラ王女ならば私と一緒に国を導くことができると思い申し出たのだ。君は純粋で素直だ。向上心もあり精神的に強い所がある、もちろん弱いところもあるが。逆境もどうにかしようとあがく努力をする」

「見栄えを言うならリコリス王女はお綺麗ですわ、天使のように。誰もがそう言います。王女として誰にでも誇ることができるようにと育てられた純粋で汚いものを見たことがない心身共に綺麗な人です」

「汚いものが見たことがないからと言って自分の欲望のままにふるまうことが綺麗とは私は思えない」


 アリストロ殿下は真剣な表情をふっとほころばせた。

「バンゲイ国王歓迎会に私も呼ばれています。許していただければ私からヴィオラ王女にドレスを送りたいのですが。そして一緒に歓迎会には出ましょう。夜会はその次の日だったはず。頑張って歓迎会に出たら夜会は体調が悪くなったと言わばいい。ドレスは一枚と言わず何枚か用意することにします」

「ドレスは……。ドレスは兄に頼んでいるで大丈夫です」

「ドレスは何枚あっても困らないから贈らせて欲しい。そして妃の件は前向きに考えてほしいのです」

「……妃よりも役人希望なのです」


「このまま話していても堂々巡りだな」

 長い時間二人っきりでいるのはよくない、また今度きちんと話そうとアリストロ殿下は微笑み去っていった。

 ドレスを送られたら困る。一緒に出席しなければいけなくなってしまう。

 すでにドレスはアークライト皇太子殿下から贈られている。

 これ以上悩み事は増やしたくない。

 

 それに妃とか考えていない。平民希望なのだ。

 妃になれば責任だけではない。もし離縁や謀反など起こればどうしたらいいのか、場合によっては国同士のことではあるし修道院への道ならまだいいほうだ。

 そういうのは望んでいない。平凡な幸せを望んでいるのだ。

 アリストロ殿下とは一度きちんと話す必要ありだなとヴィオラは思いながら立ち上がり、教室へと向かうことにした。



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