ドレスだけじゃない。小物もある。
あれからヴィオラの父と義母である王様と王妃様が訪問される日程まで一か月と言いながら、ヴィオラ自身はスードリーの官僚試験や面接など隣の国まで行ったりきたりとあっと今に過ぎていった。
そして、いつの間にかバンゲイの訪問団が来るまであと２日となった。
王や王妃が到着したら、ヴィオラが王女である以上は夜会やらなにやらでパーティに参加する必要があるようだけれども、参加するためには様々なお金がかかる。
ドレスは皇太子殿下からいただいた。なぜ皇太子殿下はドレスをくれたのか、理由は聞くことができず分からない。
出会う機会は何度もあり、そのたびごとに理由を聞こうとしたけれど何故か口を開いては違うことを話してしまい、聞くことができずにいる。多分聞いたら教えてくれると思う。
「ヴィオラ王女は私に何か言いたいことがあるのでしょう。いつも訴えるように私を見上げてくるから」
いつも皇太子殿下はそう言って爽やかに笑ってくれるけれど。
パーティの参加費は必要なくとも身に着ける小道具（扇等）やらなにやらとこまごまとしたものを購入する必要がある。なのにお金はないし、参加する気も起きない上に官僚試験後はすることもなくぼんやりと過ごしている。
ただ離宮に来るようにと再三の呼び出しは姉のリコリス王女からきている。でももう隣の国スードリーで平民としていく準備もできているので呼び出しに応じることもない。
今日も朝からリコリス王女の侍女が訪問要請に来ていたようだが、あまりにしつこいので寮の門番の人に体調の悪化ということで断ってもらうようにお願いしている。
「ビオリラ、ごめんなさいね。いつも断りの言葉を言ってもらって」
申し訳ないのはビオリラに対して。いつもビオリラが断りの言葉を言ってくれているから。
「大丈夫ですよ。ヴィオラ様。ヴィオラ様のお気持ちは誰よりも分かっております。ちょっと聞きましたがリコリス王女のご機嫌も相当悪いみたいで、今ヴィオラ様がお会いしたらどんな目に合わされてしまうのか分かったものではありません」
学園にだけは体調悪いといいながらも皆勤賞ねらいで行ってはいるが、朝と放課後は臥せっていますと言ってもらっている。多分仮病であることは薄々分かっているだろうけれど、リコリス王女関係者に出会ってしまっては離宮訪問を言われるだろう。もう嫌になってくる。
「そうよね。なんだか怖いわ」
リコリス王女のことも問題だが、王室主催のパーティーも問題だ。
出たくないという気持ちがいくら強くても何回か開かれる歓迎パーティーや夜会、宴などのうち１回は出席しなければいけないだろうとも思う。王様や王妃様の体面というのもあるだろう。自国の娘である王女が一度も出席しないのは外聞も悪いだろう。
それもあって兄に手紙を出した。ドレスや髪飾りなどはなんとかできるから扇など小物を用意できないだろうかと。
兄からは歓迎式典前日までには必ず到着するよう用意すると連絡はあった。
ケープ、扇、手袋などドレス以外でも必要なものは多い。その小物が意外とお金がかかる。
「この手袋はどうかしら」
手の大きさからして違うけれど、捨てるのはもったいないのでとっているのが数枚ある。
「見ただけで分かります。小さすぎます。それにドレスに合いません」
扇も昔使ったものがあるが、今のドレスとは色も雰囲気も違う。子供と大人との違いくらいには物が違う。
「無理かしら」
「無理ですね。誰が見ても分かります。手袋は問題外、扇は違和感たっぷりです。ケープは色が合いません」
「そうよね」
二人でため息を大きく吐いた。
兄からの小物類は届いていない。歓迎式典は明後日。もし来なかったら、どうしたらいいだろう。兄は約束を違えない、というか違えたことがない。兄はリコリス王女のような訳のわからない行動は絶対にしない。だから大丈夫ではあろうけれど、もしもの時のことを考えてしまう。
歓迎の宴であるとか、夜会とかそういったものにどうやったら欠席できるのか本気で悩んでいる。
少しずつおなかのシクシクした痛みが大きくなっている気がする。
