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紫の瞳

「ええっと、以前いただいた紫の素晴らしいドレスのことでしょうかしら」

「紫、といえば前贈ったものです。それも着てほしいけれど、今回贈った青に紫の刺繍の入ったドレスと紫に金と銀の刺繍の入ったドレス、それにワンピースを数枚」


 ええええ…あれって。

「……ええっ…と。……お兄様からだとばかり思っていて」

「クロフト王太子殿下ではなく私からです。ドレスを渡すときに名乗る必要はないと配下に言っていたから誤解されてしまったようですね。実は今までもヴィオラ王女にドレスなどを贈っていたけれど何故かあなたの所へ到着するまでに途中で紛失するのですよ」

「紛失?」

「そう。紛失しているのです。まあ、原因も全て分かっているから、それに関してはヴィオラ王女は気にしなくていいでしょう。それより送ったドレスは気に入ってくれましたか」

 ふわりと皇太子殿下が笑う。


「とても素敵でした。とてもきれいすぎて着るのがもったいないくらい」

「もったいなくないですよ。君にとても似合うと思って作らせたものだから」

 覗き込まれた時に見える紫の瞳がなぜか懐かしくてヴィオラは頬が熱くなるのを感じた。


 初めて出会ってしまった。会えば会うほど目を離すことができないくらい気になる人。なぜか懐かしさすら感じる人。多分それが好きという気持ちに繋がっていったのだろう。

 そして手元にある紫のドレス。好きになったその人自身を現したかのようなドレス。おさがりでも何でもない自分だけの宝物。

 つらいことがあった時はドレスを収められている箱を見るだけで気分が浮上した。

 赤くなった頬を隠すようにヴィオラは俯いた。


 だからこそ、この国にはいられない。

 リコリス王女の隣に立つアークライト殿下を見るのが怖いから。

 あの暖かな優しい瞳でリコリス王女に笑いかけるその人を見るのが怖いから。

 初めて異性を好きになって、初めて異性と並んで歩いた。初めて優しい笑顔を向けられて、初めてヴィオラの笑顔を誉められて、初めてドレスをいただいて、初めて胸がときめいた。初めてがたくさんすぎてヴィオラは少しずつ怖くなってしまった。


 一緒に歩いていくことはできない。そんなことは説明されなくても分かっている。

 それでも夢を見てしまいそうになる。

 アメジストにも似た輝くドレスを着た自分自身を思い浮かべてしまうから。皇太子殿下から微笑みかけられる自分を思い浮かべてしまうから、優しく自分だけを見てくれるその人を。

 思いがけず何度も、隣で話をしながら散歩してしまったから。

 アークライト殿下が皇太子殿下でなければ、ほんの少しでも夢は見られたのだろうか。

 俯いてしまったヴィオラの姿がアークライトの紫の瞳に映っていた。

 

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