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アークライト皇太子殿下と紫のドレス

 兄が帰国したという噂がヴィオラの耳に届いたころから、頻繁にアークライト皇太子殿下と出会うようになった。

 以前はたまに出会うことがある、くらいだったのが突然1日に一回は出会うようになった。

 出会うのはいつも散歩のときなど。

 忙しい皇太子殿下がなぜ学園近くを歩いているのか不思議だが、後ろには侍従と警護の騎士を連れて。不思議と思いつつ話しかけられて恐れ多いと思いつつ散歩を一緒にさせてもらう。


「こちらには綺麗な花園があるんだよ」

 などと言いながら王宮の奥深くにあるバラの花園や王族専用の図書館などに連れて行ってもらったりするのだ。

 運がいい、と思いつつ本来なら見られない場所を何か所も案内してもらっている。

 普段から「氷の貴公子」と言われている皇太子殿下。紫の瞳から冷え切った鋭い視線が放たれるなど言われているが、ヴィオラと出会うときは政務の時とは全く違う時間だからだろう、春の陽だまりのように温かい視線に変わるのだ。


 話せば話すほど優しい穏やかな人、という印象を受ける。

「ヴィオラ王女に先日送ったドレスは気に入ってもらえたかな」

 低いバリトンの声が耳に心地いい。ん?

「ドレス? ん……?」

 贈られたドレスとは? 頭の片隅にいつも存在しているドレスを思いつく。以前リコリス王女にドレスを贈られた時に「一緒にヴィオラ王女の分も贈っていただいたようですよ」とリコリス王女の侍女からドレスを渡されたことを。

 皇太子殿下は優しすぎてリコリス王女にドレスを送る時に、妹のヴィオラにまでパーティー用のドレスを用意してくれたりもする配慮の塊のような人だ、とその時は感動してしまった。


 学園でドレスが必要なパーティーは年に2回ある。ヴィオラは参加するつもりはない。だからドレスは必要としてはいない。

 その時、皇太子殿下が用意してくれたドレスはたまたま王妃様が催された貴族の子弟向けパーティーの時に届けられたものだ。

 多分婚約者候補である姉リコリス王女のドレスの用意のついでに妹の分まで用意してくれたのだろうけれど、着るのは難しいと思った。紫のグラデーションに紫の刺繍を裾に近づくにつれ豪華に精緻に入れてあるドレスで、髪飾り類も金にアメジストとダイヤを配置した豪華なものだった。近づけば近づくほど豪華さと華やかさが増すタイプのドレスだった。


 もらった時、ドレスを見てヴィオラは息をのんでしまった、その美しさに。キラキラ輝いていて煌びやかな舞踏会ならば、どんなに素敵だろうと涙が出そうになった。

 何度も何度もキラキラしたドレスを見てため息をついて、そして諦めた。

 ビオリラと相談をして、もらったことはありがたかったがドレスを身に着けることは諦めたのだ。まるで皇太子殿下の目の色や髪の色を現したドレスのようだったから。

 婚約者候補のリコリス王女がどう思うのだろうか、と。

 せっかくの皇太子殿下の優しさと配慮を気分の悪いものに変えてしまうかもしれないから。


 だからもらったその日のうちにクローゼットの奥に隠している。見つかったら何と言われるだろうか。

 多分着ることはできない。リコリス王女がいる限りは。

 もちろん感謝の手紙は返した。素晴らしいドレスをありがとうございます。あまりのすばらしさに見惚れてしまいました。ですが王妃殿下のお茶会には参加できませんので、次回機会がありましたら着用することをお許しください、と。


 着用することはできない。ヴィオラが今まで見たことがないほど素晴らしすぎるドレスだけど。

ヴィオラの宝物だ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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