煌びやかなパーティ
役人になる。そうなればヴィオラの背景ではなくヴィオラ個人の仕事ぶりでヴィオラを見てくれるだろう。
妃とか王妃とかそんなものに興味はなかった。
「ヴィオラはドレスを持たなかったな。今はともかくドレスを何着か急ぎで作る。採寸も必要だろうから人を送るから待っていろ。リコリスの侍女ではなく私の手の物だから大丈夫だ」
「……別にリコリス王女の侍女でも大丈夫ですわよ」
「まあ、気にするな。お前たちがバンパーに来てからの状態もある程度は分かっていた。私の諜報員はどこにでも潜り込んでいるからな。ただ調べは甘かったようだ。思った以上だったからな」
「……そうですか」
「まあ諜報員は私だけでなく、この国の皇太子ももっと様々な場所に潜り込ませているようだ」
「そうなんですの」
「ああ。王室、特に王や王太子の諜報員はシャレにならんさ、どこの国も」
「そう……ですの」
なら先日の蝶の髪飾りの真相を皇太子殿下は知っていらっしゃるだろうか。そう思いもしたが、あの時その場にいたのはリコリス王女の取り巻きばかりだった。
さっき言った通り平民として役人になるというのに今更ドレスを作ってどうなるのだろう。ドレスを置く場所すらないのに。
それに兄は分かっていないだろうけれど、パーティーに出るということはドレスだけではなく靴も髪飾りも首飾りも必要になる。準備も大変だ。もういいのに。そういうのは私にはもう似合わない。
「ドレスとかもう、いいですのに」
呟いた声は兄には届いてはいなかった。
隣国の王太子。しかも端正な美貌で有名な婚約者がいない王太子の主賓のパーティー。
というだけあってかなり華やからしい。
自国の皆の憧れ、怜悧な美貌で冷ややかな雰囲気の皇太子殿下も婚約者候補は数人いらっしゃるものの人気が高いため、隣国の王太子という相乗効果で女性及び令嬢の参加者はかなり多いはずだ。
ヴィオラは出席することもないけれども、人々の笑いさざめく声やオーケストラの音がヴィオラのいる寮にまでかすかに響いてくる。令嬢のドレスの華やかさ煌びやかさを想像してしまうと、うらやましいとは思わないけれど、……ちょっとうらやましいかも。
どれだけ華やかなのだろう。
皇太子殿下はかなり素敵だ。白銀の髪にアメジストにも似た紫の瞳。手足が長くて細身なのにしっかりした体格なのは騎士と同様に鍛え上げられているから。
物語の中の王子様ってこんな人を言うんだと初めて見たときヴィオラだって思った。
でもリコリス王女の婚約者だ、婚約者候補だけれど。候補が消えるのはすぐだとリコリス王女は言っていた。卒業と同時に候補が消えると。
名実ともに皇太子妃だ。
そうなる前に平民となりたいとヴィオラは思っている。
そうなれば結婚式も宴も名実ともに出席はできない。
平民が式に出るとかありえないから。
その日、夜が更けた深夜近くまでオーケストラの音は鳴り響き笑いさざめく声が寮にまで響いていた。




