兄の側近
次第にヴィオラの顔色が青くなっていく。後ろに控えているビオリラもきっと顔色が悪いはず。
「お話し中に申し訳ありません。不躾ではありますが私の方からよろしいでしょうか」
ビオリラが矢も盾もたまらないように手を小刻みに動かしながら兄に嘆願した。
「許す。なんだ」
「ヴィオラ様はドレスをお持ちではありません。今まで着ていたドレスは全てリコリス王女からいただいたものを手直ししたものです。ですが事情がありリコリス様からいただいたお下がりのドレスは全てお返ししましたので、今ヴィオラ様がお持ちの服は制服2着と外出用のワンピース4着だけでございます」
兄の端正な顔が一瞬怪訝なものに変わった後、いつもの不遜な表情へと変わる。
「……何を言っている。ヴィオラに国庫からどれだけの金が動いていると思っているんだ」
兄が不愉快そうに口をはさむ。
「僭越ながら言わせてください。ヴィオラ様がいらっしゃるこの寮、学費、給食費はヴィオラ様が王立学園で学年5位以内の成績を常時たもっていらっしゃるため、成績優秀者として無償となっております。バンゲイ国からヴィオラ様のために渡される金額は50リールとなっております。そのうち」
「馬鹿を言うな。50リールとかありえないだろう」
ビオリラの話を遮り、兄が立ち上がった。
「いえ、間違いなく毎月50リールでごさいます。そのうち20リールを私のお給金にあてさせてもらっております。しかしこの学園は高位貴族の方たちも多く、お付き合いをしていくためにも残りのうち15リールは使わなければなりません。残ったお金をためていきいつかはヴィオラ様に似合う素晴らしいドレスを一着購入できればと思っていますが、まだまだです」
「……何を言っている、いやほかに何かあるのか」
兄が唖然とした顔で呟いた。
「不敬を承知で申し上げます。ヴィオラ様は第2王女でいらっしゃいます。あんまりではございませんか。第1王女であるリコリス様は何人もの侍女と騎士を離宮にお持ちでいらっしゃいます。それどころかいつ何時もドレスも飾りも限りないほどお持ちで一度着たドレスは着られないと言われるくらいです。なのにヴィオラ様は同じ王女様でいらっしゃるのにドレス一枚まともに買うことができないなんて」
別にドレス一枚持っていないことに関してヴィオラは残念にも悔しくも何も思っていない。
ただ兄にギリギリの生活をしていることを知られることが思った以上にヴィオラは恥ずかしくなる。
「ビオリラ。いいのよ。私は十分なの。それよりビオリラにちゃんとしたお給金を払えなくて申し訳ないばかりよ」
「おい!ちょっと待て。……聞き捨てならん話ばかりだな」
兄が言うと、我慢ならないように兄の側近が口をはさむ。今まで見たことがない新しい側近だろうか。
「侍女の分際で嘘ばかり言うな。リコリス王女がそのようなことをするわけがなかろう。ヴィオラ王女が自ら寮に入り、ドレスを受け取らなかっただけではないのか。まるでリコリス王女だけが贅沢をしているかのようになぜいう。お前は本当に不敬だぞ」
「それ以上言うな。何が本当なのかは調べてからの話だ」
兄は側近に片手をあげた後、静かに手を下ろし思案顔で額に手をやった。
「ちょっと待ってくれ。少し時間をもらいたいが。まずはパーティーに戻る必要があるな。その前にビオリラだったか、扉の外に私の侍従がいる。呼んできてくれるか」
「承知しました」
ビオリラが扉に向かうと、兄は混乱した顔でヴィオラに向かって笑いかけた。
「リコリスとはうまくいってないのか」
「うまくいくというか、今まで通り、いつも通りですわ」
兄は決してヴィオラの味方をするわけではないが、リコリスの味方でもなかった。公平な立場で両方を見る、という雰囲気だった。必然的にヴィオラに軍配が上がるのはしょうがないことだった。それを間近で見ているにも関わらず何故だろう、兄の側近のほとんどはリコリスに対して盲目なほど信望者ばかりだ。
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