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ダリル先生の講義

「ビオエラ、わたくし歓迎パーティ当日の朝体調を崩したと言って休むつもりなの。ごめんなさいね。ビオエラは行きたいでしょう。ビオエラのお兄さんもくるのに」

 ビオエラはバンゲイ国ではなくバンパー出身だ。父親は子爵らしい。ただ母親が王宮侍女ではあったものの平民でありビオエラ自身も庶子であったために子爵も兄とも面識がないらしい。情報としては子爵夫人もすでに亡くなり、子どもも兄が一人だけらしい。ビオエラに聞いても会ったこともないのに感慨も何もないですよ、とあっけらかんと笑った。

 遠慮してしまいそれ以上詳しくは聞いていない。

 そうは言ってもビオエラも兄と会いたいだろう。

 だけどそれより今回訪問してきたクロフト王太子の側近の中にビオエラのずっと好きだった初恋の人エイカーがいる。精悍な近衛騎士。強くて自分に厳しい人。侯爵令息、嫡男だったはず。陰からビオエラがいつも見ていたことを知っている。もし会えるのだったら会いたいはずだ。


「いいのです。兄と会いたい気持ちも少しはありますけれど。私は兄と話したことすらないんですよ。気になさらなくて結構です。それだけじゃないです。ヴィオラ様もドレスをお持ちではありませんけれど、当然私もドレスは持ち合わせておりません。

出席する気もありませんでした。

それよりもヴィオラ様の歓迎パーティーの欠席についてですが、まあ、そうですね。体調が悪ければ出席はできないですからね。当日朝にでも王宮まで一走り行ってきますね」

 元気よく言っているが、父親や兄や初恋の人を見られないことをビオエラが残念に思っているのも本当だろう。


 だが、ヴィオラは知っている。兄の側近たちはなぜか皆リコリス王女の信望者ばかりだ。特に兄の側近のエイカーはその中でも狂信的にリコリスを女神のごとく崇拝していた。誰よりも美しく優しく人だと常々言っていた。だからビオエラの応援はできない。エイカーと接すればビオエラが傷ついてしまう。ヴィオラからすると姉とは思うことすら難しいリコリスを女神か妖精かという男にビオエラのような純真で優しい女性はもったいないとおもうのだ。


「ごめんなさいね、ビオエラ」

 ビオエラがいるから今の私がいる。

 ヴィオラにとってヴィオラのことを一番に考え行動してくれるビオエラは大切だ。

 ビオエラがニコリと笑った。

「私は大丈夫ですよ。何が起こってもどんな時もヴィオラ様には私がついています」


 歓迎パーティーの当日、ヴィオラは体調不良ということで学園も休んだ。今まで熱があっても出席していたのに、とヴィオラとしては歯噛みしたいほど悔しい。

 皆勤賞は就職するときにかなり有利になる。今まで一回も休んだことがなかったのに、と口惜しくてむくれてしまう。

「今日はダンスの時間があったのよね」

 ダンスはバンゲイ国では踊れればいいぐらいのレベルしか習わなかった。

 だがバンパーに来て、授業でとても熱心なダリル先生から厳しくも暖かい指導を受けてダンスが楽しみになったのも本当だ。


「王女たるもの誰もが見ほれるほどの足さばき動き指の先まで神経をとがらせ、首の傾げ方すらも一枚の芸術品のように踊らなければなりません」

 と休みの日に呼び出されてレッスンを受けさせてもらったりしている。同級生からは気の毒にという顔で見られるが、ヴィオラとしては特別扱いみたいで嬉しい。

 ダンスは奥が深すぎる。

 上手な方たちはアレンジすら綺麗で華やかだ。そんなレベルにはならなくとも、恥ずかしくないくらいには踊りたいとダリル先生から学んでいる。


「……のに、ドレスは一枚も持っていない。とはダリル先生には言えないわね。これからはドレスを着るようなパーティーにでる予定もありませんとか」

 何人もいるダンスの先生、マナーの先生。その中でもダリル先生だけはダンスもマナーも最高に素晴らしいと評判だ。その代わりとても厳しい。王女であるヴィオラを自分の手によって誰よりも淑女に育て上げようという意欲すら感じられる。

 その厳しさがヴィオラには嬉しい。誰にでも平等に厳しく、自分自身にも厳しい先生だから。信頼できるし、こんな人になりたいと見て接して、いつもそう思う。

「ダリル先生の講義だけは受けたかった。残念だわ」



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