バンゲイ国王太子
王太子である兄クロフト・カッスル・バンゲイが訪問という形でバンパー国に来たのはその一週間後のことだった。
一週間の間、ヴィオラはリコリス王女の離宮を訪問していない。
「もう二度とここへは来ません」
啖呵を切ったものの今までもらったドレスをリコリス王女に返却しなければと思い侍女のビオエラと一緒に離宮へは一度だけ行った。
大量にあると思っていたドレスは実際は5着しかなくて、高位貴族が持っているドレスを入れる箱やカバンなど持つはずもなく、ヴィオラが2着ビオエラが3着手にもって運んだ。
リコリス王女は応対に出てくることなどなく、侍女が代わりに不愛想にドレスを受け取った。
「誰も使う必要のないドレスですので処分するようにリコリス王女から言いつかっております」
取り付く島もなく慇懃無礼に言われてしまった。
ヴィオラも一応王女なのだが、と思ったりはしない。いつもリコリス王女の侍女たちはヴィオラを下に見て話をする。ただビオエラだけは侍女の養成学校で優秀だったらしく、またその人当たりの良さでそこまで失礼な態度はとられていないとビオエラが言っていた。
でもリコリス王女からもらったドレスが無くなり部屋の中に大きな空間ができると同時に、ヴィオラの心も快晴の空のようにスッキリした。
もしもの時やお出かけに使用する時のためのヴィオラ用のワンピースはビオエラが街で買ってくると言っていたが、その前にリリアーヌが自分の店の試作品で商品化しないものを数枚持ってきてくれた。そのうちの2枚をビオエラと二人で補正した。
ビオリラのお給料だけは心配だったが、ビオリラのお給料とヴィオラとビオエラ二人分が生活するには十分なお金はバンゲイ国から支給されているらしく困ることはないようだ。
「支給されている中でお金があまりましたら、もしもの時の時のためのドレスを購入いたしましょう。
ヴィオラ様はお美しいのでどういったものでも映えるでしょう」
節約倹約を得意とするビオエラは笑った。が、すぐに困ることになってしまった。
クロフト王太子が視察訪問という形でやってきたのだ。つまり、兄がきたのだ。
歓迎パーティーがあるらしい。
いつもいやいや情報をくれるリコリスの侍女からではなく、バンパーの王宮の侍女からの伝言だった。
リコリスさえパーティに出てくれれば誰も困らない。ヴィオラの出席を望む人など王室には一人もいない。兄だってヴィオラがいないくらい何の問題もないだろう。のほほんとした気持ちでいたのが、侍女は出席することが当然といった雰囲気で歓迎パーティについて話をした。
出席は断ってはだめだろうか。欠席したい。だってドレスがない。
ドレスを購入するにはお金がかなり足りない。
今更リコリス王女にドレス一枚お下がりをください、などと言いたくはない。言えない。
欠席しか考えられない。




