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リコリス王女との決別

「申し訳ありません。髪飾りが壊れましたこと、ヴィオラに代わりまして私からも謝罪の言葉を」

侍女の言葉を遮るようにして、リコリス王女がほんのりと笑う。

「…私が壊したのであれば申し訳ありません」

ヴィオラも頭を下げる。

しょうがないことだった。たとえ壊していなくとも謝る必要があった。バンゲイ国とバンパー国。戦争が終わり友好国として遇されるようになった今、国同士の仲を乱すことはできない。市井のお店の髪飾りくらいでほんの少しでも国同士の間に溝は作るべきではない。頭を下げることで済むのであればヴィオラはいくらでも頭を下げる。多少の苛立ちややるせなさを感じていても。

「エリオーラ嬢はヴィオラ王女が蝶の飾りを壊した場面を見たのだな。その言葉に間違いはないだろうな。分かっているだろうが、隣国の王女に対して虚偽は許されることではない」

エリオーラが目に分かるように狼狽える。

「……見ていたわけでは……最初は壊れていなかった、いえ壊れていた、ちょっとはっきりしないのですわ……ヴィオラ様が触られた時には壊れていたので……」

「先ほど聞いた話と違うな」

皇太子は「まあ、現時点ではこれで納得しよう。仕事があるのでこれで失礼するが、この件については後日また」とだけ言い、侍従に促され部屋を出て行った。

ヴィオラは皇太子殿下へ礼をして見送り、キラキラした後姿が見えなくなるまで見送った後リコリス王女を振り向いた。

「リコリス王女、わたくしは髪飾りを壊していませんわ」

「あなたが壊したのよ、ヴィオラ」

無垢にすら見える華やかなほほえみを浮かべてリコリス王女は笑った。

「どうかしたの? 今までは何が起こったとしてもなんにでも謝っていたでしょう。口答えしたことすらなかったじゃないの、ヴィオラは。そこがヴィオラの可愛いところなのに。

わたくしが悪いなんてことになったらよくないでしょう、立場的にも。第1王女なのよ。

だからといってバンパーの伯爵令嬢や公爵令嬢が壊したとなれば皇太子殿下の贈り物を壊したということになり、何らかの処罰があるでしょう。一番誰もが納得できるのはヴィオラしかいないではありませんか。まあヴィオラにはわたくしからドレスでもなんでもあげてるじゃない。

それとも、こんなに反抗するなんて皇太子殿下に好かれたいのかしら。皇太子殿下はわたくしの婚約者よ。ヴィオラだって承知していたかと思っていたわ」

ヴィオラが壊したことにすれば誰もが納得する。そう言いたいのだろう。

「皇太子殿下に好かれたいからではありません。そんなことはこれっぽっちも……これまでリコリス王女からいただいたドレスはお返しします。今までにいただいたものもすべてお返しします」

「おもしろいこと。ならこれからどうするの。これからパーティはたくさんあるのよ。ドレスがなくて何を着ていくつもり」

「今までもこれからも私が出る必要性のあるパーティーはないでしょう。お姉さまが出ていれば良かっただけでしょう。私に必要なものは制服とワンピースが数枚あればそれだけで結構です」

「あなたは第2王女なのよ。そんな我儘通るわけないでしょう」

リコリス王女の口調がきつくなる。

「体調が悪いとでも言います。第2王女とはいえ私がどうしても出なければならない催し事は少ないはずです。

……できるだけリコリス王女にご迷惑をかけないよう、お目にかかることのないよう頑張ります。学園にいれば成績さえ良ければ食費も無料ですし寮費も無償です。自分の国の税金で賄われたものではないのでこの国の方々には申し訳ないですが、パーティーに出ないからと言って退学になることはないでしょう。そのためにも成績だけは上位にいられるように頑張ります」

リコリス王女は扇をパチンと鳴らして閉じる。

「わがままがすぎるのではなくて。よくそんなことが言えるものだわ。一言謝りなさい。それですべて許してあげてよ。あなたがバンパー国に来れたのも私の口添えがあったでしょう」

リコリス王女の言葉が終る前に姉の取り巻きたちが口をはさんだ。

「よくもリコリス様にそのような口をきけるものですわ。ドレスだってなんだってリコリス様の善意で譲り渡されていたのではありませんか」

「それどころかリコリス王女も言われましたが、バンパーにもリコリス王女の口添えがなければバンゲイ国すらも出られなかったはず。リコリス王女に対してそのようなことをよく言えたものですわ」

ボソリと横から侍女も呟く。

「母親が母親なら子も子とはよく言ったものです」

「リコリス様のご実家は侯爵家。お祖母さまは王女様が降嫁された方。それに対してヴィオラ様のお母様はどこの誰ともわからないような方。だから市井にいらっしゃったのでしょう。平民出身だからこのようにリコリス王女にもわけのわからぬ言葉を投げかけることができるのでしょう」

ヴィオラにとって自分のことは我慢ができる。

だがお母様のことだけは我慢ならなかった。

ヴィオラだけを大切にしてくれた人。ヴィオラのことだけを考えてくれた人。

ヴィオラだけをいつも見て微笑んでくれた人。

いつもヴィオラを励ましてくれた人。

病の床からヴィオラをいつも微笑んでみてくれた人。

ヴィオラだけを大切に大切に見守ってくれた人。

『ヴィオラは私の宝物よ』

何回も言ってくれた母。

「お母様のことを言わないでください。

もう二度とこちらへは来ません」

ヴィオラはリコリス王女の部屋から出て行った。



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