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私だけの友達

「王女様とはいえ、人のものに手を出し壊されるなどあまり良い行為とは言えませんわ」

「噂によるとバンゲイ国でも人の物を盗んだりされたこともたびたびあるとか。あまり良い噂はないようですわね」

「リコリス王女がお優しいからこれですんでいるのでしょう」

「やはりうまれが良くないとこうなるのでしょうか」

 次々にリコリス王女の周りの令嬢たちが小さな、それでいてかろうじて聞こえるくらいの音量で口を出し始める。


 やはり、バンゲイにいた頃と同じような流れになってきた。

 ヴィオラは涙ぐみそうになる。

 いつものことだ。いつものこと。そうは思っていてもバンゲイを出ればこういったヴィオラを貶めるようなことは少なくなると思っていた。

 どんなことでも思わぬところから悪意はヴィオラに向かってくる。

 どんな時であれ気を抜いた瞬間に落とし穴に落ちるように。

 しかも抜け出すことさえできない。抜け出す方法さえ見つけることができない。

 見つけたとしてもその方法を行使することができない。

 恵まれた環境で生活させてもらっているから。

 いつものことだ。


 多分、バンゲイ国ではないという気持ちが少し心を緩ませたのかもしれない。

 ビオエラ以外、周囲は誰でもヴィオラに対して悪意を持っている。

 バンゲイ国にいた頃のような警戒する気持ちが薄れていた。

 初めてヴィオラだけの友人もできたから、開放感でいっぱいになってしまった。


「姉妹だからと言ってお姉さまが持っているものをくださるからとはいえ全てが妹君のものになるとはかぎりませんわ。ヴィオラ様は何もかももらえるとおもっていらっしゃるんでしょう」

 あざけりの表情すら浮べてエリオーラ侯爵令嬢はうっすら笑う。


 彼女だって最初出会った時はヴィオラの友人だった。その時は優しい笑顔を浮かべる可愛らしい人だった。

 ヴィオラが友人を作り、しばらくして紹介をしてリコリス王女の友人となる。

 紹介するまでがヴィオラの仕事だ。いつの間にかそうなっていた。

 リコリス王女の同級生は無理だが、貴族令嬢であればヴィオラが親しくなる必要がある。

 だけど平民の友人はリコリス王女の友人にはならない。

 平民以外では、貴族であるとしたら男爵令嬢であるとか子爵令嬢であるとか。

 リコリス王女の取り巻きになるためには伯爵令嬢以上の身分でなければならない。


「皇太子殿下、リコリス王女。申し訳ありません。私は髪飾りを壊したつもりはございません。手に取ったときには壊れていました。置いてあったものを手に取ったのではなく、壊れたものを修繕するようにと手渡されたものと記憶しております」


 留学して初めてヴィオラだけの友人ができた。

 リコリス王女ではなくヴィオラだけの友人。

 リリアーヌはリコリス王女ではなくヴィオラを心配して動いてくれる友人。

 あまりに嬉しくて、だから少し気が緩んでしまった。


 姉が扇で口元を隠す。

「壊れたものをあなたに手渡したことはなくてよ」

エリオーラ侯爵令嬢が焦ったようにヴィオラに体を向ける。

「ヴィオラ様、いいかげんになさいませ。テーブルの上に置いてあった髪飾りを取ったのはヴィオラ様ではございませんか。その言いようですとリコリス王女が壊されたかのようではありませんか」

 ヴィオラはどうこたえるべきか逡巡する。

「誰が壊したとかは分かりません。私がお店にもっていくように言われたときはすでに壊れておりました」


 それまでの会話を全く表情を変えないまま聞いていた皇太子殿下はリコリス王女に視線を向けた。

「……それはもうよい。誰が壊したということは今現在の私は問題にしていない。それより…この髪飾りは私からの贈り物だがリコリス王女が受け取られたということだろうか」

「そうですわ。いただいた後テーブルに置きましたの。学園に通うときにつけたら可愛いかと思いまして」


「…なるほど」

 リコリスに仕えている一番年配の侍女が口をはさむことをお許しくださいと皇太子殿下に許しを求める。

「私が殿下の侍従より受け取りました。我が国の姫君でなおかつ婚約者候補の方へという言伝がありましたので、リコリス王女様への贈り物として受け取らせていただきました」


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