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命がけ

 なんて大きさの……トカゲなんだ。


 アレは一体?


「フォレストドラゴンだな。くそっ。なんだって、こんな場所に……」


 ドラゴン?


 あれが?


 見た目はトカゲだ。


 体長は三メートルを超えるほどの大きさで、全身が苔で覆われている。


 対峙しているレオンに対して、大口を開けて威嚇をしているようだが……人一人が簡単に入れそうな口だ。


 無数の歯があり、噛まれれば致命傷になりかねない。


「小僧。どうだ? いけるか?」


 レオンには嫌な思い出しかない。


 はっきり言えば、助けることに積極的になるようなやつじゃない。


 だけど……


「もちろんです。助けに行きましょう」


「よく言ってくれた。嬢ちゃんはどうだ?」


「ロスティと一緒なら……」


 こんな時まで……でも凄く嬉しいよ。


「いいか? フォレストドラゴンに勝とうと思うな。あれは、俺達が束になったって勝てる相手じゃねぇ。とにかく、赤き翼隊を逃がす事に専念するんだ」


 二人で頷く。


 あの巨大なトカゲがそれほど強いなんて……


 そして、それに対して一人で立ち向かうレオンに今まで感じていた不快感がかなり吹き飛んだ感じがした。


 きっと仲間を助けるために……


「俺が土魔法で注意をこっちに集める。嬢ちゃんはフォレストドラゴンに幻影魔法を。小僧はレオンと共に隊を誘導しろ。武器が散乱しているから気をつけろよ。そして、悪いが、小僧は殿だ。分かるか?」


 当然だ。


 用兵は勉強してきたつもりだ。


「ミーチャ。危険なら逃げてくれよ」


「ロスティも無理だけはしないでね。あと、これ」


 カードを無理やりボケットに突っ込んできた。


「だから……」


「ううん。本当に持っていて。私……ロスティがいなくなったらって思うと……だから、お願い」


 こんなに弱々しい顔をしたミーチャは見たことがない。


「分かったよ。これは預かっておくね。その代わり……」


「私のことは心配しないで。いざとなったら、魔法で私だけ逃げるから!」


 大丈夫そうだな。


「ガルーダさん。あとは頼みます」


「小僧もな」


 それだけを言って、僕は飛び出した。


 駆け出していくと同時に、「むう……」と言う声が聞こえてきた。


 ミーチャも詠唱に入っているようだ。


「てめぇ。何しに来やがった!!」


「ガルーダさんが陽動している今がチャンスです。すぐに撤退を」


 よしっ。フォレストドラゴンは小石をぶつけられて、ガルーダの方に意識がいっているな。


 この時間で……


 その瞬間、肩を掴まれたと思ったら、押し倒された。


「どけっ。戦いの邪魔だ。撤退したきゃ、てめぇ達だけ逃げてろ!」


 何を言っているんだ?


 そんな満身創痍で、この巨大なモンスターと戦う気なのか?


「ふざけないで下さい!! このままだと、隊が全滅してしまうんですよ」


「うるせぇ! こんな大物が来るなんて滅多にねぇんだ。目の前にA級昇級のチャンスがあるのに、むざむざ捨ててられるかってんだ」


 この人は……狂ってる。


 赤き翼隊の面々は、すでに満身創痍で動けそうな人のほうが少なそうだ。


 くそっ。折角、ガルーダとミーチャが作ってくれた時間を……


 フォレストドラゴンはまだガルーダの方を見ているが、動こうとはしない。


 幻影魔法が効いているんだ。

 

 少し安心した束の間だった。


「今なら……」


 そういって、レオンは剣を振り上げ、無謀にもフォレストドラゴンに切りかかっていった。


 本当に行ってしまった。


 ……次の瞬間、フォレストドラゴンは体を大きく旋回させ、尻尾をまるでムチの様に振り回した。


「ぐはっ!!」


 尻尾を叩きつけられたレオンは、まるでボロ布のように、吹き飛ばされていった。


 幻影魔法が効いていない……のか?


 さらに次の瞬間、フォレストドラゴンは巨大さとは思えない速さで、吹き飛んだレオンに体当たりをする。


 転がるレオン。


 それを追いかけるフォレストドラゴン。


 レオンは尻尾の一撃で相当なダメージを受けたのか、動く気配がない。


 フォレストドラゴンはトドメの一撃とばかりに、前足を高々と上げ、レオンを踏みつけようとした……


 ……


「くそが!!」


 無我夢中でレオンのもとに駆けた。


 間に合え!!


 なんとかレオンとフォレストドラゴンに滑り込む。


 その瞬間。大きな衝撃が体中に響く。


 全身がバラバラになりそうになったが、にわかに持ち直した。


「くっ……おらぁ!!」


 全身の力を全て出し切り、フォレストドラゴンの前足を持ち上げ、押し飛ばした。


 フォレストドラゴンは前足が上がってせいで、体勢を崩し、見事に後ろにひっくり返った。


 このチャンスに……


 ダメだ。体がバラバラになるほど、痛い……


「てめぇ……どうして」


「黙っていろ!! お前は全員を危機に晒しているのが分からないのか!! 僕がこいつを足止めする。その隙に逃げろ!」


「そんな……無様なことが出来るかぁ! F級のゴミの分際で……」


 まだ、そんな事を言っているのか。


 怒りがこみ上げてくる。


「ふざけるな!! B級だろうがF級だろうが……仲間を助けないやつがゴミだ。それはレオン、お前のことだ! 頼むから。ここを引いてくれ。僕もあいつを何度も足止めできるわけじゃないんだ……頼む……」


「くっ……わかった……」


 レオンはなんとか立ち上がり、片足を引き摺りながら、隊の方に向かっていった。


 ふと振り返り……


「生きて帰ってこいよ……」


 なんとなく、そんな声が聞こえてきた。


「くっ……やっぱり、ダメージはないか……」


 フォレストドラゴンは何事もないように立ち上がってきた。


 ふと視線をそらせば、レオンの動きはやはり遅い。


 隊と合流するにも時間がかかりそうだ。


 持つのか? 僕の体は……


 カードは……すでに粉砕されていた。

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