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洗礼式

 ナザール公爵家の大広間で僕は大神官の前でひざまづく。


 僕はナザール公爵家の次男。この世界では、16歳のときにスキルを授かることになっている。本来は街でも調べることは簡単なのだが、公爵家ということで大神官が自らやってくるのが習わしとなっている。


 スキルを得れば……僕は公爵家の後継者として指名されることになっている。出来れば、上位のスキルが欲しいところだけど。


 けれど、結果は無情なものだった。


「ロスティ=スラーフ=ナザール様……『スキル無し』!!」


 静寂な広間に神官長の言葉が大きく響いた。それは臨席している貴族たちを騒がせるのに十分過ぎるものだった。


「し、神官長!! もっと水晶をはっきり見てください!! 水晶には……」


 水晶にはしっかりと文字が浮かんでいるんだ!! なんでそれを見ようとしないんだ。


 しかし、周りにいる貴族たちからのどよめきが大きいため、僕の声とかぶり、神官長には届かなかった。

 

 いや、神官長は僕の方なんか見ることもなかった。真っ直ぐと当主である父上だけしか見ていなかった。


「ロスティ=スラーフ=ナザール様……『スキル無し』!!」


 再び、神官長が言葉を発した。いくら慣習とは言え、この言葉ほど辛いものはない。


 神官長の言葉に驚いている貴族連中の中で一人だけ大はしゃぎしている奴がいた。


 一つ上の腹違いの兄タラスだった。


 醜く太った体を揺さぶりながら、足を踏み鳴らし喜びに打ち震えている様子だった。


「はっはっはっ!! なんて傑作なんだ!! まさか『スキル無し』とは思わなかったな。これで……ようやくだ!! 俺が後継者ってことで良いですね? 父上!!」


 父上はこちらに目を向けることは決してなかった。沈痛な表情だけを浮かべていた。

 母上は弟の肩をしっかりと抱きしめるだけで、下を見つめている。誰も僕を見ようとはしない。


「……後継者はタラスだ」


 そう言うと父上は足早に洗礼の間から姿を消した。それに倣うように貴族たちや母上たちも去っていた。その時の貴族たちの侮蔑に満ちた顔は一生忘れられない。


 神官長も僕を軽蔑したような視線を送って、足早に父上の後を追っていった。


 あまりの出来事に呆然とするしか出来なかった。残ったのは数名だ。タラスとその取り巻き連中と……ミーチャだった。


「おい。無能者スクルー。ようやく俺様とお前の立ち位置がはっきりしたな」

「僕を無能者なんて呼ばな……」


 タラスが僕を問答無用とばかりに蹴り飛ばしてきた。僕はタラスの蹴りに何も反応出来ずに吹き飛ばされる。


「おら。どうした? かかってこい。お前が無能者でないことを『後継者』である俺に示してみろ。それが出来なければ、お前は一生オレのサンドバックだ」

 

 なんて理不尽なんだ。こんな奴が後継者だなんて……


「それに前からお前の面が気に食わなかったんだ。ちょっと面が良いからって調子に乗りやがって。徹底的に潰して醜くしてやるぜ」

 

「くそ野郎が……」


「ん? 何か言ったか? 『後継者』の俺様に向かって。こういうのを何ていうんだ? 不敬罪か? それなら処刑だな。ハッハッハッ!! まぁ俺は優しいからな。百回ぶん殴るだけで許してやるよ」

 

 それからタラスは数を数えるように殴ってくる。

 

「畜生が!!」

 

 僕はタラスの隙をついたつもりで反撃をしたのに、いとも簡単に避けられてしまった。


「分かったか? 無能者。お前の攻撃なんて俺に当たるわけねぇんだよ!! 無能者は無能者らしく、俺に殴られてりゃあ良いんだ!!」


 それからも容赦なく殴られ続けた。口の中は擦り切れ、血の匂いがしてくる。


 呼吸も苦しい……立っていることが……つらい。


「ちっ!! なかなか気を失わねぇものだな。しょうがねぇ。『剣士』スキル持ちの俺様の剣技でも見せてやるよ」

 

 タラスはすらりと腰に帯びている剣を抜く。


「真剣じゃねぇのが惜しいところだが……まぁお前をボコボコにするには十分だろうな」


「冗談……じゃない。僕を殺す気か?」


「やっと気づいたか? お前はもう用無しなんだよ。死んじまったって、誰も何も思わねぇだろうよ」

 

 タラスは剣を振り上げた。


「もう、止めてっ!!」

 

 タラス達以外に人はいないと思っていたのに、女の人の声が聞こえてきた。

 

「これ以上はロスティが死んでしまうわ。もう止めて。お願いだから」


「ちっ! 忌み子の分際でしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」

 そう言いながら、タラスはミーチャの体を舐めまわるように見ている。


「相変わらず美味そうな、いい体をしてやがるな。しかしよぉ、気に食わねぇな。てめぇは俺の婚約者になるはずだろ? そんな無能者をかばうとはどういうつもりだ?」

 

 ミーチャは後継者の婚約者として、公国預かりの身となったトルリア王国第二王女だ。ここでタラスと揉め事は起こさない方がいい。


「……ミーチャ。止めてくれ。君の立場が……悪くなるだけだ」

「ロスティ……」


 不機嫌なタラスの表情がなぜか徐々に喜悦に包まれたゲスな顔を浮かべてくる。


「いいね。よし決めたぞ。忌み子と結婚した日に犯しているところをお前に見せつけてやる。こりゃあ、良い考えだ。無能者!! 命拾いしたな。忌み子に感謝しろよ。忌み子!! 俺に抱かれる日を楽しみに待っていろよ」


 タラスは剣を鞘に戻すと、ミーチャの足首を撫で回してから手下に目配せをした。


「忌み子を部屋で監禁しておけ。俺との結婚式まで誰とも会わせるんじゃねぇぞ。なぁに。楽しみが終われば、他の女と同じくお前たちに分けてやるからよ」

 

「承知しました!! さすがは俺達の大将だ」

 

 タラスの手下たちは手慣れた手つきでミーチャを拘束し、洗礼の間から連れ出していってしまった。


「ミーチャ!!!!」


 僕は叫んだつもりが声が全く出ていなかった。


 立ち上がることもできない。涙だけが止まらず出てくる。


「どうしてこうなってしまったんだ……」


 一年前はこんなことを想像もしていなかったのに……。

 読んでいただきありがとうございます。書き続けるためにどうかご協力をお願いします。


 もし少しでもこの物語が「面白い」または「続きが気になる」と思われましたら、ブックマークや評価を是非お願いいたします! 執筆の励みになります。


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どうか完結まで頑張りたいと思うので、お付き合いをよろしくお願いします。




 

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