かくへーき
むかーしむかーし
あるところに、つよいくにと、よわいくにがありました
つよいくにのひとたちは、たいそー、ゆたかにすごし
よわいくにのひとたちは、みじめに、まずしくすごしておりました
つよいくにのおうさまは、くにのひとたちをしあわせにしたいことをおもいました。
よわいくにのおうさまは、たいへんにつよいくにをにくみました。
つよいくにのおうさまは、けんきゅうしゃにいいました。
『人々が争わないで済む、強い兵器の開発をしてほしい』
よわいくにのおうさまは、こくみんにいいました。
『つよいくにはズルい、憎い、つよいくにを倒すため、一丸となって戦おう』
つよいくにのけんきゅうしゃは、ながいねんげつをかけて、”かくへーき”という、それはたいそうおそろしいへいきをつくってしまいました。ぼたんひとつで、つよいくにとよわいくにがほろぶほど、とてもきけんなしろものでした。おうさまはそのせいかをしり、たたかうことはもうやめようと、よわいくににつたえにいくことにしました。
よわいくにのこくみんは、おうさまからのことばをしんじ、ただただひたすらにつよいくにをにくみました。とてもまずしいしょくじ、とてもまずしいせいかつ。すべてはつよいくにのしわざであると、おもいました。よわいくにのおうはそのせいかをしり、たたかうことをけついしました。つよいくにをたおして、ゆたかになりたかったのです。
おたがいのはなしあいは、ながくおこなわれました。ですが、つよいくにはよわいくにをせっとくすることができませんでした。よわいくにはつよいくににまけたくなかったのです。
どんなてをつかおうと、どれだけのときがながれようと。
つよいくにをたおしたい、そのいっしんでした。
でも、つよいくににとっては、たたかわないですむとおもっていただけに、しょっくをうけてました。
どーか、たたかうことはないように。
そのようなあまいおもいではなかったからです。
よわいくにのおうさまはこくみんのすうにんを、つよいくににおくりこみました。
”かくへーき”とよばれるものがとてもきけんなしろもの。
これをてにいれて、うちがわからつよいくにをほろぼすというかんがえでした。
おくりこまれたこくみんもつよいくにをうらんでいました。
とてもうらんでいました。
てきのなかにはいるというきけんなにんむも、そのうらみがなければやれませんでした。
しかし、こくみんはつよいくにをみてしりました。
ここのこくみんのだれひとり、せんそうをするというきもちをもったこくみんがいなかったのです。
たべることにくろうしたよわいくにとはちがい、つよいくにのしょくじは、りょうがあり、とてもおいしかった。さむいさむいひに、みをよせあってあたたまるよわいくにとちがい、ふかふかでいてあたたかいもうふがなんまいもあった、つよいくに。にくしみ、うたがっていた、よわいくにのこくみんとはちがい、つよいくにのこくみんは、やさしく、あかるく、なによりしあわせなかおでせいかつしておりました。
つよいくにをほろぼす。
それだけをおもっていきてきただけに、がくぜんとするしかありませんでした。
でも、これでいきてきたからこそ、よわいくにのひとたちは”かくへーき”をてにいれるひつようがありました。つよいくにのこくみんにもわたしたちのようになるべきであると。
つよいくにのおうさまはそれでもせんそうをしないため。
こくみんをあんしんさせるための、よりよいせいさくをおこないつづけました。
えがおでいられるせかいはきっと、せんそうをよばない。
そーいうしんねんでこくみんたちと、せかいのはぐるまとむきあいました。
そしてつきひがながれた、あるひのこと。
よわいくにのこくみんはついに”かくへーき”をみつけ、てにいれました。
ですが、つよいくにのおうさまはかれらをみつけ、とらえました。
だんざいされるとおもわれましたが、つよいおうさまはかれらにていあんをしました。
『この”かくへーき”を渡す代わりに、よわいくにのおうさまにせんそうを止めるよう、そなたたちから説得してほしい』
せっとくをじょうけんにかいほうされたかれらは、ふくざつなかおをしてよわいくにに”かくへーき”をもってもどってきました。
ここをはなれたときより、とてもさびれたふうけいになっていました。せめてのおもいで、よわいくにのおうさまにせっとくすることを、そこにいたみんなできめました。
てにいれた”かくへーき”はとてもきけんなものであり、つよいくにはとてもゆたかでへいわなばしょ、そこをこわすことにはさんどうできない。じぶんたちがしったことをよわいくにのおうさまにつたえましたが、せんそうにかてるさんだんがととのったおうさまはひきませんでした。
それどころか
『その”かくへーき”がこちらにあれば、今こそ奴等を滅ぼすときだ』
こくみんいじょうにながいうらみにかられているおうさまは、とまりませんでした。つよいくににいったものたちは、あきらめました。つよいくにをしったかれらは、よわいくにからさることをきめました。
いっぽうでよわいくにのおうさまとこくみんたちはついに、せんそうをはじめました。
せきねんのうらみがつのったたいぐんと、へいわとこくみんのいのちをまもりたいつよいくにのたたかい。
そのたたかいはひじょーなほど、いっぽうてきなぎゃくさつでした。
にんげんにたよるよわいくにと、にんげんよりすぐれたへいきをあつかう、つよいくに。
よわいくにはいくらがんばっても、つよいくにのこくみんをころせず。すぐれたへいきをとめても、またつぎのおそろしいへいきがあらわれて、みるみるうちにいのちをちらしました。
そうです。
つよいくにはあんぜんなばしょから、せめてくるよわいくにのこくみんをころしていったのです。
よわいくにのおうはさらににくみました。
あいてがたたかいとよべるものをしてこず、ただただいっぽうてきにやられてしまうじょうきょうと、うらみがきえぬことでえらんだことは、つよいくにからうばいとった”かくへーき”のしようでした。
これはつよいくにをもほろぼすというしろものです。つよいくににかつにはこれしかありませんでした。
おうさまみずからそれをつかいました。すべてのものたちからのちゅーこくをむしし……
ドカーーーン
”かくへーき”はつよいくにをたしかにほろぼしました。
しかしながら、そのよわいくににも”かくへーき”のきょういはおそいかかり、あっというまによわいくにもほろんでしまいました。
すべてがほろんだのです。
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それからまたながいねんげつがたち。
よわいくにのとちはあれはてたままでした。
いっぽうで、つよいくにのとちはゆたかなままでした。ほろんだはずのにんげんたちもそこでいきていたのです。わずかではありましたが、せんそうのなか。いきのこったつよいくにのひとたちはまたゆっくりと、せいかつをきずきあげていったのです。
とうじのつよいくにのおうさまはよくおしえてくれました。
ゆたかであること、しあわせであるたいせつさ。
きびしーかんきょうであっても、ないたことがあっても、かなしいことがあっても。
どこかで、いつかで、まえをむいてたちむかう。げんじつとむきあっていくこと。
さすればきっと、しあわせはやってきてくれる。
しあわせになっていこうというきもちをもって、かれらはふっこうをなしとげていったのです。
そして、そんなせんそうもれきしのいちぶんでしめくくられるほどの、ときがながれ。
このせかいはつよいくにしかのこっていませんでした。
畦総一郎のお話から抜粋。