第1話
アンタイトル、よろしくお願いします。
お前の肉も血も骨も一滴残らず俺が啜ってやる。生きたまま。誰にも邪魔はさせない、
お前の身体は俺に犯され、心は陵辱され、お前の全ては俺の支配のもとにおかれ、お前に自由は与えられない。
すべて、俺のものに。
僕から全てを奪った彼に、僕の数少なく残る感情が揺り動かされる。
彼の姿が目の前に現れるたびに怒り、憎悪、殺意が姿をあらわす。この屍のような体のどこにこんな感情が残っていたのかわからないほどそれは顕著に現れる。
心は折られ、身体は貫かれ、全て奪われた。
何も残っていないのに許せないのは何故だろう。何も残っていないのなら、全て幕引いて終わりにして仕舞えばいいのに。
わからないまま、僕は彼を絶望させることだけを考える。
「い…たぁい……」
僕の前で長い槍に体を貫通させた彼女は、小さくそう呟いた。
「エアリアル!!なんで出てきた!!!」
家の中に控えていたはずの彼女が飛び出してきたのは僕がゴルギアの槍に狙われた時だった。
エアリアルの口からは呼吸をするたびに血が溢れ、コプコプとその生命を外へと排出させる。
「私を、守りながらでは、あなたは勝てない…。」
エアリアルは振り返って痛みに滲む瞳で僕に言った。人間であるのに、僕とゴルギアの僅差の戦闘力がわかる、それがエアリアルの不思議な才能だ。彼女は僕に手を差し出して顔を触る。手に着いた血のせいで、それは滑って肩に落ちた。
「…だから私をこれからも愛して。ずっとずっと私だけを愛していて。あいつを殺すことだけを考えて。私と、あいつのことだけを。考えて、生きて。」
言い終わるとエアリアルは自分に刺さった槍を引き抜こうと力を込めた。
僕は。
僕は溢れる涙で周りが霞んでいた。エアリアルが死ぬ。僕のエアリアルが。
そしてエアリアルは、槍を引き抜くことなく真横に倒れ、事切れた。
僕の能力の枷が外れた。
SSクラスの天使では稀に能力の質が高過ぎて枷を施されるものがいる。12人の天使がいちどきり、外されたら戻せない枷を同時にかける。僕はその枷持ち。タイプSS、枷持ちのイーライ。
一瞬の隙をついて、ゴルギアの喉元に剣を突きつける。同じSSクラスでも、枷持ちとそうでないものとはレベルが違う。
「は……枷とはこれほどのものか。」
ゴルギアが笑う。あまりの戦力の差に出た笑みか。だが次の瞬間、剣は弾かれ、ゴルギアは自分の腹部を貫いた。
「?!」
何が起こったのかわからなかった僕の前に、自分の臓器を引きずりだして食べるゴルギアが見えた。
「知っているか、枷持ちが研究対象にされていることを。そして俺は人工、いや神工か?その枷持ちとして初めて成功した一番目だ、宜しくな」
浅ましく自分の血で口の周りを濡らすゴルギア。その血は黒く、実験という話は嘘ではなさそうだ。
だが実験の上の枷持ちがなんだというのか。
この僕の衰えぬ怒り、悲しみと憎しみ。たとえ死をもって相打ちになるとしても、僕に後悔はない。
「俺はお前を殺す気は無い。お前の身体も心も俺のものにして、そばに置く。」
「僕の心はここにはない、さっき彼女とともに逝った。僕の体もここで滅する、お前の思い通りには何1つならない。」
「死ぬ気か」
「作り物とはいえ枷持ちならばあいまみえれば無事では済まない。死ぬ気でいかなければお前は殺せない。」
その言葉の通り、2人の闘気は周りのものを巻き込み渦を巻いて空を舞う。
天使は天使の肉を喰らう事で強くなる。
だがそれは禁忌。ひとしきり自分の肉を食べたゴルギアの腹部はもう修繕し、ゆとりある表情から闘気が一段上がる。
「枷、解除」
その一言でゴルギアの周りのものがブワッと消失した。