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友達の体験談

作者: 都南優介

 なあ、聞いてくれよ。この前の金曜日にちょっと変わった体験したんだよ。

 いいから聞けって。あのさあ、高校の近くに有名な廃墟あるじゃんか。

 そうそう。あのでっかい遊園地。

 俺、もともと廃虚好きだからよく行ってたのね、あそこ。

 でさ、初めて体験したわけ。あそこの噂。

 どの噂かって?まあ最後まで聞け。

 あの日は学校の帰りにそのまま行ったのね。次の日学校休みだったからさ。

 遊園地に行く途中も結構人通りがなくて不気味な感じするじゃん、あそこ。

 それも廃園になった理由の一つだと思うわけさ。

 え?関係ないから早く何が起きたか話せって?

 はは、せかっちだな。そんなんだからもてないんだよ。

 ん?彼女いるって?初めて聞いたよ。ショックだな、おい。

 そんなことはどうでもいいってか。まあそうだな。

 んで、とにかく不気味な道中を抜けて俺は遊園地に潜入したわけさ。

 廃園つっても一応管理人はついてて、いつも通り管理人がいないタイミングで忍び込んだ。

 色々堪能したね。やっぱでっかいものが錆びてるとロマンを感じる。いつ行っても楽しめるんだなこれが。

 特にジェットコースターはやばいね。錆びてきったねえのに昔の姿残してるんだもん。

 ジェットコースターの噂を体験したのかって?違うね。ただ朽ちゆくジェットコースターに感動したって話だけど。

 呆れた顔するなよ。俺の話に付き合うならこれぐらいは覚悟しとけよ。

 ああおい、帰るなって。ごめんよ。ちゃんと真面目に話すから。

 そういえば声はかけなかったけどうちの制服着てるやつがいたな。あいつも廃虚が好きなのかもな。

 それはどのアトラクションかだって?観覧車の下だよ。ほんとは声かけてもよかったんだけどな。

 知ってるやつだったから。でも急に大声出して観覧車に怒鳴ってたから怖くて引き返したわ。

 そいつやばいんじゃないのかって?大丈夫、大丈夫。今日も普通に学校来てたから。

 もしかしてああいう奴のせいで噂が大きくなってるのかもな。

 で、その後ミラーハウスの中に入ったのよ。懐中電灯の光だけを頼りに。

 電気とか通ってないし、そもそもどこで明かりつけるのか知らねえし。

 怖くないのかって?怖いよ、そりゃ。

 でもそんなんで怖がってたらいい廃墟に巡り会えないからな。まあここは何回も来てるんだけど。

 とにかく中に入って三十分くらいかな、探索したのは。

 怖い体験談はまだかって?人の話よく聞けよ。

 変わった体験なんだって。体験した本人はちょっと怖かったけど。

 で、実はもう始まってんの。ここからが本番だ。

 ミラーハウスの出口から出た俺は自分の目を疑ったね。

 真っ暗だったのよ。夜の暗さってよりかは押し入れに籠ったときみたいな感じ。

 もうね、完全に闇。手を伸ばすと指の先とか見えないの。

 こんなに時間経ってたっけって思ってさ、腕時計確認したらどうなってたと思う?

 止まってたんだな、これが。ミラーハウスに入って五分くらいの時にはもう止まってたっぽい。

 でもさ、スマホ見りゃいいじゃん。お前もそう思うよな。当然俺もそうした。

 画面点けて十秒くらいで消えた。バッテリーが切れたって。

 やっぱスマホはすぐ充電無くなるわ。こんな時ほどガラケーを求めた日はないね。断言できる。

 一応時間は確認できたからさ。九時半だって。全然三十分じゃねえの。

 夕方に入って三十分探索して九時半。なんだそりゃ。全く計算が合わねえ。

 しかも九時半だからって先が見えないほどの闇ってあり得るか?

 さすがの俺でも気付いたね。

 ああこれ、廃遊園地の噂とやらに巻き込まれたんだって。

 さらに泣きっ面に蜂の出来事が起こるわけだ。

 懐中電灯の電池が切れた。

 自分の準備の悪さを呪ったよ。

 だってスマホのモバイルバッテリー持ってきてないうえに、電池切れかけの懐中電灯で来てたんだぜ。

 これは俺が悪いと思う。

 そのせいで完全な暗闇。目瞑ってるのとなんも変わらねえでやんの。

 なんか来ると思うじゃん。俺もそう思ってずっと身構えてたの。でもよく考えたら、何も見えないわけじゃん。どんなに怖い奴が来たって何とも思わねえ。だって見えないから。

 そう思った瞬間安心し始めてさ。足伸ばしてくつろいでたわ。

 もしかしたら馬鹿みたいに分厚い雲が月を隠してるだけかもしれないし。最悪、朝まで待とうと思ったね。

 そしたらあとはこっちのもんよ。

 親父にする言い訳を考え始めたり、俺の晩飯を弟に取られてないか心配したり。

 とにかく一人で時間を潰すことは苦じゃなかったね。

 せめてスマホのバッテリー残ってたら遊園地の外まで行けるし、親に迎えに来てもらえたのに、とかは思っちゃったけど。

 体感にして多分二時間くらいかな。俺の体内時計当てになんないけど。眠くなってきたわけ。

 夜だし暗いし静かだし。

 うたた寝するには完璧なくらいの状況だった。

 というよりうたた寝どころかしっかり寝た。意識が戻ったとき疲れが取れてたもん。

 ただ相変わらず遊園地は真っ暗。

 がっかりしたんだけど、見つけちゃったんだ。

 綺麗な光を。

 これは行くしかないと思ったね。だってミラーハウスの前にいても何にも見えないから。

 とりあえず明るさを求めてた。

 でもさ、ちょっと怖くね?だってさっきまで真っ暗だった遊園地にポツンと光る場所だぜ。

 人魂の可能性を考えた。だってそんときはそれしか思いつかなかったから。

 でもすぐに違うと思い始めた。理由は簡単。

 すげえ陽気な曲が聞こえてくるんだ。

 陽気なBGMともに現れる人魂なんているか普通?

 普通の人魂も見たことないけど。

 俺は人魂だと思わなかったからその方向に進んだ。

 で、やっぱり違った。

 それメリーゴーラウンドだったのね。

 どうりで陽気な訳だ。おどろおどろしい横笛のメリーゴーラウンドなんか乗りたくないもん。

 不思議と怖い感じはしなかった。楽しそうにぐるぐるしてるんだ。

 気付いたら近づいてた。せっかく来たんだし遊んでこうと思ったんだ。

 おかしいよな?まず動いてることを疑問に思うはずなのに。

 でもその時の俺は自然に感じたし、完全に遊園地に遊びに来てついでに乗るかって感じだった。

 なんかすごい懐かしかった。小学生の時に廃園になったからさ。なんかその頃から勝手に動くって噂あった気がする。

 曲と馬たちの回転が止まるまでその感覚を楽しんでた。

 で、ようやく俺の番。そういえばよく考えたらだれも乗ってないんだから勝手に乗ればよかった。今更だな。でもそのときはそれが当たり前だと思ってた。

 そんでさらにびっくりするのはここからだ。

 昼間なの。辺り全部。驚くだろ?だってさっきまで手を伸ばした先さえ見えない暗闇だったんだぜ。

 あと、音もBGMだけじゃなくなってる。キャーキャー小さい子のはしゃぎ声に、他のアトラクションの音。

 遊園地内がたくさんの客で埋もれるかと思うくらいいんの。

 自分の乗っている馬以外にも人が乗っててさ、小さな子供なんだよ。確かにメリーゴーラウンドはいつも平均年齢低いっつうか対象年齢低いっつうか。

 ちょっと恥ずかしかったわ。他の馬に乗ってる子の親同士がこっち見てるし。いい年してメリーゴーラウンド乗ってるのね、とか言ってたのかな。

 なんか他のアトラクションも面白そうだしそっち行くかって思って降りたら夜だった。

 おいおい、変な顔するなよ。俺もそんな顔したけどさ。

 後ろ見たらもう電気消えてるしBGMも止まってた。

 俺の乗ってた馬がぼろっぼろの状態で佇んでた。

 それで気付いたけど、完全な闇じゃなくなってるの。

 月明かりに照らされてるし、星はキラキラ光ってるし。あと、遠くに街灯とかも見えた。

 なんか戻ってきた感じがしたね、その時。

 話はそれだけなんだが、結構変わった話だろ?人に話したくなるのもしょうがないわな。

 それでさ、俺思うんだけど。

 あのメリーゴーラウンド、楽しいときのことずっと覚えてるんだなって。

 だから今も動いて楽しかった時の事思い出してるんだなって。

 そうだ、今度一緒に行かね?あの遊園地。

 行かないって?そっか、残念。


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