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プロローグ3

東北地方にある山の奥。人気のない森を芹沢渉は、自身の師匠である古城慶三に肩を貸し、支えながらゆっくりと歩いていた。古城は青白い顔をして、視点が定まっていなかったが、芹沢は足をとめようとはしなかった。

「先生、先生、もうすぐですよ。」

「……あぁ…。」

「頑張って下さい、頼みますよ、先生。」

芹沢も息が上がる。かれこれ二時間はこうして足場の悪い道をあるいているのだ。

電車に乗っているときは話すことも動くこともできていた古城だが時間が経つにつれだんだんとやつれ、意識があるのがやっとの状態となってしまった。それほどまでに昨日犯した『禁忌』が古城の体を蝕んできているのだ。

一心不乱に歩きつづけ、太陽が完全に沈むころには鳥居の前に着くことができた。

赤い大きな鳥居の両端には狛犬が凛と佇んでいる。しっかり掃除ざれた道に芹沢は息を漏らした。そして、鳥居をくぐり、天羽神社の本堂の前で立ち止まる。すると、神社の中から巫女の服を着た少女がでてきた。

「古城慶三様と後継者様ですね。受け継ぎの儀の準備は調っております。さあ、こちらへ。」

案内されるがままに、靴を脱ぎ、古城を抱えながら部屋に入る。6畳半くらいの畳の部屋に、ちゃぶ台と二着の着物が置いてあった。ちゃぶ台の前にゆっくりと古城を寝かせる。

「右のお召し物は古城様、左のお召し物は後継者様の正装でございます。着替えられましたらお呼びください。」

巫女の少女が丁寧に頭を下げて部屋を出ていこうとしたところを芹沢は少女の手をつかみ、制した。

「僕の名前は芹沢渉。後継者様って言いにくいでしょ?それと、君の名前はなんて言いうの?」

芹沢はさわやかな笑みを浮かべて安心させるように話しかけた。少女は驚いたのか、目を見開いて芹沢を凝視しし、案内していた様子とは打って変わったか細い声で答える。

「天羽、燈子…です。」

「燈子ちゃん!かわいい名前だね。んじゃ着替えたら呼ぶね、燈子ちゃん」

芹沢が笑いかけると燈子は頬を染めてうつむきながら、逃げるようにぴしゃりと襖を閉めた。

芹沢はその様子を見て笑みを浮かべ、左の着物を手に取る。地味な色合いでどこにでもありそうなデザインの着物だが、儀式専用の着物というだけあって少し痺れるような感じがした。

着物を着終わり、自分の服を畳んでから、古城の服を脱がせる。

「先生、もうすぐですよ。頑張ってください。」

「………あぁ…。」

返事が返ってきたことに安堵しつつ、ゆっくり手を袖に通し帯を締める。寝ている体制なので少し不格好になってしまったが問題ないだろう。

「燈子ちゃん、できたよ」

呼びかけると、襖が音もたてずに開き、礼をされる。

「では、儀式を行います。古城様と一緒にこちらの部屋へ移動をお願いします。」

燈子は凛としたたたずまいのまま、芹沢を儀式の部屋に案内するべく歩きだす。

置いて行かれないように、芹沢もあわてて古城を抱えながら追いかける。

「こちらの、円の中にお座りください。」

燈子がさした部屋には蝋燭やお札が至る所にあり、畳には白い塗料で描かれた円があった。円の中心にはとっくりが二つ置かれている。芹沢と古城が使用するものだろう。

芹沢は蝋燭を倒さないように注意しながら円の中に古城を連れていき、寝かせる。向かい合わせるようにして芹沢も円の中に座った。

すると、燈子の後ろから巫女の服を着て、髪に金色の装飾品を付けた女性が歩いてきた。

燈子はその女性に道を開けるように横にはけて、頭を下げる。

「私は天羽神社神主の天羽菜々子です。これより『受け継ぎの儀』を始めたいと思います。古城様、芹沢様は私の言うことを絶対に守ってください。」

そういって、天羽菜々子は儀式の間に裸足で踏み込んだ。


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