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最初で最後の告白

作者: 高遠 時貴

 まだ、貴方のことを好きでいさせてくれますか?

 まだ、貴方のことを想っていてもいいですか?


 数年たった今でも、貴方のことが、好きです。

 新しい場所で、新しい人と出会い、新しい経験をいくつもしました。

 けれど、そこに貴方は居なくて。私と目指す場所が違う貴方が居ないことは当たり前のことかもしれないけれど、貴方が居ないことがこんなにも苦しいことだとは思いもしませんでした。

 

 ある日友人が、こんなことを口にしました。

「あの時代は良かった。あの頃に戻りたい。そうは思わないか」と。

 しかし、私は「そんなことはない、今が一番幸せだ」と答えました。

 確かに、全体的にみるとそうです。幸せです。

 私に振り向いてくれる友人は多く、いてもいなくても変わらないような空気でいた頃の私ではありません。

 でも、何を持って幸せなのかを考えると、思考が停止します。

 貴方が居ない、どこかぽっかりと空いた穴が塞がらず、そら寒いのです。


 空いた穴を塞ごうと、貴方に代わる人を探しました。新しい恋をしてみようと思ったのです。

 でも何故か、貴方のことを思い出してしまって、新しく出会った人との今後を考えるとまだ付き合い始めてもいないのに胸焼けがしたように気持ちが悪くなってくるのです。つい先程まで相手に好意を持っていてもです。

 それならば、と同性のことも考えてみました。実際に付き合うというほどでもなく、ただ憧れるに終わってしまいましたが。

 それもまた、少々の気は紛れましたが気休め程度にしかならず、不毛さが増すばかりでした。


 一時は、まるで底なしの泥沼に落ちたように沈み込み、夜の街を徘徊したい衝動に駆られたこともありました。しかし、私の周りの環境がそうはさせてはくれず、今では一命を取り留めたような面持ちです。

 いっそ、そのまま堕ちてしまえばよかったという気持ちもありますが、それよりも堕ちずに良かったと思ってしまうのは、私にとってはとても滑稽なことのように思えました。

 なんという、ご都合主義なのだろうと。


 今、貴方はどうしているでしょうか。

 当時では手の届かなかった高みへと臨んでいるのでしょうか。それとも、諦めてしまいましたか。

 本来なら、私から声を掛けるべきなのでしょう。私が貴方なら、きっとそう叱咤します。

 しかし、敢えて貴方の判断に任せたのは、もし既に貴方を支える人がいた時に貴方を困らせたくないという、私のエゴであり配慮――というのは些か傲慢ですが――のつもりです。

 

 もし、冬が明けて新しい年が始まっても貴方から連絡が来なかったら。


 すっぱりと貴方のことを忘れましょう。

 未練がましく貴方のことを想うことをやめましょう。

 貴方がよく通るであろう道を通っても、貴方がいるかもしれないなどと変に期待をして周囲をこっそりと探すのはやめましょう。

 貴方と過ごした二年間の甘酸っぱく、こそばゆい様な記憶も、胸を締め付けられるような想いも全て、胸の中に留めておきましょう。


 それでも、私が貴方のことを忘れられず、引きずっていたら。


 私のことを手酷く振ってください。

 これ以上にない罵声と侮蔑を含めて、私を突き放してください。

 そして、あの別れの日に貴方に話しかけられなかった臆病な私を許してください。ただ、それだけが私の願いです。


 思えば、私が本を読んでいて貴方が話しかけてくれたのが出会いでした。

 朝、声を掛けると笑顔で返してくれ、なんてことはない事、些細なことで私を褒めてくれた貴方。

 風邪を引いていたのは貴方なのに、私が風邪を引かなかったか心配してくれた貴方。

 共通の本が好きな時は嬉しくて跳びあがりそうでした。

 私に、沢山の素敵な思い出を与えてくれて、ありがとう。


 どうか貴方が、目指す高みへと到達できますように。

 いつか――いいえ――今でも、素敵な人と出会っていますように。

 それだけが、私が祈る貴方への最後の想いです。

過去だろうと現在だろうと未来だろうと。

純真な恋愛ができるならどれほど幸せか。

現実の恋愛がいかにおどろおどろしいものかも知らずに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一途な想いが伝わってきます(T_T) [一言] 「相手が温かいところで笑っていられる事を祈ること」が愛だと聞いたことがあります(^O^) せめて相手の方が幸せであることを祈ってますm(__…
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