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チャイムが鳴ったら告白を

作者: 無一文吾

5作目となります。

色んなジャンルに挑戦しようと思い今回は恋愛物です。

感想や評価などいただければとっても嬉しいです。

「私、先輩に告白しようと思うの!」


 そう声高らかに宣言したのは、私の無二の親友である友梨子だ。

 時間は放課後午後5時半、場所は私たちの教室、状況としては机合わせで二人きり。

 いつものように部活をサボって適当に、女子二人で駄弁っていたところ、ふと会話が途切れて一瞬の沈黙が訪れたその瞬間、友梨子がそう言いだしたのである。


「へえ、いつ?」


 前々から友梨子が「先輩のことが好き!」とか「カッコいい!」とか言っていたのは知っている、というか何度も直接聞かされていたが、こうしてついに告白宣言をしたのは少し驚いた。

 普段は軽々しく「好き」だとか口にしても、はっきりと「告白する」という明確な意思表示をしたことは一度もなかったのだ。


「もちろん今日! 部活終了のチャイムが鳴ったら即刻告白するつもり!」


 なるほど、どうやら本気のようだ。

 私としてはもちろん、大切な友人である友梨子が思いを遂げ、好きな人と幸せな日々を送るということを切に望んではいる。

 しかし、その好きな人、つまりは「先輩」がろくでもない人物ならば、友梨子の今後が不幸でいっぱいになってしまう。

 というか「先輩」がろくでもないクズということを私はよく知っている。


「マジで告白すんの? そこらで悪い噂が流れまくってるようなやつだよ?」


 友梨子には是非とも幸せになってもらいたい。「先輩」への恋心をどうにか断ちたいところだ。完全にばっさりと。


「噂なんてあてにならないわ! 自分の目で見た先輩が素敵ならそれでいいの!」


 恋は盲目とはよく言ったものだ。それどころか私の言葉もきちんと聞こえてないようだ。遠回しに告白は止めておけと言っているつもりなのだが。

 まあ、前々から「先輩」とあまり関わらない方がいいとはこれも遠回しに伝えていたにもかかわらず、結局こうして告白しようとするのだから仕方ないのかもしれない。


「あれよ? 小学生のとき万引きの常習犯だったのよ?」

「きっと他の誰かがやったのを庇おうとして自分で罪を被ったんだと思うわ!」

「中学生のときは喧嘩三昧の日々で、他校の生徒を毎日のようにボッコボコにしてたって有名な話を聞いたことあるでしょ?」

「たぶん全部が正当防衛だったり、自分の学校の生徒を守るために戦ったのよ!」

「高校に入ってからもサボりまくりの怠け者でついには留年したりするようなアホよ?」

「おそらく家庭の事情で授業に出ることも難しくて、止むに止まれず学校休むしかなくて出席日数が足りなかっただけかもしれないわ!」


 くそう、何を言ってもプラスに転換するな友梨子は。真偽についてはさておいて。

 もう適当に、友梨子がドン引きするレベルの「先輩」クズエピソードを捏造してしまおうか。どうせ既に有ること無いこと噂されているのだし、一つ二つ増えたところで構わないだろう。


「落ち着いて聞いてね友梨子、実は――」


 あなたの好きな「先輩」は連続殺人だったり男女問わずの強姦だったりで少年院に入れられていたことがある、と言おうとしたのだが――。

 学校中に響く金属音によって、その言葉は止められてしまった。

 時刻は午後6時半、部活終了時刻のチャイムだ。


「6時半、か。部活終了のチャイム鳴ったけど、本当に今から告白するの?」


 やっぱり今日は止めておこうかな、ちょっとトイレ行きたくなったからまた今度にしようかな、なんて友梨子が言うのを期待しながら、彼女の顔を見る。


「もちろん! もう決めたことだもの!」


 友梨子の表情は明るい笑顔。

 ああ、ついに「先輩」への思いを諦めさせることは出来なかったか。

 こんなに優しくて可愛い友梨子が、誰よりも大切な友梨子が、「先輩」というクズに恋心を寄せている。

 それは私にとって、凄く、凄く悲しくて辛いことだ。

 だって私は、私は。


「じゃ、というわけで――」


 友梨子はいそいそと、席を立ち、鞄を手に取り、椅子にかけていた上着を羽織り、一つ深呼吸をしてから。



「――ずっとずっと好きでした! 私と付き合ってください、先輩!」



 私に、告白をした。


「ええと、前も言ったけど、私なんかとあまり関わらない方がいいって。ね?」


 私は、万引きや喧嘩などの悪評が付きまとうやつだ。ろくに勉強もせず留年してしまうようなアホなやつだ。

 友梨子と距離を置いた方が良いとずっと思いつつ、友梨子と一緒にいたいという自分の気持ちを抑えきれなかった卑怯で半端者なクズだ。

 だから、友梨子の気持ちは泣きたくなるほど嬉しいけど、私なんかと一緒にいることで友梨子も悪評の巻き添えになるのが泣きたくなるほど悲しいのだ。

 それでも、それでもこれからも一緒にいたいと、今もなお思う、どうしようもないクズが私なのだ。


「わ、私は、ほら、だから友梨子は私なんかと一緒にいるより、ちゃんと同い年の友達と遊んだりしてた方がいいって。友梨子の気持ちは本当に嬉しいけど、でもさ、他の人の目とかあるじゃん?」


 でも、やっぱり友梨子のような素敵な子と、私が一緒にいるべきではない。

 今も昔も、私を「先輩」と慕ってくれる友梨子を、これ以上汚すわけにはいかない。

 友梨子の評価を落とすわけにはいかない。


「だ、だから――」


「いや、そういうのはどうでもいいんだよ!」


 女々しく言い訳を探す私の言葉と気持ちを飲み込むように、友梨子の声が教室に響き渡った。


「私は先輩のことが好きなの! これまでずっと好きだったし、これからもずっと一緒にいたいと思うから、今日こうして勇気を出して告白したの! 他の人は関係ないし出番もないし、これは私と先輩だけの話だよ!」


 友梨子は、はっきりと言う。


「私は先輩が大好き! 付き合いたい! いちゃいちゃラブラブしたい! それで先輩の答えは、気持ちはイエスかノーかどっちなの!」


 熱い、熱を帯びた友梨子の言葉はが、静かな教室に、いや、私の心に響く。

 私はどうしたいのか。私の気持ちはどうなのか。他人は関係ない、私自身の心は。


 答えはもうとっくに出ているのだけど、それを上手く言葉にできず、何か探すように視線をさまよわせてしまう。


 ふと目に入ったのは、教室の壁にかけてある時計。

 今の時刻は午後6時55分。


 午後7時になれば、完全下校時刻のチャイムが鳴る。

 その時間まであと5分ある。


 じゃあ、その5分間よく考えよう。私の気持ちを込めた言葉を。

 私たちのこれからについてよく考えた大切な言葉を。

 そして7時になったら、チャイムが鳴ったらそれを口に出そう。


 チャイムが鳴ったら、私の心を――。


読んでくださった方、本当にありがとうございます。

書いてから気づいたのですが登場人物の外見描写が全くありませんでしたね。

そういうところも今度は意識してみたいです。

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