ポップコーンパーティー
2作目となります。
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ポップコーンを知ってるかい?
老若男女が楽しめる、我々庶民の身近なお菓子。安くて美味しいベストスナック。
ポップコーンを知ってるかい?
サクサク軽ぅく食べられる、娯楽の際には必需品。映画に劇場、スポーツ観戦、どんなときでも手元にあれば、楽しいことはさらに楽しく最高に。
ポップコーンの魅力を知ってるかい?
もちろん味も安さも手軽さも、まさにポップなその魅力。いやいやしかし何よりも、やはり「ポップ」の文字通り、破裂爆発弾け飛ぶ、その製法こそが素晴らしい。
「……というわけで、ポップコーンの持つ最高の魅力を皆様にも是非とも味わっていただきたいと思い、本日はこうしてポップコーンパーティーを開いたというわけでございます」
少々興奮した様子の老紳士は、ポップコーンが入ったバケットを片手に、招待客に向けて壇上から挨拶する。
朗々とした声ゆえにマイクを使わずとも、大広間には彼の声が隅々まで響き渡る。
席に着いている招待客らは一言もしゃべらず、ただじっと老紳士の声に耳を傾けている。彼らの手にはもちろん、それぞれしっかりとバケットが握らされている。中身は言うまでもないが、あえて言おう、山盛りのポップコーンだ。
「皆様ご存じのとおりポップコーンは、乾燥させたトウモロコシを炒って膨張、破裂させたものでございます。私は、ポップコーンの最大の魅力とはこの製法であると昔から信じてやみません。そもそも、ポップコーンの起源は……」
老紳士は熱が入ったようにポップコーンについて語り始める。
起源や歴史、より詳しい製法、文化との繋がり、豆知識、ただただポップコーンについて語り続ける。熱々のポップコーンが冷めてしまうほどに長々と。
しかし、招待客らはそれに文句の一つも言わず、その手にあるポップコーンを食べることもなく、身じろぎせずに彼の話を聞いている。
身じろぎせずに、怯えたように、彼の話を聞いている。
「……おっと、話が長くなりましたかな。折角皆様のために用意したポップコーンが冷めてしまいますな。ああ、いえいえ、大丈夫ですよご安心ください。きっと十分に温まりますでしょうから」
老紳士はにこやかに、子供のように無邪気な表情で笑う。
その目線は自分の手元にあるポップコーンだ。これを美味しく食べる、招待客らにも美味しくポップコーンを食べてもらう。それがこのパーティーの目的であり、彼の楽しみなのだ。
この日のために、彼は多くの金と時間を費やして準備してきた。
「さあ初めに言った通り、ポップコーンの最大の魅力はその製法でございます。ダイナミックに弾け飛ぶその様は他のどんな娯楽よりも、映画やスポーツ観戦よりも、見る者を楽しませてくれるものです」
恍惚と、興奮が膨らみ溢れそうな声で彼は言う。
「すなわち、弾け飛ぶ様を見ながらポップコーンを食べる、これが最高の娯楽であり贅沢なのでございます。それこそポップコーンという至高の菓子を堪能するにあたってこれ以上のものはないと言えるほどにいいえ断言できるほどに我々がこの世に存在する他の何事にも勝る快楽を得られる唯一の手段でありましょう!」
彼の興奮は膨張し、今にも弾け飛ぶ寸前だ。
「むしろ、ポップコーンこそがこの世で最も価値あるものであり! それを食することで私たちは素晴らしい存在であるポップコーンに近づけるのです! そうポップコーンこそ、ポップコーンこそが!」
弾けそうで、弾けそうで、そして、中から出てくるものは。
「それでは、どうぞご堪能ください」
静かに弾け飛んだ狂気が、しんとした大広間に響いた。
一瞬、ポップコーンが床に落ちる音が聞こえるであろうほどに、大広間に静寂が満ちた。
しかしその直後、耳をつんざく轟音が、大広間を覆い尽くす。
突如、招待客の中の一人が、爆発したのだ。
正確には、招待客の中の一人に巻きつけられていた爆弾が爆発した、である。しかし爆弾は服の下の素肌に巻きつけられていたので、外目には見えない。傍から見れば招待客が爆発したで間違いはないだろう。
目の前で誰かが突然爆死するというだけでも言葉にできない恐怖と焦燥であろうに、自分と同じくパーティーに参加した、いや、させられた者が、というならば、もはや想像を絶するはずだ。
にもかかわらず、他の招待客らは逃げない。もちろん、逃げられないのだ。
「さあさあ! どうぞお手元のポップコーンをお召し上がりくださいませ! 爆発の熱で程よく温まっているでしょう! さあ! 最高のポップコーンをご賞味あれ!」
老紳士は美味しそうに、実に美味しそうに、幸せそうに、満足そうに、ポップコーンを口に入れている。
この娯楽のために、この日のために、法を犯すことなど躊躇いもせずに彼は準備してきた。誘拐、拉致、監禁、爆弾の準備、そして何よりも、最高級と言えるポップコーンを味も様々に人数分用意する。財産のほとんどを費やしてたった一人で今日の全てを用意した。
自分のためだけではない。少しでも多くの人にポップコーンの魅力を楽しんでもらうという純粋な善意のために。
「皆様にご用意した爆弾は数十秒ごとにランダムで爆発します! 他の方が見事に弾け飛ぶ様を味わいながら! ポップコーンを堪能しながら! 自分がポップコーンのようになる最高の瞬間を心待ちにしながら! どうぞこのポップコーンパーティーを最後までお楽しみください!」
老紳士は幸せの絶頂にいて、招待客らのことが見えていない。
招待客らは全員、鎖やロープで椅子に縛り付けられている。服の下には爆弾。
拉致監禁されたうえにこのような事態に置かれ、恐怖のあまり言葉も出なかった彼らが、こんなポップコーンパーティーを楽しめるはずがない。
実際に誰かが爆死するのを見て、今は必死に命乞いや悲鳴を口から吐き出しているが、別の誰かが爆発する音にその声はかき消されてしまう。
ただ、たとえ爆発音が無くとも、老紳士には彼らの声は届かなかっただろう。
度重なる爆発により、大広間は熱気に包まれる。
招待客らの手に無理矢理縛り付け、握らせたポップコーンから湯気が立ち上るほどに。
「さあ! さあさあさあ! この素晴らしいパーティーを存分に! 存分に最後までお楽しみくださいませ!」
ポップコーンを知ってるかい?
老若男女が楽しめる、我々庶民の身近なお菓子。安くて美味しいベストスナック。
ポップコーンを知ってるかい?
ときには誰かを魅了して、おかしくさせちゃう素敵なお菓子。
ポップコーンの魅力を知ってるかい?
知らないならば是非おいで。そこならきっと分かるから、ポップコーンの素晴らしさ。
いらっしゃい、ステキなポップコーンパーティーへ。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
少しでも楽しんでもらえるよう今後とも頑張りたいです。