8:コイツ本気でゲス野郎だわ
あらすじ
気持ち悪いオッサンと決闘することになりました
今回も少々ゲスいです。ご了承下さい。
【エメフラの町・中央広場】
◆
「もう始まってるで結構です。さっさと終わらせましょう」
目の前の男は不愉快極まりないが、それでも中級以上の冒険者であり、この世界に来て初めての「人間」との戦いなのだ。
胸の中に晴れないもやのようなものを抱えたまま半身に構えを取り、私は細剣「ウルヴズレイン」を構えた。
グレイは、軽く舌打ちをすると小剣をだらりと下げ、ゆっくりと前傾しながらこちらに向かってくる。
顔を突くのはまずいが、細剣での薙ぎ払いは勢いを付けられると威力が殺される。
相手を無力化させるには、体の大きい部分を狙うしかない……
低い姿勢で加速ながら向かってくるグレイに対して、私は剣を持つ左肩を狙って突き下ろす。
「初撃で突くなんざ甘ぇんだよぉ!」
私の放った突きを回転しながら鎧でいなし、その反動を活かして斬り上げてくる。
私は僅かにずらしていた重心を利用して、その攻撃を横っ飛びに回避する。
『間抜けな初撃かと思ったら、突く段階で避けるのも織り込んでやがったな……!』
グレイは目の前の少女の腕前を上方修正する。
開始と同時に勢いに任せて組み伏せて無力化できるかと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
相手が比較的大きなステップで回避したせいで、再び間合いが開いている。
近づけば小剣の間合いだが、少しでも距離が開けばリーチの長い細剣の方が有利になる。
なんとか間合いを詰めて、無力化することを狙うのが上策か……
グレイは先ほどの直線的な攻撃から一転、目の前の少女を中心に円を描くように、時計回りに動きながら牽制するように小さな動きで剣を振る。
それに対して、少女は間合いの近いものだけを細剣で軽く払いつつ、巧みに距離を取る。
『刃物が目の前でチラついてるのに落ち着いてやがる。なかなか訓練されてんじゃねぇか』
目の前の男の動きは予想していたより早い。
ローザの使ってきた「アイスランス」の魔法より早いわけではないが、直線的に見えて直線的でなく、今も私を中心に時計回りに動きながら微妙に間合いを詰めてくる。
対人戦闘の経験のある人間が、相手を無力化するために動く動きというのは、これ程捉えにくいものか……
正直私がもっと楽に勝てると思っていた。
常に背面を狙って動いてくる為、攻撃を当てるためには体を大きく開かなければならないが、そんな動きををして体の正面を向けてしまえば、相手の的を大きく攻撃部位を晒してしまう事になる。
グレイの10何度目かの攻撃。
牽制にしては深く、それでいて踏み込んで突けば反撃されてしまうような、そんな微妙な距離からの攻撃をはじいた時、目の前から男が消えた。
『!?』
その瞬間、首筋にイヤな感じを感じた私は、払った動きの勢いを利用して横転しつつ、反射的に剣を振るう。
「チッ!勘の鋭いお嬢ちゃんだぁな」
不機嫌さを滲ませてグレイが言う。
直前まで視界に入れていたはずの男が、いつのまにか私の真後ろに出現していた。
「あー、割とやるねあのヒゲ。ほとんど予備動作ナシで「瞬動」使ったわ」
『何それ?』
「瞬間的に肉体強化をするスキルの1つだよ。基本的に決まった型があるんだわ。「瞬動」は相手との距離を詰めるのに使われるね」
まぁ、あのタイミングで背後を取って仕留められないようなら、ラナが負ける要素はないだろう。
僅かだがグレイという男が剣をふるスピードより、気付くスピードの方が速い。
『ふむふむ、よーしラナー! やっちゃえー! ぶっ倒せー!!』
ヒートアップするクスクスに大してローザが投げかける。
「まぁ身体能力的に、あのゴミ男がラナちゃんを上回っていないのは分かったけど、ラナちゃんなんだか戦いにくそうなのが気になるのよねぇ」
スキル「瞬動」を使った虚実を混ぜた攻撃がことごとく空を切り、切り払われる。
右から左へ、前から後ろへ、さらに一気に距離を詰めての至近距離からの攻撃も、目の前の少女に一度も届いていないのだ。
その動きの良さに思わずグレイは嘆息する。
彼の使う「瞬動」は上位の身体スキルであり、上級冒険者でも使えない者がいる、グレイの切り札的なスキルなのである。
特 に予備動作を極限まで削ったグレイの瞬動は過去に何度も窮地を救っており、蔑称にしか聞こえない「ドブネズミ」も、彼を捉えきれないという賞賛でもあったのだ。
『なんでこうも避けれるんだよぉ!』
コイツは瞬動で再出現してから、剣を振り切るより早くこっちに感づいてやがる!
目の前の少女の圧倒的な運動量と直感力に、グレイは歯軋りをする。
しかし、勝つ方法がない訳ではない。
見る限りギリギリでしか回避できていないのだ。
あれだけ気を張り詰めていれば消耗も早い筈。
戦いの主導権は俺が握れている。流れはこちらにあるはずだ。
『馬鹿正直に剣を振ってもらえると思うなよ……』
もとより嵌めてから殺すのがグレイのスタイルなのだ。
そして目の前の獲物を追い詰めるために、再び攻撃に移った。
『ちょっ! なんこの物理法則を無視した動きっ!』
楽勝かと思っていたオッサンの動きが急に速くなって、私はちょっと焦っていた。
いや、速いというか見えない! これもうワープじゃん!?
なんとなく空気の動きとか、死角に来ることを読んで回避しているけど、ぶっちゃけこの体のスペックがなかったら避けきれてないぞ!
焦ってはいないが必死だ。
しかも、グレイという男がワープ攻撃を始めてから、ここまでの間はひたすら防戦一方。
『でも……』
ある程度の傾向は掴めて来た。
基本的には初撃の逆方向に出現して、ワープをするのは必ず私が切り払った時や反撃の予備動作を見せた時……多少は体勢を崩している時だ。
『傾向さえ分かれば……!』
相手のワープ誘った上で相手の攻撃を逸らし、逆に隙を突いてやれば勝てる!
時計回りの動きから、横薙ぎに切り込んで来るのを「ウルヴズレイン」で切り払う……その予備動作を感じ取ったのか、グレイが視界から消える。
よし、これは想定通り。
私はそのまま右後ろにバックステップ気味に踏み込み、体を回転させつつ反転する。
男がそれまで私の背後だった位置に出現したて剣を振るが、既に私はその射程外に入っている。
「……てぇぇぇぇぇいっ!」
虚を疲れた形になったグレイは、剣の勢いを止められない。剣を振り切った無防備な姿勢で、全身が晒されている。
そして、その隙を狙った私の攻撃が、グレイの太腿に吸い込まれる
柔らかい抵抗を感じつつ、目の前の敵から機動力を奪うべく私は更に力を入れて突き込む。
「ぐあぁ! 糞がぁ!」
グレイが苦し紛れに振った剣を、私は「ウルヴズレイン」を引き抜いて回避し、再び距離を取る。
「これで勝負ありましたね!」
かなり息があがってきたが、私の剣が突き刺さった傷は浅くない。
男のズボンには大きな赤い染みが広がり始めており、先ほどまでのような速い動きをできるほど浅い傷ではない筈。
この勝負において、有効打であることはまちがいない。
私は勝利を確信し、剣先に付着した血を振り払うように剣先を振り下ろした。
「ぐ……いやいや、お嬢ちゃん。こんなカスリ傷を付けた程度で降参させるんですかい?ずいぶん甘っちょろい勝負もあったもんですなぁ」
俺は「こっちも大口の取引抱えてるんでね」と軽口を叩くが、傷は決して浅くない。
さすがにこのザマじゃあ瞬動を使ってのかく乱はできねぇ……溜めに入ったのを、目の前のやたら勘の良いメスガキが気付かないはずがねぇ。
間合いは既にあっちの間合いに持ち込まれてる。おーおー構え直しやがった、あの若さで馬鹿強ぇクセに油断ねぇこった。
無意識で軽く舌打ちが出るが、まだ勝負はついていない。
『熟練冒険者の味ってのは、こういう所から出るもんなんだよぉ!』
相手をグチャグチャに汚してやりたいという欲求が高まる。
ああそうだ、あの勝ち誇った顔を、ドロッドロの屈辱に染めてやって、許しを請わせてやるんだよ!
暗い情熱で、俺は目の前の敵に対して剣を向けるのだった。
「まだ、やるんですか?」
「当然だろうが?」
再び広く間合いを取って構え直した私に対し、平然と男は言う。
グレイという男は痛みを感じさせない動きで、真っ直ぐに歩いてくる。
そして、私の射程距離に入るほんの手前。
ギリギリの間合いから、剣を左手に飛び込んで来た。
傷のない足で地面を蹴って飛び込みの加速を維持しているけれど、そのせいで体勢が不安定になっている。
『武器を弾き飛ばしてしまえば!』
私が相手の左の手首を狙い、ウルヴズレインで鞭のように打ち据える。
「……ぐっ!」
打ち据えられた衝撃で、低く声を上げて小剣を取り落とす。
まだ負けではない。ここまでは織り込み済みだ!
相手の剣は俺の左腕を打ち据えている。武器は落ちてしまったせいで手の届く距離じゃねぇ。普通なら勝利を確信するような場面だろう?
だが、緊張が解けた瞬間……この状況で逆側から攻撃されたら、お嬢ちゃんは反撃できるのかい!?
俺は右の袖口に仕込んでいた隠し武器、柄が小さく携帯性に優れたダガーを、手馴れた動きで掴む。
『ちょっとばかり傷が残っても恨むなよ?』
俺は、無防備に晒された白い肌に向かって、渾身の力を込めて突くだけだ……!
無理な体勢からの踏み込みの隙を突き、私は相手の武器を叩き落とすことに成功した。
勢いを以って振り下ろされた剣は、そのまま大地に触れ、私は息をつく。
そして、降参をうながそうと、相手に向かって目を向けた時、鈍く光る刃が迫っていた。
一瞬の困惑。
ウルヴズレインは完全に振り下ろしてしまっている。
時間がゆっくりと流れ、全身から汗が吹き出る瞬間までもが自覚できる。
加速した意識の中で、グレイの短剣がゆっくりと近づいてくるのが見えるが、同時に私の剣と相手の武器の距離は1m近くあって、この体勢からでは逆側から迫る短剣を弾き飛ばせないのを認識してしまっていた。
『嫌だ!このままだと……!』
その先端が私の腹に触れ、薄皮を押し込み、そしてその膜を貫こうとしてくる……
周囲のヤジ馬達から叫び声が上がる。
気の弱いものは、顔を覆って目を伏せている。
彼らの中心にいた2人の決闘者の間に、初めての血が流れた。
白鮎のような美しい腹部を短剣で切り裂かれ、鮮血の下で屈服する美しい少女。
『これでお前も俺の奴隷だ!』
頭を垂れ、媚を売る少女。
俺に逆らえない、どれほど屈辱を与えても、どれほど汚してやっても俺から離れられない便利な玩具。
これから訪れる未来を夢想し、グレイの表情が喜びに歪む。
だが、
『パキン』
と、軽い音とともに、彼の下卑た想いを乗せた刃は、粉々に砕かれていた。
『何、あれ・・・!?』
クスクスが、目の前で起きた現象を理解しきれず、声を漏らす。
「なんなのかしら、あれスキルなの……!」
一連の状況を把握できたローザも驚きの声を漏らす。物理現象としておかしいのだ。
「いや、分かる……多分」
分かるといいながらも、アルザの声が震える。
「あんな芸当ができるのは、幻のスキル「居合い」しかないはずだわ」
「居合いですって?」
「ああ、使えるヤツも知らない。アタシも口伝で、一度だけ聞いたことのあるスキルなんだ」
鞘に収めた状態から神速で剣を抜き放つ事で、「斬ると認識した全てを斬り殺す」幻のスキル。
相手の認識を一瞬逸らせて瞬間移動に見せかけるスキルはある。瞬動だ。
瞬動は、相手の認識をずらしつつ高速で死角を移動する事で実現する「2者間でしか完全には成立しない」スキルだ。
しかし、居合いは違う。認識のズレでも単純な剣の速度でもなく、「使用者が斬ると認識したもの全てを一度の抜刀で斬り捨て完全に破壊する」という、魔法の法則をも越えると言われるスキルなのだ。
刺されたと思った瞬間、相手の武器が粉々になってたぜ?
ぶっちゃけ何をしたか記憶にない。
いや、何が起こったのかは分かりますよ?
右手にウルヴズレイン、左手には逆手に握ったフラガラッハ。多分お腹を刺される直前に、フラガラッハの武器破壊の特性で短剣をブッ壊したんでしょうよ。
でも……
『あのタイミングでなんで間に合ったのかが分からん・・・』
分からんのである。
お腹に剣先が当たった感触もあったし、あーほら、ちっちゃく傷ついて血が出てる。まぁ物凄い少量なんだけど。
あ、目の前のオッサンが滅茶苦茶目を見開いてこっち見てる。
ゴホンッ! とりあえず奥の手っぽいのは退けられたみたいだし、ズバッと言っちゃおう。
「今度こそ、私の勝ちですね」
分からねぇ。何が起こったのか全く分からねぇよ!
俺のダガーは嬢ちゃんに届いたはずだ!
あのタイミングで避けられるワケねぇし、まして武器の持ち替えだの取り出しだのが間に合うはずがねぇ!
「ふざけんじゃねぇ!」
なんだその顔は?
「あのタイミングで無傷なはずがねぇ! 誰かに助け船でも出してもらわなきゃありえねぇ!」
俺は叫ぶ。
「あのクソ忌々しい魔法使いの女にでも何かやらせたんだろうが!? 俺は認めねぇ! 認めねぇぞ! お前の反則……そう、反則負けだぁ!!」
「いや、避け切れてないですよ、ちょっと怪我もしましたし。それに貴方の短剣を壊したのは、状況的にどう見ても私の小剣ですよね?」
両手に持った剣を順番に鞘に収めながら、目の前の女がこちらを見る。
「ありえるわけねぇだろうが! おいヤジ馬ども! 何とか言えよ! コイツがズルしましたってよぉ!」
周 りを見渡すが誰も声を上げやしない。なんだよ?日和見どもが、こんなところで正義感ぶって俺を追い詰めようってか?
「何とか言えよおい!女相手だからって贔屓してんじゃねぇよ!」
「お前の負けだゲス野郎!」
「見苦しいんだよ!この冒険者の恥が!」
「そうよ!エルフだからって鎖で繋ぐなんてこの人でなし!」
叫び続ける男に周囲は罵声が降り注ぐ。
なにやら大声で喚いている所を見ると、さっきの短剣破壊で打ち止めのようだ。
「思ったほど仕込はなかったようね」
ローザが呟く。
『まぁあのくらいは当然よね!』
などと直接戦闘力皆無のクスクスまで偉そうにしている。何言ってるんだか。
延々とギャラリー達にほえ続ける姿を見て、私は戦闘態勢を解き、グレイ・ランドに視線を合わせる。
これでもう勝ちはないと納得するしかないはずだ。
「もういいでしょう。これでしょうぶあひでふふ!」
おおう! ちょっとキメを入れる場面のはずなのに、噛んじゃったよ! 恥ずかしいっ!
落ち着け! 町の人たちの視線がちょっと可愛そうな子を見るような感じになってるぞ!
深呼吸してもう一回だ。
「ひょうふは……」
いや、ちょっと待て!
何か変だ。舌だけじゃなく体全体がちょっと重い。というか、ほぼ無傷で勝ったはずなのになんか手足が震えてる……?
震えが全身に伝わっていくような感覚の後、筋肉が弛緩したように膝が落ちる。
「あえ?なに?」
私は力を入れて立ち上がろうとしたところに、
「形勢逆転だなぁ! おらぁ!」
それまで喚きたてていた男が、男が蹴りを入れてきた。
咄 嗟に腕で防ごうとしたが、痺れのせいで防ぎきれずに、私は地面に倒れこむ。
「おう、どうしたお嬢ちゃん? 俺の奴隷になりたくなって、勝ちを譲ってくれるのかなぁ?」
色々言われたが、俺に惚れたのか? などとふざけた事まで言ってくる。
「ひょんなこほはあひまへん!」
「がはは!何言ってるのか分かんねぇよ!」
嘲笑してくる男に対して、現状歯噛みすらできない。噛み合わせも合わないくらいに、全身に震えが広がってきている。
「震えちゃって可愛いねぇ! そんなに怖いなら止めちまえよ? なぁ?」
どう見てもお前の負けだけどな、などと私を見下ろしてくる男に対して、震える体の中から筋肉を総動員して立ち上がろうとするが、その動きはあまりにも緩慢だ。
目の前の生まれたての小鹿ショーを見て、グレイは満足気に鼻を鳴らす。
『おうおう、よく頑張るこって』
視界の端で馬鹿なお嬢ちゃんを眺めつつ、弾き飛ばされた小剣を取りに歩く。
刺された脚が痛むが、目の前の少女の体たらくでは、手負いの状態でも害される心配はない。
「ほう、今の状態でよく立てるな」
少女は痙攣のように全身を震わせながらも立ち上がり、気丈にも震える手を細剣の柄に掛け、強い意志を秘めた目でグレイを睨んでくる。
しかしそんなものは、彼にとっては食後のデザートのようなものでしかない。目の前の少女を如何に堕としていくかという、彼の趣向におけるスパイスにしかならないのだ。
「折角立ち上がったご褒美だ。種明かしをしてやる」
拾い上げた小剣の腹を手で叩きつつ、グレイは続ける。
「お前さんが最後にぶっ壊したダガーなんだがな、あれは即効性の痺れ薬が大量に塗られてるんだよ」
少女からの視線の強さは変わらない。折角の機会だ、完全に心を折っちまおう!
奴隷契約の術式を結ばせたら、後はエルフと並べて町中散歩してやってもいいなぁ!
「俺が喚き散らすのを見て滑稽だっただろ?残念だったなぁ。ありゃただの時間稼ぎなんだよぉ!痺れ薬が効いてくるまでのなぁ!」
あぁ、笑いが止まらねぇ。
「もう分かってるだろうが、お前の未来は奴隷しかねぇぜ?俺専属のなぁんでも言うことを聞く奴隷だ。きっちり可愛がってやるから期待しろよぉ!」
あえて下品に煽ってやると、こちらを見る瞳の中が不安に揺れている。
「なぁ?降参だろ、言えよ「負けました」ってよ?」
こちらが身動きできないのをいいことに、ゲス男が勝手なことを言う。
何が奴隷だ! 可愛がってやるだよこの変態! ロリペド野郎! 私が丹精込めて作ったこのボディを嘗め回すように見るなよ! キモイ! ウザイ!
心の中で罵倒しながら、崩れそうな体を支える。
剣の柄に手を掛けてはいるけれど、限界まで頑張っても1回攻撃できる余力があるかないか……
まずい……一撃で倒せるような手段が思いつかない。
目の前の男にどうやったら逆転できるのか。
麻痺なんぞを付着されたこのコンディションで、どうやったら勝てるのか。
優位に立ち、目の前で卑猥でゲスな言葉を並べ続ける男を、私は怒を込めて見据える。
私は思考を手放してしまわないよう、怒りに薪をくべ、ただ勝つための手段を探すのだった。
つづく




